第79話 「湖畔にて」
数日後、天秤の本拠地に近い、中立の場所での会合が設定された。
場所は、ランドルとカルセナの中間にある、小さな湖のほとりだった。
俺、エリナ、カルロの三人で向かった。アルクとセルマは街に残り、ロックスと共に、ラグドの件の後処理を続けていた。
湖に着くとすでに、フェリクスとモリスが待っていた。
カルロが、フェリクスに近づいた。
「来てくれて、助かる」
カルロが言った。
「お前の手紙を読んで、来ないという選択肢はなかった」
フェリクスは頷いた。
「わざわざ足を運ばせて、悪いな」
「いや」
カルロは首を振った。
「こちらが、話したいと思っていたことだ」
フェリクスは頷いた。
二人の間に、まだどこかぎこちない空気が漂っていた。
俺とエリナは、少し離れた場所で、その様子を見守った。
「手紙、読んだ」
フェリクスは言った。
「お前らしくない、素直な言葉だった」
「珍しく、素直になった」
カルロは、少し笑った。
二人は湖のほとりに、並んで座った。
俺たちも、少し離れた場所に腰を下ろした。
「師のこと、まだ覚えているか」
フェリクスが、静かに聞いた。
「もちろんだ」
カルロは答えた。
「一日たりとも、忘れたことはない」
「私もだ」
フェリクスは、続けた。
「あの日のことを、今でも鮮明に思い出す」
俺は、少し耳を傾けた。詳しい事情は、まだ聞いていなかった。
「私たちの師は」
フェリクスが、俺たちに向かって話し始めた。
「始祖の力に関する、古い研究を続けていた」
「その研究が命を狙われる、原因になったんですね」
俺は言った。
「そうだ」
フェリクスは頷いた。
「師は始祖の意思の一部を、解読しようとしていた。それを知った力を求める者たちが、師を襲った」
「守れなかった」
カルロが、低い声で言った。
「私もフェリクスも、その場にいながら、師を守れなかった」
「私たちは、まだ若かった」
フェリクスは続けた。
「力が、足りなかった」
俺は二人の言葉を、静かに受け止めた。
「その後私たちは、それぞれの道を選んだ」
フェリクスは言った。
「カルロは、力の使い方を伝える道を。私は、力を求める者たちを止める道を」
「どちらも、正しい選択だったと思う」
俺は言った。
フェリクスとカルロが、俺を見た。
「なぜ、そう思う」
フェリクスが聞いた。
「一つの悲劇に対して、二つの異なる答えを出した」
俺は続けた。
「どちらも、師を思う気持ちから、生まれたものです。間違いではないと思います」
フェリクスは、少し微笑んだ。
「若いのに、いいことを言う」
「よく言われます」
俺は答えた。
エリナが、少し笑った。
---
しばらく湖を眺めながら、四人で静かな時間を過ごした。
やがてフェリクスが、口を開いた。
「これから、どうする」
フェリクスは、カルロに聞いた。
「これから、というのは」
カルロが聞いた。
「私たちは、もう老いた」
フェリクスは続けた。
「だが、まだできることがあるはずだ」
カルロは、少し考えた。
「若い世代を、支えることだろう」
カルロは答えた。
「ゼロとエリナのような」
フェリクスは、俺たちを見た。
「そうだな」
フェリクスは頷いた。
「私たちが、若い頃にできなかったことを、彼らが、成し遂げようとしている」
俺は、少し驚いた。
「俺たちに、期待をかけすぎないでください」
俺は言った。
「まだ、わからないことばかりです」
「わからないことばかりだからこそ、意味がある」
フェリクスは答えた。
「完成された答えを、押し付けるのではなく、共に探していく」
俺はその言葉を、深く受け止めた。
「天秤とカルロさん、これから協力していけますか」
俺は聞いた。
「協力できると思う」
フェリクスは答えた。
「特に、『まだ見ぬ、力を求める者』の件については、天秤の情報網が、役に立つはずだ」
「それは、心強いです」
俺は言った。
カルロが、静かに言った。
「フェリクス、これからも、よろしく頼む」
「こちらこそ」
フェリクスは、頷いた。
---
夕方、湖のほとりで、別れの時間が来た。
「また、会おう」
フェリクスは言った。
「今度は、そう間を空けずに」
カルロは、少し笑いながら答えた。
フェリクスとモリスが、去っていった。
俺、エリナ、カルロの三人で、ランドルへの帰り道を歩いた。
「よかったですね」
エリナが言った。
「そうだな」
カルロは、静かに頷いた。
「こうして話せる機会が持てて、よかった」
俺は、カルロを見た。
「これから、少し楽になりますか」
俺は聞いた。
「わからない」
カルロは答えた。
「だが一人で、全てを背負う必要はなくなった」
俺は、その言葉に頷いた。
俺自身も、同じことを学んできた。一人で全てを抱え込む必要はない。仲間と支え合いながら、進んでいけばいい。
ステータス画面を確認した。
ゼロ Lv.13
HP:58/58
MP:31/31
筋力:18 敏捷:21 魔力:11 耐久:15 知力:22
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
数値に変化はなかった。
だが、この世界でまた一つ、大切な繋がりが育まれていた。
夕日が湖面を、金色に染めていた。
俺たちはその美しい光景をしばらく眺めてから、ランドルへの道を歩き続けた。
**次回・第80話「新たな協力体制」**
> カルロと天秤の協力関係が確立されたことで、「まだ見ぬ、力を求める者」に関する調査が、本格的に動き出す。だが、その調査の中で、思いがけない情報がもたらされる。
カルロとフェリクス、手紙のやり取りを経ての、直接の対話でした(タイトルを「再会」から「湖畔にて」に修正しました)。師を失った悲しみから生まれた、二つの異なる道。それでも、根っこは同じだったという結末、書いていて温かい気持ちになりました。次回から、また新しい調査が始まります。
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