第73話 「王都の朝」
塔が崩れ落ちた後、王都は一時、大きな混乱に包まれた。
だが、その混乱は、思ったより早く収まっていった。
第二王子の私兵の多くが、魔物との融合による力を失っていたのだ。ドレクが消えたことで、彼らに与えられていた強化の効果も、同時に消失したらしい。
「まさか、そんなことが」
バロンは報告を受けて、驚いた顔をしていた。
俺たちはバロンの屋敷で、状況の整理を行っていた。
「第二王子殿下は、今、どうしているんですか」
俺は聞いた。
「混乱の中で、投降されたそうです」
バロンは答えた。
「力の後ろ盾を失い、抵抗する術がなくなったのでしょう」
「第一王子は今、王都に戻られています」
バロンは続けた。
「この状況を、収拾するために」
俺は、少し安堵した。
「これで内乱は、収束に向かうと思いますか」
俺は聞いた。
「そう願っています」
バロンは答えた。
「ただしばらくは、混乱が続くでしょう」
俺は頷いた。
「もう一つ、確認したいことがあります」
俺は言った。
「始まりの塔は、崩れ落ちました」
バロンは、少し悲しそうに言った。
「ラグドの象徴的な、建物だったのですが」
「申し訳ありません」
俺は言った。
「止めることが、できませんでした」
「いいえ」
バロンは首を振った。
「あなたたちがいなければ、もっと悪い結果になっていたでしょう」
俺は、少し息を吐いた。
---
その日の午後、ミレイが俺たちのもとを訪れた。
「塔の跡地を、確認してきました」
ミレイは言った。
「崩れた瓦礫の中に、何か残されていないか、気になって」
「何か、見つかりましたか」
俺は聞いた。
「特には」
ミレイは答えた。
「ただ瓦礫の下に、古い記録の一部が、埋もれていました」
ミレイは、擦り切れた羊皮紙を差し出した。
俺はそれを受け取って、確認した。
文字の多くは読めなかった。だが一部だけ、はっきりと読める箇所があった。
**「器と鍵、共にあらば、道は開かれる。だが、力を独り占めしようとする者には、その力、災いとなりて還るべし」**
俺はその言葉を、静かに読み上げた。
「これは」
エリナが言った。
「昨日聞いた声と、同じことを言っています」
俺は答えた。
俺は、ステータス画面を確認した。
ゼロ Lv.13
HP:58/58
MP:31/31
筋力:18 敏捷:21 魔力:11 耐久:15 知力:22
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
数値に変化はなかった。だが、昨日の対話が、確かに現実だったことを、この記録が証明していた。
エリナも、自分のステータス画面を開いていた。
「私も、確認してみる」
エリナは言った。
エリナ Lv.6
HP:24/24
MP:15/15
筋力:8 敏捷:16 魔力:13 耐久:9 知力:12
スキル:精密投擲
「変わってない、みたい」
エリナは言った。
「体が軽く感じたのは、気のせいだったの?」
俺は言った。
「ううん」
エリナは首を振った。
「数値じゃなくて、何か別のものだと思う」
俺は、エリナの言葉に頷いた。
数値には表れない何か。それは、始祖が最後に託した、繋がりのようなものかもしれなかった。
---
その夜俺たちは、バロンの屋敷で、今後のことを話し合った。
「ランドルに、戻りましょう」
俺は言った。
「ラグドの内乱はこれで一旦、収束に向かうはずです」
「ミレイさんは、どうしますか」
ミレイは、少し考えた。
「私は、この国に残ります」
ミレイは答えた。
「一族の役目は終わったかもしれませんが、ラグドの復興を見届けたいです」
「もし、何かあれば、連絡してください」
俺は言った。
「天秤の紋章の紙を、一枚渡しておきます」
俺は、フェリクスから受け取っていた紙の一枚を、ミレイに渡した。
「ありがとうございます」
ミレイは頭を下げた。
バロンが深く頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました」
バロンは言った。
「あなたたちのおかげで、この国は救われました」
「まだ、完全に終わったわけではありません」
俺は言った。
「これからしっかり、立て直してください」
「もちろんです」
バロンは頷いた。
---
翌朝、俺たちはランドルに向けて、出発した。
王都を出る前に、崩れ落ちた塔の跡地に、最後にもう一度立ち寄った。
瓦礫の山になった場所を見て、俺は少し複雑な気持ちになった。
「壊れちゃったね」
エリナが言った。
「でも、大きな悲劇は防げた」
俺は答えた。
エリナが俺を見た。
「これから、どうなるんだろう」
「始祖の意思が言ってた、まだ見ぬ、力を求める者」
エリナは言った。
俺は答えた。
「でも、その時が来たら、また向き合うしかない」
「一緒に」
エリナは続けた。
「一緒に」
俺は頷いた。
俺たちは馬に乗って、ランドルへの道を進み始めた。
王都の空は今日も、朝焼けに染まっていた。
二つの太陽が、ゆっくりと昇っていく。
ラグド編は、こうして、一つの区切りを迎えた。
**次回・第74話「ランドルへの帰路」**
> ランドルへ戻る道中、ゼロは、これまでの旅を振り返る。そして、カルロが待つ場所へ近づいていく。
ラグド編、一区切りです。始まりの塔の崩壊、内乱の収束、そして「始祖の器と鍵」の絆の確認。今回から、エリナのステータス画面も表示するようにしました。二人の成長を、数値でも追っていただければと思います。
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