第69話 「接触」
翌日、バロンが動いた。
「第二王子殿下との面会は、難しいかもしれません」
バロンは言った。
「ただ、代わりの機会を用意できそうです」
「代わりの機会、というのは」
俺は聞いた。
「殿下の側近が定期的に、王城の外にある茶屋を訪れています」
バロンは続けた。
「そこに、接触の機会を作れます」
「その側近が、例の魔法師ですか」
俺は聞いた。
「わかりません」
バロンは首を振った。
「ただ、その側近を通じて、魔法師に話が伝わる可能性はあります」
俺は少し考えた。
「わかりました。試してみます」
その日の午後、俺とエリナだけで、指定された茶屋に向かった。アルクとセルマは、周辺で待機している。
茶屋の中は、静かだった。数人の客が、それぞれ静かに過ごしている。
俺たちは、隅の席に座った。
しばらく待つと、扉が開いた。
入ってきたのは、黒い服を纏った人物だった。
俺は、少し身構えた。
だが、その人物の顔を見て、俺は驚いた。
「レイさん」
俺は思わず呟いた。
その人物は、レイではなかった。だが、似たような雰囲気を持つ、若い男だった。年齢は二十代後半くらい。表情が乏しく、目つきが冷たい。
「人違いのようですね」
男は言った。
「私は、ドレクと申します」
「あなたが、第二王子の側近ですか」
俺は聞いた。
「そうです」
ドレクは頷いた。
「バロン殿から、話は伺っております」
俺は、ドレクを観察した。
レイと似た服装。似た雰囲気。無冠との関係が、ほぼ確定的に思えた。
「単刀直入に聞きます」
俺は言った。
「あなたは、無冠の関係者ですか」
ドレクの表情が、わずかに動いた。
「その名前を、よくご存知ですね」
ドレクは言った。
「セインという人物を知っていますか」
俺は続けた。
「知っています」
ドレクは答えた。
「ただ私は、セイン様の直接の弟子ではありません」
「では、どういう繋がりですか」
俺は聞いた。
「私は、無冠の下部組織の出身です」
ドレクは静かに言った。
「セイン様の解散方針に、賛同できず、独自に活動しています」
俺は、ガイウスと同じ構図だと理解した。
「あなたの目的は、何ですか」
俺は聞いた。
「始まりの塔への、完全なアクセスです」
ドレクは答えた。
「隠すつもりはありません」
「その先に、何を求めているんですか」
「器と鍵が揃ったときに開く扉」
ドレクは続けた。
「その先にある、始祖の最後の意思です」
俺は少し驚いた。
ミレイの話していた伝承を、ドレクも知っていた。
「なぜ、それを求めているんですか」
俺は聞いた。
「力です」
ドレクは、はっきりと言った。
「始祖の最後の意思には、計り知れない力が眠っているとされています。それを、手に入れたい」
「それを手に入れて、どうするつもりですか」
「この世界を、より良い形に、作り変えます」
ドレクは答えた。
「弱肉強食ではなく、力を持つ者が、正しく統治する世界を」
俺は、ドレクの目を見た。
狂信的な確信が、そこにあった。
「セインは、同じような考えを持っていました」
俺は言った。
「そして、それが間違いだったと、気づきました」
「セイン様は、弱くなられただけです」
ドレクは冷たく言った。
「私は、その道を歩みません」
俺は、少し息を吐いた。
対話が簡単には通じない相手だと、理解した。
「あなたは」
ドレクが、エリナを見た。
「もしかして」
エリナが、少し身を固くした。
「鍵、ですか」
ドレクは続けた。
「マナを引き寄せる、特殊な力を持っている」
俺は、エリナの前に出た。
「エリナには、手を出させない」
俺は言った。
ドレクは、静かに笑った。
「今日は、まだ手を出すつもりはありません」
ドレクは言った。
「ただ、確認できただけで、十分です」
「どういう意味ですか」
俺は聞いた。
「器と鍵、両方が、この場所にいる」
ドレクは続けた。
「これは、私にとって、大きな進展です」
俺は、警戒を強めた。
「今日は、これで失礼します」
ドレクは立ち上がった。
「近いうちにまた、お会いすることになると思います」
ドレクは、茶屋を出ていった。
---
俺はエリナと共に、バロンの屋敷に戻った。
アルクとセルマにも、状況を報告した。
「予想以上に、危険な相手だ」
アルクは言った。
「思想が、完全に固まっている」
「エリナが、鍵であることも、確認されてしまいました」
俺は続けた。
カルロがいれば、相談できたのにと思った。だが今は、自分たちで判断するしかない。
「これから、どうする」
セルマが聞いた。
俺は、少し考えた。
「まず、始まりの塔の状況を、もっと詳しく調べる必要があります」
俺は言った。
「ドレクが、次に何をしてくるか、予測しなければ」
エリナが、俺を見た。
「私、大丈夫」
エリナは言った。
「怖いけど、逃げない」
俺は頷いた。
「一緒に、乗り越えよう」
その夜、俺はステータス画面を確認した。
ゼロ Lv.13
HP:58/58
MP:31/31
筋力:18 敏捷:21 魔力:11 耐久:15 知力:22
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
ドレクという、新しい脅威。
狂信的な思想を持つ、無冠の残党。
この物語はまた一つ、大きな山場に近づいていた。
窓の外を見た。王都の夜空に、二つの月が静かに輝いている。
だがその静けさは、嵐の前の静けさのように感じられた。
**次回・第70話「始まりの塔」**
> ドレクとの接触から数日後、事態が急変する。第二王子派が、突如として、始まりの塔への総攻撃を開始した。ゼロたちは、その混乱に、巻き込まれていく。
ドレクという、無冠の統制を離れた過激派が登場しました。ガイウスとは違う、狂信的な思想を持つ相手です。エリナが鍵であることが、彼に確認されてしまいました。次回、いよいよ大きな動きが始まります。
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