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ネオ・テラ:降下者セトの選択 ―あの日の残業、2000年後の誓い―  作者: totoさけ
長い残業の始まり ―2,000年後の地球と、白銀の騎士―

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蒼穹の乖離と、戦端の響き

データ収集がひと段落したころ、瀬戸はふと空を見上げた。頭上に広がる空は、かつて見慣れたものと何ら変わりない。どこまでも突き抜けるような、明るい青空だ。


(宇宙から見たときは、あんなに禍々しい色をしていたのに……)


ステーション・ラビットの展望デッキから見下ろした、あの濁った重苦しい雲海。その記憶と、目の前の爽やかな空のギャップに、瀬戸は言葉を失う。


「エマ、聞こえるか?」


『ええ、紬。どうしました?』


エマの声が、優しく脳内に響く。その呼びかけに、瀬戸は少しだけ胸の奥が熱くなるのを感じた。


「……空のことだ。今、俺が見ている映像が見えるか?」


『空、ですか?』


「ああ、映像を見てもらえばわかると思うが、地上から見ると俺が知っているごく普通の青空なんだ。だが、ラビットから見たこの地球は、禍々しい色をしていた……」


通信越しに、エマが困惑したように沈黙する。


『……はい、こちらでも確認しましたが、やはりこちらからは、紬がいるエリアも異常な色に見えています。送られてきた映像を見る限り別物に見えてしまします……。異星物による干渉なのか、それとも私たちがこの星のなにかを見落としているのか。いずれにしろ解析を急ぎます』


考えても今は答えは出ない。ただ、この「見えている景色すら信用できない」という事実に、瀬戸は背筋が冷える思いがした。


「わかった。こっちはひとまず、周辺の調査を優先する。ミア、ディアーナ準備はいいか?」


『準備万端!いつでも来い。ね、ディちゃん』


[ディアーナ:はい]


ミアの元気いっぱいの声に苦笑しつつ、瀬戸は右手を前に突き出し意識を集中する。右手のナノマシンを再度活性化させ、銀色の燐光を霧のように広げた。散布されたナノマシンが、半径5km圏内の地形、動植物、細菌、あらゆるデータを自動的に採取し、そのデータを瀬戸のインターフェイスを通じて次々とステーションへと送信していく。


[ディアーナ:データ受信。変異体データを優先し解析を開始します] 


『せとーっ、データどんどん送られてきてるよ! すごーい、2000年で生物の多様性がめちゃくちゃになっちゃってる! ディちゃんと一緒に解析するから、ちょっと待っててね!』


ミアの弾んだ声が頭に響く。彼女やディアーナがバックグラウンドでフル稼働しているおかげで、瀬戸はただの調査員から、戦闘にも専念できる。というかほぼナノマシンがデータを採取するので、中継地の役割しか果たしていない。


やることがなくどうしようかと思案していると、ゼノの声が響く。


『今後の進路だが……ラビットからの観測と、君が収集したデータを照らし合わせた結果から、瀬戸が今いる場所が大体わかった』


「そうか、それで当面の目的はデータ収集しながらアララト山へ向かうことでいいのか?」


『そうだな、それでいいのだが、やはりユーラシア大陸へ抜けるには、北アメリカ大陸を北上し、ベーリング海峡付近から横断するルートが最適だと判断した』


降下ポッドは大破、この時代に飛行機や船など残っているはずもない。


「ここからだと北上か……。道のりは長そうだな」


『ごめんなさい…紬。あなたに負担ばかりかけてしまって』


エマの切なげな声に、瀬戸は小さくかぶりを振った。


「気にするな。……俺がやると決めたことだ。それに、今は一人じゃないからな」


瀬戸は、地図のデータを脳内で展開しながら、夜を明かすための適当な場所を探す。その時、脳内のインターフェイスに警報が鳴る。


[ディアーナ:データ収集範囲内に多数の生命反応を検知]


――ゴォォォォォンッ!


それと同時に森の奥から、大地を揺らすような衝撃音と、金属が衝突するような高い音が響き渡った。


「……戦闘音?」


鳥のさえずりが途絶え、森が静まり返る。ベースキャンプの設営どころではない。明らかに、人間同士か、あるいは人間と何かが衝突している音だった。


「艦長、どうする?」


すぐに指示を仰ぐ。


『現状がどうにも判断できん。もし可能ならば近づいてもらいたい。』


「了解。ディアーナ、周辺の地理と生命反応のあった方向へのナビを頼む」


[ディアーナ:了解しました。インターフェイスへデータ転送します]


瀬戸は即座に思考を切り替えた。抜き身の刃で突撃するのはあまりにも無防備だ。彼はナノマシンに命じ、全身の光学迷彩を起動させた。陽炎のように姿が揺らぎ、周囲の景色に溶け込んでいく。


足音すら殺し、気配を完全に遮断した状態で、瀬戸は音のする方角へと静かに、しかし素早く駆け出した。


もしそれが、この地で生き残っている「現地民」なら。

彼らが何と戦っているのか、その目で確かめなければならない。

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