第89話 「一族の決議」
翌朝俺たちは再び、発掘現場に向かった。
ガレオンが石碑の前で、待っていた。その表情から、決議の内容は読み取れなかった。
「決まりましたか」
俺は聞いた。
「決まった」
ガレオンは、静かに答えた。
「だが、一枚岩ではない」
「どういう意味ですか」
俺は聞いた。
「私を含む、年長者たちは」
ガレオンは続けた。
「お前の提案を受け入れる方向で、考えている」
俺は、少し安堵した。
「だが」
ガレオンは、表情を少し曇らせた。
「若い世代の一部が、反対している」
「反対の理由は」
俺は聞いた。
「彼らは」
ガレオンは答えた。
「対話ではなく、力で決着をつけることを、望んでいる。長年の恨みを、晴らしたいのだろう」
俺は頭の中で、状況を整理した。
旧血族の中でも、意見が分かれている。これはこれまでの無冠や天秤とも、似た構図だった。
「その若い世代を説得することは、できませんか」
俺は聞いた。
「試みてはいる」
ガレオンは答えた。
「だが彼らの指導者格の男が、頑なだ」
「指導者格というのは」
俺は聞いた。
「ヴォルクという男だ」
ガレオンは答えた。
「彼が若い世代を、扇動している」
その時遠くから、声が響いた。
「話は、聞かせてもらった」
振り返ると、屈強な体格の若い男が立っていた。年齢は、三十代くらいだろうか。目つきが鋭く、明確な敵意を感じさせた。
「ヴォルク」
ガレオンが、低い声で言った。
「長老、あなたは甘すぎる」
ヴォルクは言った。
「五十五年前私たちの一族が、どれほど苦しんできたか、忘れたのですか」
「忘れていない」
ガレオンは答えた。
「力で道を切り開いても、また同じことが繰り返されるだけだ」
「私は」
ヴォルクは続けた。
「対話などという甘い言葉に、賭けるつもりはない」
ヴォルクは、俺を見た。
「始祖の器か」
ヴォルクは言った。
「お前を倒せば、私たちの一族の力を証明できる」
俺は、ヴォルクを観察した。
ステータスを確認しようとした。
ヴォルク Lv.???
HP:???
危険度:???
読めなかった。旧血族の独自の力は始祖の器の索敵でも、正確に測れないのかもしれない。
「戦いを、望んでいません」
俺は言った。
「望まなくても」
ヴォルクは続けた。
「私は、望んでいる」
ヴォルクの体からこれまで感じたことのない、独特の力が溢れ出し始めた。
ガレオンが、慌てて言った。
「ヴォルク、やめろ」
「長老は、下がっていてください」
ヴォルクは答えた。
「これは私たち若い世代の、意思です」
カルロが俺の前に、静かに出た。
「対話は、まだ終わっていない」
カルロは、ヴォルクに向かって言った。
「お前一人の判断で、決めることではない」
「関係ない」
ヴォルクは答えた。
「私はこの場で、決着をつける」
俺はエリナと、目を合わせた。
エリナが、少し緊張した表情で頷いた。
「戦いになるなら」
俺は言った。
「受けて立ちます。ただしこれで、旧血族全体との対話の道を、閉ざすつもりはありません」
ヴォルクは、少し口元を歪めた。
「言葉だけは、立派だな」
ヴォルクは言った。
ヴォルクが動いた。
その速度は、これまで戦ったどの相手よりも速かった。
俺は、短剣を構えた。
旧血族との初めての戦いが、始まろうとしていた。
**次回・第90話「血脈の力」**
> ヴォルクの独自の力。それは魔力とマナを繋ぐこれまでの魔法とは、根本的に異なる原理を持っていた。ゼロは未知の戦い方に、対応を迫られる。
旧血族の中でも、意見が割れていました。ガレオンたち長老は対話を望むが、ヴォルクたち若い世代は、力での決着を望んでいる。ついに、避けられない戦いが始まります。
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