第84話 「先行偵察」
翌朝、セルマが一人で、発掘現場に向けて出発した。
「無理は、しないでください」
俺は言った。
「Bランクをなめるな」
セルマは、いつもの調子で答えた。
「日暮れまでには、戻る」
俺たちは野営地で、セルマの帰りを待った。
カルロが地図を広げてリンネの遺跡群について、知っている限りの情報を整理していた。
「昔の記録では」
カルロは言った。
「リンネの遺跡群は始祖の時代よりも、さらに古い可能性がある」
「始祖より、古いんですか」
俺は聞いた。
「確証はない」
カルロは続けた。
「ただ術式の様式がオルディナの遺跡とは、少し異なるという記述を見たことがある」
「異なる、というのは」
俺は聞いた。
「わからない」
カルロは、正直に答えた。
「実際に見てみないと、判断できない」
俺は、少し考えた。
始祖より古い可能性のある遺跡。そこに、何が眠っているのか。
---
日が傾き始めた頃、セルマが戻ってきた。
その表情は、いつもより緊張していた。
「どうでしたか」
俺は聞いた。
「思っていたより、規模が大きい」
セルマは言った。
「発掘現場に少なくとも、五十人以上の人間がいる」
「五十人」
俺は、少し驚いた。
「複数の勢力が、混在している」
セルマは続けた。
「学者らしき人間もいれば、明らかに戦闘要員と思われる者たちもいる」
「無冠の残党は」
アルクが聞いた。
「黒い服を着た者たちが、確認できた」
セルマは答えた。
「それだけじゃない」
「他にも、何かあったんですか」
俺は聞いた。
セルマは、少し間を置いた。
「見慣れない紋章を掲げた、集団がいた」
セルマは言った。
「これまで見たことのない、紋章だ」
俺は、緊張した。
「どんな紋章ですか」
セルマは地面に、木の枝で紋章を描いた。
円の中に複雑に絡み合った、いくつかの線が描かれている。俺の知るどの勢力の紋章とも、一致しなかった。
カルロがその絵を、じっと見つめた。
「見たことがない」
カルロは静かに言った。
「少なくとも、私の知る限りでは」
「新しい勢力、ということですか」
俺は聞いた。
「そうかもしれない」
カルロは答えた。
「あるいは、これまで表に出てこなかった、古い勢力かもしれない」
俺は頭の中で、情報を整理した。
無冠でも、天秤でも、王国でもない。
これが、「まだ見ぬ力を求める者」なのかもしれない。
「他に何か、わかったことはありますか」
俺は聞いた。
「発掘現場の中心に、大きな石碑がある」
セルマは続けた。
「まだ完全には掘り出されていないようだが、かなりの大きさだ」
「その石碑が目的の一つ、ということですね」
俺は言った。
「おそらく」
セルマは頷いた。
俺は、しばらく考えた。
「今後の方針を、決めましょう」
俺は言った。
「正面から乗り込むのは、危険が大きすぎます」
「私も、そう思う」
アルクが同意した。
「まずはもう少し、情報を集める必要がある」
カルロが言った。
「あの紋章の正体を、知る必要がある」
「フェリクスさんに、確認できますか」
俺は言った。
「連絡してみよう」
カルロは頷いた。
---
その夜俺たちは鳥を使った通信で、フェリクスに紋章の情報を送った。
返信は、翌日の朝届いた。
「その紋章に心当たりがある。詳しくは、直接話したい」
カルロがその手紙を読んで、少し表情を曇らせた。
「心当たりがある、ということは」
俺は聞いた。
「良くない知らせかもしれない」
カルロは答えた。
俺は、緊張しながら、ステータス画面を確認した。
ゼロ Lv.13
HP:58/58
MP:31/31
筋力:18 敏捷:21 魔力:11 耐久:15 知力:22
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
変化はなかった。
だが見えない糸が、また一つ繋がろうとしていた。
見たことのない紋章。フェリクスの心当たり。
「まだ見ぬ力を求める者」の正体が、いよいよ姿を現し始めていた。
朝の光が、山々の間から、静かに差し込んでいた。
**次回・第85話「フェリクスの警告」**
> フェリクスから届いた、詳しい情報。それは天秤ですら、長年警戒し続けてきた、古い勢力の名前だった。
セルマの偵察で、見たことのない紋章の存在が判明しました。フェリクスにも、心当たりがあるという、不穏な反応。次回、いよいよ、新しい脅威の正体が、明らかになります。
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