雷光の白銀、戦場を蹂躙す
「行くぞ!ディアーナ、サポートを頼む!」
「了解しました、瀬戸」
その声と同時に、瀬戸の全身を構成するナノマシンが生命維持に必要な最小限の領域を除き、すべてを戦闘特化モードへと瞬時に再構成した。億、いや兆をも超える無数のナノマシンが、個々から微細なプラズマを噴出する。
瀬戸の身体は、瞬く間に青白い雷光を纏った、この世の者とは思えぬ「雷神」の如き姿へと変貌した。
「……ッ!」
瀬戸が踏み出した一歩は、もはや人間の筋力によるものではない。大地が砕け、その反動で瀬戸の姿は空間を跳躍するように敵陣の中央へ到達した。超人などという言葉では生温い。音速を置き去りにしたその速度は、肉眼では単なる光の筋にしか見えなかったはずだ。
「まずは、一掃だ」
瀬戸がすれ違いざまに振り抜いたビームサーベル。それは単なる斬撃ではなかった。プラズマの奔流が剣筋を延長し、プラズマを纏った白銀の刃が、一度の旋回で数体の変異種をその場で両断した。切り裂かれた変異種たちは、何が起きたのかを理解する時間すら与えられず、断末魔を上げる間もなく汚泥となって崩れ落ちていく。
『すごい……! せと、今のデータ!? 反応速度が計測不能の領域に突入してる!』
ミアの弾むような声が、通信越しに響く。
『紬、気をつけて! 4時の方向からも来てる! 何なのこれ、敵の数が多すぎる!』
エマの張り詰めた声も聞こえるが、瀬戸の耳には、それすらも心地よいリズムとして響いていた。ナノマシンが視界の隅々に敵の位置をマーキングし、最適な攻撃ルートを脳内に直接書き込んでくる。
先頭の変異種が倒されたことに気づき、残る群れが狂ったような奇声を上げて瀬戸に襲いかかる。数多の触手と牙が、全方位から彼を飲み込まんとする。
瀬戸は迷わず腰のホルダーからビームガンを抜き放った。元来、彼は銃の扱いなど得意ではない。しかし、今の瀬戸にとって、その弱点は無意味だった。ナノマシンが弾道計算と照準を完璧に制御し、彼の右腕を狙撃の名手以上に安定させる。
ドンッ、ドンッ、ドンッ!
放たれた光弾は、まるで吸い込まれるように変異種の急所を貫く。銃の威力は、かつての兵器とは比較にならないほど強大だった。一度の射撃で数体を貫通し、その後方の個体までをも巻き込みながら爆散させる。剣と銃、二つの兵装が雷光と交差するたび、周囲の地面は敵の体液で塗り替えられていった。
『……ほう、いい動きをするようになったな。ナノマシンに順応し始めたか? いずれにせよ予想以上だ』
ゼノ艦長の感嘆するような声が響く。
瀬戸の姿は、戦場の外から見れば、まさに絵本の中の英雄そのものだった。白銀の宇宙服が光を反射し、雷光を纏って舞うその姿は、絶望の淵にいた者たちにとって、間違いなく「勇者」と呼ぶに相応しい光景だったことだろう。
ものの数分。
あれほどまでに避難民を追い詰めていた変異種の群れは、いまや2/3が切り伏せられ、無惨な残骸と化していた。圧倒的な暴力の前に、生き残った変異体たちは本能的な恐怖を植え付けられたかのように、背を向けて逃げ出していく。
[ディアーナ:周辺の生命反応を再スキャン。……ガレス・フォン・ヴァレリアン卿の一団は、安全圏への移動を確認。生存率は98%です]
「……ふう、まずは一仕事終わりか」
瀬戸は荒い呼吸を整え、サーベルの出力を抑える。勝利の余韻に浸る間もなく、彼は視線を南へと向けた。そこには、ステーションの観測データが示す「地獄」の続きが広がっている。
『瀬戸、油断するな。今、メイン戦場の様子を俯瞰観測しているが……そちらの戦闘は「前座」だ。本隊が……あそこが崩壊寸前だ!早くそこから離れろ。』
瀬戸の脳内に、メイン戦場の映像が転送される。そこでは、数百といる騎士たちが、数百倍の数であろう変異体の波に飲み込まれようとしていた。
「……迷っている時間はないな」
瀬戸は小さく呟き、改めて走り出した。 英雄の仮面など、もうどうでもいい。 ここで見捨てれば、彼らと同じように明日を奪われる人々が生まれる。それは、2000年という時間を超えて、自分がここに来た意味に反する。
「ディアーナ! サポートはまだ間に合うか?」
[ディアーナ:……予測はしていましたが、やはりその選択ですか。……これより先、さらなる激しい戦闘が予測されますが、生存率は……私が保証します]
無機質だが、確かな温かみを感じさせるAIの返答。 そのとき、通信にエマの震える声が割って入った。
『紬……っ! また、そんな無茶をして。無理だけはしないで……』
瀬戸は疾走する足を止めず、短く返した。
「エマ。怖いのは同じだ。だが、今の俺にはこの力がある。……何より、君たちが待っていてくれる場所があるから、俺は死ねないんだ」
『……ずるいよ、そんなこと言われたら、もう何も言えないじゃない……』
通信の向こうで、彼女が泣き笑いをしているのが手に取るようにわかった。エマのその言葉に、瀬戸はかつてないほどの力が全身に満ちるのを感じた。
「……あの約束、必ず果たすから」
『……うん、絶対に無理はしないでね』
瀬戸は、迷うことなく戦場の中心地へと駆け抜けていった。
[ログ更新:ID001 - 瀬戸紬、英雄定義の整合性確立を確認。生存確率最大化のため、全リソースを再配分]
「サービス残業はいつものことだ。サラリーマンなめんな」
瀬戸の決意に満ちた声が、通信を超えてステーションの全員に届く。その言葉を受け取り、ステーションのAIもまた、管理という名の下に「希望」という名の演算を開始していた。
の演算を開始していた。




