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ネオ・テラ:降下者セトの選択 ―あの日の残業、2000年後の誓い―  作者: totoさけ
長い残業の始まり ―2,000年後の地球と、白銀の騎士―

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閃光の果て、決戦の終焉

「Gyaooooooo!」


戦場を支配する禍々しい咆哮が、大気を震わせる。それは単なる威嚇ではなく、空間そのものを汚染するような、粘り気のある重低音だった。鼓膜を破らんとばかりに響くその叫びは、戦場に巣食う全ての変異種たちを狂わせ、一斉に逆上させる。


瀬戸は、その咆哮を正面から受け止めながら、泥を蹴って加速した。大地が悲鳴を上げ、砕け散った土塊が後方へ吹き飛ぶ。限界を超えて駆動するナノマシンが、瀬戸の肉体から高い金属音を上げて鳴り響いていた。彼が駆けるたび、白銀の燐光が尾を引き、荒野を切り裂く。それは夜闇を切り裂く一筋の流星のように、あるいはキャンバスに刻まれる銀の刃のように、無慈悲な速さで突き進んでいく。


遥か上空の軌道ステーションでは、冷静に指揮官ゼノがホログラムの戦場データを掌握していた。


「瀬戸、これよりプロセスに移行する。ナノマシンの制御権の一部をエマへ委譲しろ。安全ロックを解除する」


『了解、艦長。……頼む、エマ!』


瀬戸の声に応え、エマが即座にリンクを繋ぐ。


「任せて! 紬の全ナノマシン、シンクロ率上昇……リミッター解除! 一部のコントロール権の譲渡を確認!」


[ディアーナ:戦術支援プログラム起動。ミア、周辺索敵の精度を最大へ。王国勢の避難ルートを再計算します]


「ディちゃん、オッケー! ……周辺の変異種、全部の位置をロックしたよ。王国の人たちを絶対に巻き込まずに、ピンポイントな射線も確定!」


準備は整った。だが、問題は敵の「回復能力」だ。

瀬戸が眼前の巨大ゴブリンに向けて跳躍する。重力を置き去りにするような跳躍で死角へ回り込み、空中で身体を鋭く捻って、ビームサーベルを逆手に持ち替えた。白銀の軌跡を描いて敵の巨躯の脇腹を深く切り裂く。高熱のプラズマが皮膚を焼き切り、肉を両断する。確かな手応えがあった。


しかし、その傷口は、瀬戸自身が有するナノマシンの自己修復能力と酷似した速度で、瞬時に閉じていく。どす黒い異星物質がうごめき、断面を接合するその光景に、瀬戸は舌打ちをした。


「……化物め。再生能力までもってるのかよ」


ゴブリンは痛覚を無視したかのように、巨大な拳を振り下ろす。拳が地面を叩き、衝撃波が瀬戸を吹き飛ばしかけるが、瀬戸はナノマシンを足裏に集中させ、強引に大地をグリップして踏みとどまった。その直後、周囲から他のゴブリンやナルムクツェが波のように押し寄せる。


「どけッ!」


瀬戸はビームガンを連射し、遮二無二道を切り開く。ビームがナルムクツェの眼球を撃ち抜き、青い火花を散らして爆散させる。だが、隙を突こうとする別の個体が背後から飛びかかる。瀬戸は振り返りもせず、肘打ちでその頭蓋を砕き、勢いそのままにサーベルで胴を薙ぎ払う。


しかし、巨大ゴブリンは執拗に瀬戸を追い、大地を隆起させる。地面に手を突き立てると、巨大な地盤そのものがせり上がり、鋭利な岩の刃となって瀬戸に向けて投げつけられた。


瀬戸は宙を舞い、飛来する瓦礫を蹴り足場にしてさらに加速する。空中で空を切る岩の破片を回避し、回転しながらビームガンを撃ち込み、再度、巨大ゴブリンの懐へと飛び込む。回避、接近、そして攻撃。一進一退の攻防が続く中、瀬戸は己のナノマシンの限界を超えた出力を引き出し続け、全身から白銀の蒸気を噴き上げていた。


『準備完了。ミア、そっちは?』


エマの声が脳内に響く。


『ミアも全座標特定完了だよ! ここだ……この位置なら、王国の人たちを巻き込まずに一撃で消し飛ばせる! ディちゃん、誘導をお願い!』


[ディアーナ:了解しました。瀬戸、目標座標へターゲットを誘導してください]


瀬戸は即座に戦術を切り替えた。あえて防戦一方の素振りを見せ、巨大ゴブリンを誘導する。苛立ったのか、巨大ゴブリンはさらに咆哮を上げ、瀬戸を追って指定の座標へと踏み込んだ。


「……今だ!」


瀬戸がその場でビームガンを構えると、体内に宿るナノマシンが連動し、右腕から銀の流体金属が噴き出した。それはビームガンの砲身を飲み込むように覆い、白銀のしかし重厚な長砲身のプラズマキャノンへと変貌する。


砲身の内部では、過剰に圧縮されたプラズマが暴風のように駆け巡り、凄まじい光を放っていた。そのあまりのエネルギー密度に、周囲の空間が歪む。異常な光の渦に、巨大ゴブリンすらも恐怖を覚えたのか、その動きを一瞬止めた。


「全エネルギー、砲身に集中! 出力限界突破!」


エマの叫びとともに、プラズマの輝きが極限まで高まる。


巨大ゴブリンは恐怖を押し殺すようにして、やけくそ気味に瀬戸へと突進してきた。その眼に映るのは、自らの破滅を予感させるまばゆい白銀の光。


「……食らえ!」


瀬戸が引き金を引いた瞬間、戦場の闇を塗り替えるほどの大閃光が解き放たれた。


圧縮されたプラズマが直線となって突き抜け、戦場を支配していた深い夜の闇を、昼間のような白銀の光で完全に包み込む。それはただの破壊光線ではない。ナノマシンが敵の細胞構造を読み解き、分子レベルで分解する消滅の閃光だった。


巨大な影は断末魔すら上げる暇もなく、光の中に溶け、消えていく。その光の奔流は、周囲の変異種たちをも巻き込み、エイセフォール王国の空を照らし出すほどの輝きとなって、夜の帳を焼き払った。


瀬戸の腕から、砲身を形成していたナノマシンが霧散し、静寂が戦場に訪れる。深淵の支配者がいた場所には、ただ光の残影だけが焼き付いていた。

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