第77話 「フェリクスへの手紙」
鍛冶屋の跡に向かうと、カルロが机に向かって、何かを書いていた。
珍しい光景だった。カルロが、こうして書き物をしているところを、俺は初めて見た。
「何を書いているんですか」
俺は聞いた。
「フェリクスへの、手紙だ」
カルロは答えた。
俺は、少し驚いた。
「本当に、書いているんですね」
「言ったからには、実行する」
カルロは、少し照れたように言った。
俺は、カルロの隣に座った。
「どんなことを、書いているんですか」
カルロは、少し考えてから、答えた。
「まず五十五年間の、沈黙を詫びる言葉だ」
カルロは言った。
「それから師のことを、まだ忘れていないことを、伝えたい」
「難しいですか」
俺は聞いた。
「難しい」
カルロは、正直に答えた。
「何度も書いては、消している」
俺は机の上を見た。破って丸めた紙が、いくつも転がっていた。
「無理に、完璧な言葉を、探さなくてもいいんじゃないですか」
俺は言った。
カルロは、俺を見た。
「どういう意味だ」
「思っていることを、そのまま、書けばいいと思います」
俺は続けた。
「フェリクスさんも、それを待っているんじゃないでしょうか」
カルロは、少し考えた。
「お前は時々、鋭いことを言う」
カルロは言った。
「よく言われます」
カルロは、またペンを取った。
俺は静かに、その様子を見守った。
---
しばらくして、カルロが、ペンを置いた。
「書けた」
カルロは言った。
「読んでもいいですか」
俺は聞いた。
「構わない」
カルロは頷いた。
俺は手紙を受け取って、目を通した。
**フェリクスへ**
**五十五年もの間、連絡を取らなかったことを、詫びたい。**
**私たちは、同じ師を失った悲しみから、別々の道を選んだ。**
**私は静かに、力の使い方を教える道を。お前は積極的に、力を求める者たちを止める道を。**
**どちらの道も、間違いではなかったと、今も思っている。**
**ただ、別々の道を選んでも、支え合うことは、できたはずだった。**
**それを、五十五年もの間、忘れていた。**
**若い器と鍵から、大切なことを教わった。**
**力は統合するものではなく、支え合うものだと。**
**それは、師弟の関係にも、当てはまるのだろう。**
**もし、機会があれば、また話をしたい。**
**カルロより**
俺は手紙を読み終えて、カルロを見た。
「いい手紙だと思います」
俺は言った。
「そうか」
カルロは、少し安堵したように言った。
「これを、フェリクスさんに、送るんですか」
「送るつもりだ」
カルロは頷いた。
「モリスに、届けてもらおうと思う」
俺は、頷いた。
「きっと、フェリクスさんも、喜ぶと思います」
カルロは、少し微笑んだ。
「そうだといいがな」
---
その日の夕方、モリスがランドルを訪れた。
カルロはモリスに、手紙を託した。
「フェリクスに、渡してもらえるか」
カルロは言った。
「もちろんです」
モリスは、丁寧に手紙を受け取った。
「必ず、お渡しします」
モリスは、手紙を大切そうに、懐にしまった。
「一つ、お伝えすることがあります」
モリスは続けた。
「何だ」
俺は聞いた。
「フェリクス様が、ラグドの件について、詳しい報告を求めています」
モリスは言った。
「特に、始祖の意思との対話について」
俺は、少し考えた。
「詳しく、話してもいいですか」
俺はカルロを見た。
「構わない」
カルロは頷いた。
「フェリクスにも、知る権利がある」
俺はモリスに、ラグドでの出来事を、詳しく語った。
ドレクとの戦い。始まりの塔の崩壊。始祖の意思との対話。
「まだ見ぬ、力を求める者」の予告。
モリスは、真剣な表情で、聞いていた。
「これは、重要な情報です」
モリスは言った。
「天秤としても、この予告を、重く受け止める必要があります」
「フェリクスさんに、よろしくお伝えください」
俺は言った。
「必ず」
モリスは頷いた。
「手紙と共に、しっかり伝えます」
モリスが、去っていった。
俺は、カルロを見た。
「五十五年ぶりの、繋がりですね」
俺は言った。
「そうだな」
カルロは、静かに頷いた。
「どうなるか、わからないが」
「きっと、うまくいくと思います」
俺は言った。
カルロは、少し笑った。
「お前はいつも、前向きだな」
「エリナにも、そう言われます」
俺は答えた。
カルロは、また、少し笑った。
---
その夜、俺はエリナと、今日の出来事について話した。
「カルロさんが、フェリクスさんに手紙を書いたんだ」
俺は言った。
「本当に?」
エリナは、少し驚いた顔をした。
「どんな内容だったの」
「五十五年間の沈黙を、詫びる内容だった」
俺は続けた。
「それと、また話をしたい、という気持ちも伝えていた」
「よかった」
エリナは、微笑んだ。
「二人の関係、少しずつ修復されていくといいね」
「そうだな」
俺は頷いた。
俺は、ステータス画面を確認した。
ゼロ Lv.13
HP:58/58
MP:31/31
筋力:18 敏捷:21 魔力:11 耐久:15 知力:22
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
数値に、変化はなかった。
だがこの世界では、数値では測れない大切な繋がりが、少しずつ育まれていた。
窓の外を見た。二つの月が、静かに輝いている。
明日もまた、新しい一日が始まる。
**次回・第78話「返信」**
> 数日後、フェリクスからの返信が届いた。その手紙には、カルロが予想もしなかった言葉が、綴られていた。
カルロが、五十五年ぶりに、フェリクスへ手紙を書きました。「無理に、完璧な言葉を、探さなくてもいい」というゼロの言葉、二人の関係の修復に、少しでも力になれたら嬉しいです。次回、フェリクスからの返信です。
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