第63話 「エリナの決意」
数日後、エリナは体力をほぼ取り戻していた。
治療師から、日常生活に問題ないという診断が出て、宿に戻ることを許可された。
俺はエリナを宿まで送った。
「無理はするなよ」
俺は言った。
「わかってる」
エリナは答えた。
「でも、明日から、修行を再開したい」
俺は少し考えた。
「カルロさんに相談してみよう」
エリナは頷いた。
---
翌日、鍛冶屋の跡で、エリナがカルロに向き合っていた。俺とアルクとセルマも同席している。
「修行を再開したいです」
エリナは言った。
カルロは、エリナをしばらく見つめた。
「体は、本当に大丈夫か」
「はい」
エリナは頷いた。
「治療師にも、確認済みです」
カルロは、静かに頷いた。
「わかった」
カルロは言った。
「では、今日から、次の段階に進む」
「次の段階、というのは」
俺は聞いた。
カルロは、俺とエリナを交互に見た。
「もう、隠しておく必要はないだろう」
老魔法師は言った。
俺は少し息を止めた。
「話すんですか」
「話す時が来た」
カルロは頷いた。
エリナが、不思議そうな顔をした。
「何の話ですか」
俺はカルロを見た。老魔法師が頷いた。俺が話すべきだ、という合図だった。
「エリナ」
俺は静かに言った。
「始祖の鍵という言葉を、覚えているか」
「クレスタ村の件で、聞いた言葉」
エリナは答えた。
「始祖の器と対になる存在、だっけ」
「その通りだ」
俺は続けた。
「カルロさんはその鍵が、エリナかもしれないと考えている」
エリナは、しばらく黙っていた。
「私が」
エリナは、ゆっくりと繰り返した。
「鍵」
「確証はない」
カルロが言った。
「お前のマナを引き寄せる能力は、器であるゼロの内から外に押し出す能力と、正反対の性質を持っている。それが、鍵の特徴と一致している」
エリナは、自分の手のひらを見た。
「だから団長は、私を狙っていたんですか」
「その可能性が高い」
カルロは頷いた。
「そして無冠の残党や他の勢力も、同じ理由でお前を狙う可能性がある」
エリナは、少し表情を曇らせた。
「私、もっと危険な立場になるって、ことですか」
「そうかもしれない」
カルロは正直に答えた。
「だからこそ、今まで話さなかった。大きな責任を、いきなり背負わせたくなかった」
エリナは、しばらく考えていた。
それから、俺を見た。
「ゼロは、いつから知ってたの」
「少し前から」
俺は正直に答えた。
「隠していて、悪かった」
エリナは、首を振った。
「ううん」
エリナは続けた。
「カルロさんの考えも、わかる。それに」
「それに?」
「今、聞けてよかった」
エリナは言った。
「知らないまま、また誰かに狙われるより、ずっといい」
俺はエリナの強さに、改めて感心した。
カルロが静かに言った。
「エリナ、鍵としての力を、これから育てていくかどうかは、お前が決めることだ」
「もし、育てないと言ったら」
「そのまま、今の力で生きていけばいい」
カルロは答えた。
「無理強いはしない」
エリナは、しばらく考えた。
「育てます」
エリナは、はっきりと言った。
「鍵かどうか、まだわからないけど。もし本当にそうなら、その力を正しく使いたい」
「なぜだ」
カルロが聞いた。
「団長みたいな人間に、利用されたくない」
エリナは続けた。
「もし私が特別なら、その力を、私自身の意思で使いたい。誰かに奪われる前に」
俺は、エリナの言葉に深く頷いた。
カルロも、静かに微笑んだ。
「いい覚悟だ」
カルロは言った。
「では今日から、鍵としての修行を始める」
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その日の修行は、これまでとは違うものだった。
カルロはエリナに、マナを引き寄せるだけでなく、それを「留める」練習をさせた。
「引き寄せた力を、自分の中に一時的に保持する」
カルロは説明した。
「それができれば、より大きな力を、必要な時に放出できる」
エリナは、目を閉じて集中した。
しばらくしてエリナの手のひらに、以前よりずっと強い光が集まった。
「感じる」
エリナは言った。
「何か大きなものが、体の中にある」
「無理に引き出すな」
カルロが注意した。
「今日は、感じるだけでいい」
エリナは頷いて、集中を解いた。
「疲れた」
エリナは息を吐いた。
「でもなんか、わかった気がする」
「何が」
俺は聞いた。
「私もゼロと同じように、この世界に何か関わってるってこと」
エリナは続けた。
「ただ逃げてきた、盗賊団の子供じゃない」
俺はエリナを見た。
「エリナは、最初から特別だった」
俺は言った。
「鍵かどうかに関わらず」
エリナは、少し照れたように笑った。
「ゼロが言うとなんか、説得力あるね」
俺は少し口元を緩めた。
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その夜、宿の前でエリナと少し話した。
「不安じゃないのか」
俺は聞いた。
「もし本当に鍵なら、これからもっと大変なことになる」
「不安だよ」
エリナは正直に言った。
「でもゼロも、同じ道を歩いてきたんでしょ」
「そうだな」
「なら私も、頑張れる」
エリナは続けた。
「一人じゃないから」
俺は頷いた。
「一緒に頑張ろう」
エリナは、小さく笑った。
夜空を見上げた。二つの月が静かに輝いている。
ステータス画面を確認した。
ゼロ Lv.13
HP:58/58
MP:31/31
筋力:18 敏捷:21 魔力:11 耐久:15 知力:22
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
変化はない。
エリナが自分の運命を受け入れ、前を向いた。
その決意がこの世界を、また少し前に進めていく気がした。
**次回・第64話「新しい依頼」**
> 日常が少しずつ戻ってきたある日、ベルナルドから新しい依頼が舞い込んだ。それは、これまでとは全く違う種類の仕事だった。
エリナが、始祖の鍵の可能性を知り、それでも前を向いて修行を続けることを選びました。「誰かに奪われる前に、自分の意思で使いたい」という言葉、エリナの成長の集大成のような台詞です。次回は少し落ち着いた日常回を挟みます。
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