第64話 「新しい依頼」
ガイウスとの戦いから、しばらく経った。
エリナは日常生活に戻り、少しずつ、新しい修行にも慣れてきていた。カルロの指導は厳しかったが、確実に成果が出ていた。
その日ギルドに向かうと、受付のリナが俺を見て言った。
「ゼロさん、ベルナルド様から、直接お話ししたいことがあるそうです」
「えっ、わかりました」
俺は答えた。
「商会に向かいます」
エリナも一緒に来た。
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商会に着くと、ベルナルドが応接室で待っていた。以前と変わらない、柔らかな笑顔だ。
「久しぶりだな」
ベルナルドは言った。
「無冠との一件、聞いている。よくやってくれた」
「まだ、完全に終わったわけではありません」
俺は答えた。
「それでも、大きな前進だ」
ベルナルドは続けた。
「今日は、新しい依頼を頼みたくて呼んだ」
「どんな内容ですか」
俺は聞いた。
ベルナルドは、テーブルに書類を広げた。
「これまでとは、少し違う種類の仕事だ」
ベルナルドは言った。
「戦闘ではない」
俺は少し意外に思った。
「詳しく聞かせてください」
「実は私の商会が、大陸南部の商会と、新しい取引を始めようとしている」
ベルナルドは続けた。
「ただ、南部の情勢が不安定で、交渉が難航している」
「不安定というのは」
「南部の国が、内政の問題を抱えているらしい」
ベルナルドは説明した。
「詳しいことは、私にもわからない。そこで、信頼できる人間を、視察と交渉の補助に送りたいと考えている」
俺は少し考えた。
「俺に、外交の経験はありません」
「経験は求めていない」
ベルナルドは言った。
「求めているのは公正な判断力と、話を聞く力だ。それはお前が、これまでの依頼で証明してきたことだ」
エリナが俺を見た。
「行ってみたら」
エリナは言った。
「新しい経験になると思う」
俺は少し考えた。
「詳細を、教えてください」
ベルナルドが、地図を広げた。
「大陸南部に、ラグドという国がある」
ベルナルドは説明した。
「ここで、内乱に近い状況が起きている」
俺は地図を見た。ランドルからは、かなり離れた場所だ。
「内乱の原因は」
俺は聞いた。
「詳しくはわからない」
ベルナルドは答えた。
「ただ噂では、国内の派閥争いに、外部の勢力が絡んでいるという話がある」
「外部の勢力、というのは」
俺は聞いた。
「わからない」
ベルナルドは首を振った。
「ただ、無冠か、あるいは天秤に関係しているかもしれない、という噂もある」
俺の中に、緊張が走った。
「もし本当にそうなら、放っておけません」
「私もそう思って、お前に依頼したいと考えた」
ベルナルドは続けた。
「ただし、これは強制ではない。危険が伴う可能性もある」
俺は、カルロやアルクに相談すべきだと思った。
「少し、時間をください」
俺は言った。
「仲間と相談してから、返答します」
「もちろんだ」
ベルナルドは頷いた。
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鍛冶屋の跡で、全員に相談した。
カルロは、話を聞いて少し考えた。
「ラグドという国は、聞いたことがある」
カルロは言った。
「大陸南部でも、比較的安定していた国だ。内乱が起きているというのは、意外だ」
「外部勢力の関与は、どう思いますか」
俺は聞いた。
「可能性はある」
カルロは続けた。
「無冠が南部にも下部組織を持っていたなら、そこが暴走している可能性もある」
アルクが口を開いた。
「天秤の可能性もあるな」
アルクは言った。
「フェリクスが、南部での活動について、何か知っているかもしれない」
「確認してみます」
俺は言った。
「行くなら、私も同行する」
セルマは続けた。
「南部の地理には、多少詳しい」
エリナも手を挙げた。
「私も行く」
俺は、エリナを見た。
「まだ本調子じゃ、ないじゃないか」
「もう大丈夫」
エリナは言った。
「それに、新しい修行の成果も試したい」
俺は少し考えて頷いた。
「わかった。一緒に行こう」
カルロが静かに言った。
「今回、私は残る」
老魔法師は続けた。
「体力の回復に、もう少し時間が必要だ」
俺は頷いた。
「はい。無理はしないでください」
「お前たちも、無理をするな」
カルロは答えた。
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その夜俺は、フェリクスへの連絡を試みた。
天秤の紋章の紙を使って、連絡員に接触した。
翌日、モリスが現れた。
「南部の件で、話があると聞きました」
モリスは言った。
「天秤は、ラグドの件に関与していますか」
俺は率直に聞いた。
モリスは少し考えた。
「天秤は、直接関与していません」
モリスは答えた。
「ただ南部で、始祖の力に関する不穏な動きがあるという情報は、掴んでいます」
「詳しく教えてもらえますか」
「私には、詳細な情報はありません」
モリスは続けた。
「フェリクス様なら、もう少し詳しいことを、ご存知かもしれません」
「フェリクスさんに、会えますか」
「伝えておきます」
モリスは頷いた。
モリスが去った後、俺はエリナと顔を見合わせた。
「南部の件、思ったより大きな話かもしれない」
俺は言った。
「それでも、行くんでしょ」
エリナは聞いた。
「行く」
俺は答えた。
「放っておけない」
エリナは小さく笑った。
「ゼロらしいね」
俺はステータス画面を確認した。
ゼロ Lv.13
HP:58/58
MP:31/31
筋力:18 敏捷:21 魔力:11 耐久:15 知力:22
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
新しい依頼。新しい土地。
この世界は、まだまだ広い。
橋になるという役目は、これからも続いていく。
**次回・第65話「ラグドへ」**
> フェリクスから届いた情報を手に、ゼロたちは南部の国、ラグドへ向けて出発する。そこで待っていたのは、想像を超える規模の混乱だった。
新しい依頼、新しい土地の話が始まります。無冠でも天秤でもない、また別の不穏な動きの気配。カルロは今回、体調を考慮してランドルに残ります。次回、ラグドへの旅立ちです。
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