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ネオ・テラ:降下者セトの選択 ―あの日の残業、2000年後の誓い―  作者: totoさけ
長い残業の始まり ―2,000年後の地球と、白銀の騎士―

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魔法使いの戦場 ―失われた「人類」の定義―

光学迷彩を纏った瀬戸の身体は、森の緑に完全に溶け込んでいた。


[ディアーナ:生命反応なおも増加。大規模な戦闘のようです。距離にして948m]


ナノマシンの索敵データが脳内に鮮明な戦況図を描き出す。迷うことなく最短距離で駆け抜け、瀬戸は小高い崖の縁へと辿り着いた。


「……ここか」


崖の下に広がる光景に、瀬戸は息を呑んだ。

所狭しとひしめき合い、甲高い金切り声で喚いているのは、先ほど森で遭遇したあのタコの変異体たちだ。赤黒い異形の群れが、殺到するように大地を覆い尽くしている。


[ディアーナ:変異体No.1を多数確認。その他にも変異体が多数いる模様。総数約780体です]


『うわぁ、気持ち悪い』

『たしかに……』


ぎゃぎゃと鳴き声を上げるその姿を映像でも確認したのか、ミアが率直な感想を漏らし、エマもそれに同意している。


「それに対してあっちは……」


対峙する一団がいた。瀬戸はナノマシンにより望遠鏡並みに視力を強化し、対象を詳しく確認する。


その身を鎧や甲冑に包み、手には剣や盾、弓、槍、斧、そしてハルバートまでもが整然と並んでいる。その光景は、歴史の教科書で見た中世の戦場そのものだった。違うとすれば、それを操る人たちの方だろう。


「亜人……それに、人間……?」


瀬戸の視線が、戦列の最前線で馬を駆る女騎士へと固定される。


『せと、人間がいるよ!人間!』

『どういうことだ?感染していなかった人類がいたのか!?』

[ディアーナ:仮称「現地人」、人間型150名、亜人型269名を確認]


間違いなく、人間だ。確かに動物の耳や尻尾を持つ亜人と呼ばれる者たちも大多数いるが、2000年前の瀬戸が知る人間と同じ姿形をした生存者たち。


(生きていたのか……! この星に、俺たち以外の人間が!)


人類生存の希望に、瀬戸の胸が熱くなる。しかし、その淡い期待は、次の瞬間、残酷なまでに粉砕された。


女騎士が剣を天に掲げ、高らかに何かを叫ぶ。その直後、彼女の開いた手のひらから奔流のような炎が放たれた。

ドォォン! という轟音とともに、数十体のタコの変異体が火だるまになって吹き飛ぶ。


「……なん、だ、あれ…?」

『今、見間違えじゃなければ手から炎を出したように見えました。魔法?ですか?』


瀬戸の思考が停止する。目の前の光景は完全にファンタジーの領分だった。


『――せと! 今のアレ、すっごーい! 解析解析!』


ミアの弾むような声が、脳内に割り込んでくる。彼女は戸惑う瀬戸とは対照的に、興奮気味にデータをまくし立てた。


[ディアーナ:周囲のナノマシンのデータと映像を受信。解析します]


ディアーナがすかさずデータを収集する。


『わかったよ! 魔法じゃない! あの炎、大気に溶け込んでる「異星物」を、彼女の身体が内側から操作して引き起こした現象みたい! 彼女たちの体内の組織?未知の臓器?脳波?みたいなのが特殊な信号を出して、空間の粒子を励起させてる!……すごい、これじゃまるで、人間そのものが生体兵器だよ!』


ミアの言葉が、瀬戸の背筋を冷たく凍らせる。

彼らは魔法使いなどではない。2000年という永い年月の中で、この星の有害な異星物と共生し、その力を己の肉体に取り込むことで生き延びてきた、「別種の適応者」なのだ。


(そうか……俺が知っている『人間』は、もうどこにもいないんだ)


瀬戸は光学迷彩のまま、拳を握りしめた。

自分だけが、2000年前の「清潔な環境でしか生きられない人間」として、この変貌した地球に放り出された異物なのだと、改めて突きつけられた気分だった。


[ディアーナ:対象の遺伝子情報があれば、より詳細なデータ分析が可能となります]


『入手できれば、分析するとしよう。だがキャンサーのようになってはならないがな』


ゼノの静かな声が響く。


『……そんなことは決して許されません』


彼女の母が蛮行を許さなかったように、エマも強い意志を持ってその決意を言葉にする。


「…そうだな、エマの言う通りだ。」


あの日の親子の姿を思い出す。彼女たちの意思を自分も持たなければ、彼女に助けられた意味をなくしてしまうような気がした。


『お姉ちゃんたちの言うとうりだね。でも今の段階でも結構わかってきたことがあるよ。やっぱり異星物の大部分は大気に溶け出してる。その証拠がステーションから見た地球だよ。』


「証拠?」


[ディアーナ:異星物が大気に溶け出している為、太陽光に照らされることでステーションから見た際に色が違って見えると推測されます]


ステーションから見た地球の姿を思い出す。あの禍々しい暗雲の渦がすべて異星物で、今現在も呼吸をするたびに自分の中に入り込んでいるなど思いたくもない。背筋に冷たいものが流れる。


『せとみたいに抗体がないと現地人みたいになっちゃうところだね。』


『そうだな。瀬戸からの抗体データはあるものの、やはり【オリジン】を見つけ出し抗体情報を完璧にしなくてはならないな』


「俺はもう宇宙へ帰りたくなったよ。」


弱音のような冗談を吐き、目の前の戦場を見る。


眼下では、騎士たちがタコの変異体を圧倒し、戦況を押し進めているように見える。彼らはこの過酷な地球で、自分たちなりの「文明」を築き上げ、生き残るために進化を遂げていた。


『瀬戸、もう少し近くでの情報収集は可能か?できれば彼らとも接触をはかりたい。様子を見ながらになるがな。』


「了解した。ここから降りられるところを探してみる。ディアーナ、また案内を頼む。」


[ディアーナ:了解しました。]


『紬、気を付けてね』


「ああ……行くぞ」


瀬戸は低く呟き、崖を降りるためのルートを探り始めた。彼らと接触するのか、それともこのまま観察を続けるのか。いずれにせよ、彼らの「正体」を突き止めなければ、自分たちの未来はない。

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