第68話 「第二王子」
王都に到着したのは、夕方だった。
ラグドの王都は、これまで見てきたどの街よりも大きかった。石造りの立派な建物が並び、中央には王城がそびえている。
だが、街全体に、緊張した空気が漂っていた。人々の表情が硬く、警備の兵士の数が異様に多い。
「以前は、もっと活気のある街でした」
ミレイが、悲しそうに言った。
俺たちは、ミレイの案内で、街の外れにある屋敷に向かった。
「ここに、第一王子派の重鎮がいます」
ミレイは言った。
「私の一族と、古くから繋がりのある方です」
屋敷の中に通されると、初老の男性が出迎えた。
「ミレイ、よく戻った」
男性は言った。
「そちらの方々は」
「外部から、協力を頼んだ方々です」
ミレイは説明した。
「信頼できる方々です」
男性は、俺たちを一人ずつ見回した。
「私は、バロンと申します」
男性は言った。
「第一王子殿下の側近を務めております」
俺は自己紹介をした。ゼロという名前と、ランドルの冒険者であることを伝えた。
「現在の状況を、詳しく教えてもらえますか」
俺は言った。
バロンは、深く息を吐いた。
「第二王子殿下は、半年前まで、穏やかな方でした」
バロンは言った。
「ですが、ある時期を境に、急激に変わられました」
「その時期に、何があったんですか」
俺は聞いた。
「黒い服を纏った魔法師が、第二王子殿下に接触したのです」
バロンは続けた。
「それ以降殿下は、その魔法師の助言に、強く依存するようになりました」
「魔法師の名前は」
俺は聞いた。
「わかりません」
バロンは首を振った。
「ただ殿下は、その者を『先生』と呼んでいます」
俺は、頭の中で情報を整理した。
無冠の残党が、第二王子に取り入り、影響力を強めている。
「その魔法師は第二王子に、何を求めているんですか」
俺は聞いた。
「即位した暁には、始まりの塔への完全なアクセス権を、求めているようです」
バロンは答えた。
「それと引き換えに、魔物を使役する力を借りて、派閥の勢力を拡大しています」
「魔物の使役、というのは」
俺は聞いた。
「第二王子殿下の私兵に、通常では考えられない強さの兵士がいます」
バロンは続けた。
「その多くが、魔物の力を体に取り込んでいるという噂です」
俺は、ガイウスのことを思い出した。
人間と魔物の融合。無冠の実験が、ここでも行われている。
「第一王子は、今、どのような状況ですか」
俺は聞いた。
「劣勢です」
バロンは正直に答えた。
「兵力で、大きく差をつけられています」
俺は少し考えた。
「直接、第二王子とその魔法師に、会うことができれば」
俺は言った。
「話をしたいと思います」
バロンは、少し驚いた顔をした。
「戦うのではなく、話すのですか」
「まずは、対話を試みたいです」
俺は続けた。
「それで解決しないなら、別の方法を考えます」
バロンは、しばらく俺を見た。
「あなたは、少し変わった方のようですね」
バロンは言った。
「よく言われます」
俺は答えた。
バロンは、少し笑った。
「わかりました」
バロンは続けた。
「接触の機会を、作れるか考えてみます」
---
その夜俺たちは、バロンの屋敷に泊まることになった。
エリナが、少し不安そうな顔をしていた。
「もし、第二王子の魔法師が、私の存在に気づいたら」
エリナは言った。
「気をつける」
俺は答えた。
「エリナを、危険な場所に晒さない」
「でももし、その扉を開けるために、私が必要なら」
エリナは続けた。
「隠れているだけじゃ、解決しないかもしれない」
俺は、エリナの言葉をしばらく考えた。
「もし、そうなったら」
俺は言った。
「二人で、決める」
エリナは頷いた。
「うん」
アルクが、部屋に入ってきた。
「王都の様子を、少し見てきた」
アルクは言った。
「第二王子派の兵士が、街中に配置されている。かなり厳戒態勢だ」
「何か、警戒しているんでしょうか」
俺は聞いた。
「わからない」
アルクは答えた。
「ただ、俺たちの動きが、すでに察知されている可能性もある」
俺は少し緊張した。
「気をつけて動きましょう」
俺は言った。
セルマが、剣を確認しながら言った。
「いつでも、動けるようにしておく」
俺はステータス画面を確認した。
ゼロ Lv.13
HP:58/58
MP:31/31
筋力:18 敏捷:21 魔力:11 耐久:15 知力:22
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
王都の緊張が、肌で感じられた。
第二王子と、その魔法師。始まりの塔。器と鍵。
全ての線がいよいよ、一点に収束しようとしていた。
窓の外を見た。王都の夜空にも、二つの月が静かに輝いていた。
だがその光はどこか、いつもより硬く感じられた。
**次回・第69話「接触」**
> バロンの手引きで、ゼロは第二王子との面会の機会を得る。だが、そこで待っていたのは、王子ではなく、黒い服を纏った、見覚えのない魔法師だった。
ラグドの政治の中枢に触れる回でした。第二王子に取り入る謎の魔法師、ガイウスと同じ人間と魔物の融合の技術。王都全体の緊張感が高まっています。次回、いよいよその魔法師と接触します。
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