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ネオ・テラ:降下者セトの選択 ―あの日の残業、2000年後の誓い―  作者: totoさけ
2000年前からの来報

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交錯する意志

エイセフォール王国の王城、その奥深くに位置する王の間。ステンドグラスから差し込む柔らかな光が、重厚な石造りの床を照らしている。


その冷たい石の上に、第3近衛騎士隊隊長バルトは膝を突き、深々と頭を垂れていた。彼が跪くその先、玉座にはエイセフォール王国を統治する男が座している。男は沈黙を守り、ただ思考の海に沈んでいた。


「……で、バルトよ。その『白銀の騎士』なる男、諸外国……帝国、あるいは共和国や連合国からの間者の可能性は、いかほどだ?」


王の声は低く、しかし威厳に満ちていた。バルトは顔を上げず、あの戦場での光景を脳裏に呼び戻す。


「……申し上げます。あの圧倒的な力、そして未知の武装。……もしあれが諸外国の秘密兵器であるならば、これほど無防備に、しかも最前線の泥の中に放り出すような真似はせぬはず。単なる探りを入れるためであれば、あれほどの力を持っているのなら、最初から『攻め寄せて』蹂躙すればよいはずでございます」


バルトは一呼吸置き、確信を持って続けた。


「あの御仁が、特定の勢力の間者とは考え難い。……あの戦場において、あの方の振る舞いには純粋な『守護』の意思を感じました。何より……戦いの合間に私の名を聞き、あまつさえ『飲み友達になろう』と笑ってみせたのです。……ひどく気のいい御仁でございました」


玉座の男は、眉間に皺を寄せ、深く考え込む。その横に控えていた老宰相が、静かに口を開いた。


「バルト隊長殿の言う通りであれば、その男はどこからともなく現れた異邦人……。名のある者であれば、いずれどこからともなくその名は聞こえてくるでしょう。今はそれよりも、国内の安定と、異様な行動をとる化け物の対処が先かと」


「……うむ。宰相の言う通りだ」


バルトも小さく頷いた。


「その者が何者であろうと、今は民を救った事実は揺るぎはせんか。……ただ、そうよのう……俺も会ってみたいものよ。そんな不思議な英雄にな」


王の呟きは、静寂の中へと消えていった。


その頃、戦場から遠く離れた原生林の中。

男は光学迷彩を纏ったまま疾走していた。AIからのナビゲーションに従い、急旋回を行う。


その軌道上に、大きな牙を持つイノシシ型の変異種が立ちはだかった。男は止まらない。疾走の慣性を利用した急ターン。黒色の刀身が、振り向きざまに一閃する。


「ギャッ……!」


獣は悲鳴を上げる暇もなく、上半身と下半身が分かたれて大地に沈んだ。刀身を眺める瀬戸の視界に、汚れ一つ付着していないことが映る。


「……これって大丈夫なの? 切れ味、良すぎないか?」


はたから見れば男の独り言にしか見えない。その実は、脳内のインターフェースからミアの軽やかな声が返る。


『ダイジョブに決まってるじゃん! 刀身用に調整した超合金製のナノマシンだよ。超高速による微細振動による切れ味は抜群なんだから!……せと、早くデータ、データ!』


瀬戸はあきれつつ、自身の格好を見下ろした。


「今更だが、この格好……」


『よく似合ってますよ、紬。動きにくさとかはありませんか?』


昔見たアニメのキャラクターのような、重厚な革鎧。元は宇宙服だが、ナノマシンの改変能力で作り替えた代物だ。エマに作ってもらった手前、拒否はできなかったが、ディアーナ曰く、この世界の傭兵の格好なのだそうだ。見た目に反し、この世界では最強の防備。しかし瀬戸からしてみれば、いい年をした大人が……と気恥ずかしさを隠せない。


「いや……うん。大丈夫。動きやすいしな」


『それならよかったです』


惚れた晴れたで強く出れるはずもない。何より、今も笑顔であろうエマの顔を思い浮かべればなおさらだ。


『ねーえ、まだ?』


早くデータを送れとミアにせかされ、瀬戸は右腕をかざし燐光を放つ。

あの戦闘から1週間。ディアーナが現地人に取り付けたナノマシンにより、地上の状況が少しずつわかってきた。


「よし、データ送信完了。ディアーナ、この付近に村や町はあるか?」


[ディアーナ:はい。ここから北西に1km進んだところに、亜人種と呼ばれる方々の町があるとのことです]


ここはかつての首都があった場所の近辺らしいが、2000年前の地理など全く役に立っていない。科学力は失われ、文明の衰退により、瀬戸がいる大陸の2/3は森や草原に帰している。変異種がはびこるこの地で、人類は生存権を縮小し、大小さまざまな国や町村に分かれて暮らしているようだ。


「了解。艦長、現地人と接触してみようと思うが、いいか?」


『そうだな。ある程度は情報収集できたが、不足していることはまだ多々あるのは事実だが、しかし……』


ゼノは言い淀む。慎重な性格の彼にとって、正体不明の土地での接触は極めてリスクが高いという判断だろう。


「だが、いつかは接触しなきゃいけなくなる。特に金とか、死活問題だしな」


実際問題、瀬戸はこの国の現金を持っていない。ナノマシンで複製はできそうだが、倫理的なブレーキがかかっている。この先、情報収集や宿の利用、通行料などで金が必要になることは明白だ。


『そうですよね。紬ばかりに負担をかけて申し訳ないです。ここからではデータ解析しかサポートできない自分がふがいない……』


エマは少し後ろめたい気持ちを素直に吐き出した。


「自分で決めたことだし、気にするな。……それに、策はある」


『策ですか?』


[ディアーナ:はい。現地の生活基盤に「傭兵」という職業があることがわかりました]


『傭兵か』


ゼノがその言葉に反応した。


「ああ。この世界では、戦闘や護衛など「なんでも屋」に近い扱いだそうだ。依頼をこなしながら北上すればいいと思ってさ」


『それで現地人との接触を図るということか』


「そうだ。どうだろうか?」


ゼノはしばらく目をつむり、考え込む。


『いいじゃん。せとの今の戦闘能力なら大丈夫でしょ?最悪こっちでカバーできるし、今の格好なら「白銀の騎士」や「勇者」だとはバレないって』


ミアがデータ解析の片手間でそう言うと、ゼノはうなる。実際、ゼノが懸念しているのは、瀬戸の戦闘を見て「白銀の騎士」や「勇者」だと気づく人物が現れることだ。トラブルに巻き込まれないとも限らない。


[ディアーナ:私もサポートします]


ディアーナにまでそう言われると、反対する材料がなくなる。ゼノは苦笑し、了承するしかなかった。


[ディアーナ:瀬戸、その変異種の死骸はどうしますか?]


「どうやら現地人の食料になっているようだし、村に入るための通行料ってことでもってこうかなってさ」


瀬戸は倒した獣から燐光を振り払うと、その巨体を引きずりながら、街のある方向へ向かった。

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