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ネオ・テラ:降下者セトの選択 ―あの日の残業、2000年後の誓い―  作者: totoさけ
長い残業の始まり ―2,000年後の地球と、白銀の騎士―

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激震の戦場、牙を剥く支配者

戦場の喧騒が、少しだけ遠のいた気がした。


バルト・セルシュは、泥と血に汚れながらも、今にも倒れ込みそうな第一王女レイア・フォン・エイセフォールの元へと駆け寄った。レイアの銀の甲冑はあちこちがへこみ、その呼吸は弱々しく、今にも消え入りそうだった。


「殿下! 殿下、お気を確かに!」


バルトの呼びかけに、レイアがゆっくりと瞼を持ち上げる。その瞳には、先ほどまでの不屈の意志とは別の、静かな安らぎが宿っていた。


「……バルト、無事、だったのですね……」


「はっ! かの御仁のおかげでございます。あの白銀の騎士殿が、我らに退避を促しました。この戦場を操る元凶を叩くと……」


バルトの言葉を聞いた瞬間、レイアの表情から張り詰めていた鋼のような緊張が溶け落ちた。安堵が彼女を襲い、その脆弱になった精神の糸を優しく切る。


「そう……ですか。なら、民たちは……」


「ええ、必ずや。彼が、我らを救ってくださいます」


言葉を最後まで紡ぐことなく、レイアの意識は深い闇へと沈んでいった。脱力して崩れ落ちる王女の身体をバルトが支える。侍女兼魔導師のセシルが、真っ青な顔でレイアの元へ駆け寄り、その冷たくなった手を握りしめた。


「殿下……っ、殿下! お目覚めください!」


「セシル、動揺するな! 殿下をお守りしつつ、我らも撤退する。これが今、我らにできる唯一の任務だ!」


バルトは震えるセシルを叱咤すると、腰の警笛を力一杯に鳴らした。それは、地獄の戦場における「撤退開始」の合図だった。

バルトは背後を振り返り、白銀の光が荒れ狂う戦場の中心を見つめる。


(セト殿……必ずや生きて、うまい酒を酌み交わそう)




一方、瀬戸は死闘の渦中にいた。


変異種と呼ばれるゴブリン、それらが駆るナルムクツェが、津波のように押し寄せる。それら全てを、瀬戸は白銀の太刀筋で切り伏せていた。


遥か上空、雲を突き抜けた場所に待機する艦内では、ゼノがホログラムスクリーンを睨みつけ、硬い声を飛ばす。


『瀬戸、動きが鈍いぞ。敵の増援密度が上がっている。ディアーナ、索敵を急げ。この規模の変異種を統率している個体の正確な位置を割り出せ。解析のピッチを上げろ!』


[ディアーナ:了解]


『紬、右前方から増援! ミア、データ解析の進捗は!』


『分かってるよ! ……解析は順調! でも……前方のエネルギー反応が異常だよ。普通のゴブリンじゃない、空間そのものを歪ませるような出力が出てきてる!』


ミアの悲鳴に近い通信が飛ぶ。目標へ近づくにつれ、空気中に漂う未知の異星物質の密度は、肺を焼き切るのではないかと思えるほどに高まっていた。その中を、瀬戸はプラズマの翼を纏ったかのように疾走する。


ゴブリンたちが振るう槍や、ナルムクツェの重い蹄が瀬戸を襲う。瀬戸はナノマシンによるブーストを限界まで引き上げ、重力を無視したような回避でそれをかわし、すれ違いざまにビームサーベルで敵の急所を薙ぎ払う。返り血ならぬ、青い放電を散らしながら、白銀の燐光は敵を蹂躙し続けた。


「邪魔だ、どけッ!」


瀬戸は踏み込みの衝撃だけで地面をクレーター状に陥没させ、数匹の変異種を跳ね飛ばす。迫りくるゴブリンを盾代わりに敵の群れに突っ込み、爆発的な出力で一気に殲滅していく。もはや、戦場における「歩く災害」と化していた。


『瀬戸、時間をかけるな! 敵の反応座標を絞り込んだぞ!』


「分かってる、艦長!」


[ディアーナ:瀬戸、前方から質量弾! 回避行動!]


ディアーナの警告と同時だった。闇の中から、轟音と共に巨大な岩の塊が飛来した。それは味方であるはずの雑兵ゴブリンたちさえも圧殺する、無慈悲な破壊の弾丸だった。


「チッ、手荒い歓迎だな!」


瀬戸は空中で身を翻し、ビームサーベルを逆手に持ち替える。高出力のプラズマが岩の分子構造を瞬時に焼き切り、瀬戸の身体は巨大な破片を縫うようにして通り抜けた。


[ディアーナ:瀬戸の生命反応確認。左上腕部に被弾による損傷あり。ナノマシンによる自己再生を開始します。]


「……いや、かすり傷だ。それよりもエマ、ターゲットが見えた」


煙の向こうから現れたのは、他の個体とは一線を画す巨躯だった。身長は四メートルを超え、その皮膚には異星の紋章のような禍々しい模様が浮かんでいる。それが、この戦場を支配する「王」か、あるいは「puppet master(操り手)」なのか。


瀬戸は、挨拶代わりとばかりに右手を地面へと叩きつけた。


ズゥゥゥゥン!!


地面を伝う高電圧のプラズマが、周囲を埋め尽くしていた小鬼たちを容赦なく感電させ、麻痺の渦に沈める。しかし、目の前の巨大な個体は、足元が痺れた程度で驚いたように片足を上げると、一瞬だけ怪訝そうな顔をし、次いで、大地を震わせるほどの轟音で咆哮した。


(さて、ここからは本番だ)


瀬戸は脳内で、遥か彼方の艦にいるゼノへと問いかける。


『艦長、とっておきの「アレ」を使っていいか?』


『……許可する、瀬戸。やりすぎには注意しろ』


ゼノの冷徹な承認を合図に、瀬戸は眼前の巨躯を射抜くようにして睨みつけた。両手に携えたビーム兵器の出力が最大へと引き上げられる。

白銀の騎士は、静かに、しかし決然と戦場の支配者へと牙を剥いた。その身体から漏れるプラズマは、もはや戦場の光さえも塗り潰すほどに輝きを増していた。

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