第76話 「静かな朝」
朝早く、俺は鍛冶屋の跡に向かった。
まだ日が完全に昇りきっていない時間だった。だが、扉を開けると、すでにエリナがいた。
一人で、修行をしている。
俺は、邪魔をしないように、静かに壁際に座った。
エリナは、目を閉じて、マナを引き寄せる練習を続けていた。手のひらの上に、小さな光の粒が、少しずつ集まっていく。
しばらく見ていると、カルロが現れた。
老魔法師は、エリナの様子を見て、静かに微笑んだ。
「早いな」
カルロは言った。
エリナが、目を開けた。
「おはようございます」
エリナは答えた。
「一人で練習した方が、集中できる気がして」
「悪くない考えだ」
カルロは頷いた。
カルロは、俺の隣に座った。
しばらく、三人で、静かな時間を過ごした。
エリナが、修行を続けている間、カルロが俺に向かって、小さく言った。
「そろそろ、話しておくべきことがある」
俺は、カルロを見た。
「何ですか」
「フェリクスのことだ」
カルロは静かに言った。
俺は、少し身構えた。
「フェリクスさんに、何かあったんですか」
「いや」
カルロは首を振った。
「私自身の、過去のことだ」
俺は、カルロの言葉を、静かに待った。
「フェリクスと私は、同じ師のもとで学んだ」
カルロは続けた。
「なぜ、五十五年も、疎遠になっていたのか、まだ話していなかった」
俺は頷いた。
「理由を、聞かせてもらえますか」
カルロは、しばらく目を閉じた。
「私たちの師は、ある事件で命を落とした」
カルロは、静かに語り始めた。
「その事件に、私とフェリクスは、大きく異なる考えを持っていた」
「どんな事件だったんですか」
「師が、始祖の力に関する研究をしていた時のことだ」
カルロは続けた。
「その研究の過程で師は、力を求める者たちに、命を狙われた」
俺は、黙って聞いていた。
「私は、力を求める者たちから、師を守れなかったことを、悔やんだ」
カルロは言った。
「そして二度と、同じ悲劇を繰り返さないために、静かに力の使い方を教えることに、専念しようと決めた」
「フェリクスさんは、違う道を選んだんですね」
俺は言った。
「そうだ」
カルロは頷いた。
「フェリクスは、力を求める者たちを、根本から止める必要があると考えた。そして、天秤という組織を立ち上げた」
「二人の考え方が、対立したんですか」
俺は聞いた。
「対立、というよりは」
カルロは続けた。
「別々の道を、選んだということだ。フェリクスは、積極的に動く道を。私は、静かに、待つ道を」
俺は、少し考えた。
「五十五年間、一度も、連絡を取らなかったんですか」
「取らなかった」
カルロは答えた。
「お互いそれぞれの道を、信じていた。連絡を取ることで、迷いが生じることを、恐れていたのかもしれない」
俺は、カルロの言葉を、深く受け止めた。
「なぜ今、その話をしてくれるんですか」
俺は聞いた。
カルロは、俺を見た。
「お前が始祖の意思と、直接対話したと聞いたからだ」
カルロは続けた。
「力は統合するのではなく、支え合うものだと、教わったんだろう」
「はい」
「フェリクスと私も、本来は、そうあるべきだったのかもしれない」
カルロは静かに言った。
「別々の道を選んでも、支え合うことは、できたはずだ」
俺は、少し驚いた。
「フェリクスさんと、また、繋がりを持とうと思っているんですか」
「考えている」
カルロは答えた。
「まだ、決めてはいないが」
俺は、少し微笑んだ。
「いい考えだと思います」
カルロは、少し笑った。
「お前に、背中を押されるとは、思わなかった」
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その日の午後、エリナと二人で、街を歩いた。
「カルロさんの話、聞いた」
エリナは言った。
「壁の向こうにいたから」
「今度は、本当に聞こえたのか」
俺は、少し笑いながら言った。
「うん、今度は本当に」
エリナは、少し照れたように答えた。
「近くにいたから」
「フェリクスさんとカルロさんの過去、複雑な話だったな」
俺は続けた。
「でも、なんか、いい話だった」
エリナは言った。
「別々の道を選んでも、根っこは、同じだったんだね」
「そうだな」
俺は頷いた。
俺たちは、市場を歩きながら、久しぶりに、ゆっくりとした時間を過ごした。
エリナが、屋台で、串焼きを買った。
「食べる?」
エリナが、俺に差し出した。
「ありがとう」
俺は受け取った。
二人で、串焼きを食べながら、歩き続けた。
「こういう時間、大事だね」
エリナは言った。
「そうだな」
俺は答えた。
俺は、ステータス画面を確認した。
ゼロ Lv.13
HP:58/58
MP:31/31
筋力:18 敏捷:21 魔力:11 耐久:15 知力:22
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
エリナも、自分のステータス画面を確認した。
エリナ Lv.6
HP:24/24
MP:15/15
筋力:8 敏捷:16 魔力:13 耐久:9 知力:12
スキル:精密投擲
数値に変化はなかった。
だが、この平穏な日々が、俺たちにとって、大切な時間であることは、間違いなかった。
夕方の光が、街並みを優しく照らしていた。
俺とエリナは、宿に向かってゆっくりと歩いた。
**次回・第77話「フェリクスへの手紙」**
> カルロが、フェリクスに手紙を書き始めた。五十五年ぶりの、心からの言葉。その手紙が、二人の関係に、新しい風を吹き込むことになる。
カルロとフェリクス、五十五年の空白の理由が明かされました。同じ師を失った悲しみから、別々の道を選んだ二人。「力は支え合うもの」というラグド編のテーマが、師弟関係にも繋がっていく回でした。
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