第62話 「新たな影」
翌日、アルクが鍛冶屋の跡に来た。
「ガイウスの尋問が、少し進んだ」
アルクは言った。
「ディーンが、王国の尋問技術を使って聞き出した」
「何がわかったんですか」
俺は聞いた。
「ガイウスが従っていたのは、無冠本体ではなかった」
アルクは続けた。
「セインの解散方針に反発した、下部組織の残党たちだ」
カルロが静かに言った。
「予想していた通りだ」
「規模は、どれくらいですか」
俺は聞いた。
「正確な数はわからない」
アルクは答えた。
「ただ、ガイウスの証言では、複数の下部組織が、統制を離れて動き始めているらしい」
「セインは、把握しているんですか」
俺は聞いた。
「レイを通じて、確認してもらっている」
アルクは続けた。
「ただ、セイン自身も、全ての下部組織を完全に管理していたわけではない。統制が緩んでいる部分から、こうした残党が生まれている」
俺は少し考えた。
「エリナを狙っていた理由は、わかりましたか」
「始祖の鍵に関する情報を、独自に集めていたようだ」
アルクは答えた。
「無冠の研究資料の断片が、下部組織にも流れていたらしい」
カルロが口を開いた。
「これは、想定していたことだ」
老魔法師は言った。
「大きな組織が解体に向かうとき、統制を失った部分が、独自に暴走することがある」
「今後も、こうした残党が現れる可能性がありますか」
俺は聞いた。
「可能性は高い」
カルロは頷いた。
「セインの意思とは無関係に、こうした動きは続くだろう」
俺は考えた。
無冠という一つの脅威が減っても、その残滓が、別の形で問題を生み続けている。
「対処の方法は」
俺は聞いた。
「一つずつ、潰していくしかない」
アルクは答えた。
「幸い、セインとレイが、無冠内部の情報を提供してくれている。残党の動きを、早めに掴めるはずだ」
俺は頷いた。
「セインに、感謝しないといけませんね」
「そうだな」
アルクは少し笑った。
---
その日の夕方、レイがランドルを訪れた。
「情報を持ってきました」
レイは言った。
「師匠が、まとめてくれたものです」
俺たちは、レイの持ってきた資料を確認した。
無冠の下部組織のリストと、それぞれの活動状況が記されていた。ラーダ団の名前もあった。すでに壊滅させたことを、俺は伝えた。
「他にもいくつか、統制を離れた組織があります」
レイは続けた。
「ただ、多くは小規模です。ラーダ団ほどの脅威にはならないと、思われます」
「安心していいんですか」
俺は聞いた。
「油断はできません」
レイは正直に言った。
「ただ、師匠が言うには、これらの残党は、いずれ自然に消えていく可能性が高いとのことです」
「なぜですか」
「無冠という後ろ盾がなくなれば、資金も魔物の供給も、途絶えます」
レイは続けた。
「独自に活動を続けられる組織は、限られています」
俺は少し安堵した。
「ただし」
レイは続けた。
「一つだけ、注意すべき情報があります」
「何ですか」
「始祖の鍵に関する情報を、最も多く持っていたのは、ガイウスの組織でした」
レイは言った。
「彼が持っていた情報が、他の残党に広がっていないか、確認する必要があります」
俺は頷いた。
「ガイウスから、もっと詳しく聞き出せますか」
「ディーンが、引き続き尋問している」
アルクが答えた。
「時間をかければ、もっとわかるはずだ」
俺はステータス画面を確認した。
ゼロ Lv.13
HP:58/58
MP:31/31
筋力:18 敏捷:21 魔力:11 耐久:15 知力:22
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
一つの脅威が終わり、別の課題が見えてきた。
だが、以前より確実に、状況は良くなっている。
セインとレイが協力者になった。天秤との対話も続いている。王国とも、良好な関係を築けている。
一人で全てを背負う必要はない。
その事実が、少しだけ、俺の心を軽くした。
---
その夜、俺はエリナの見舞いに行った。
エリナは、だいぶ顔色が良くなっていた。ベッドの上で、起き上がって座っている。
「アルクさんが、さっき教えてくれた」
エリナは言った。
「今日、色々話し合ってたんでしょ」
「アルクが来たのか」
「見舞いに来てくれた」
エリナは続けた。
「私、まだ危険なの?」
「わからない」
俺は正直に答えた。
「ただ、以前より、味方が増えている」
エリナは頷いた。
「早く元気になって、また修行したい」
「無理はするな」
俺は言った。
「わかってる」
エリナは続けた。
「でもゼロも、私を守るためだけに、強くならないで」
俺は少し驚いてエリナを見た。
「どういう意味だ」
「私も、ゼロを守りたい」
エリナは言った。
「守られるだけじゃなくて」
俺は、しばらくエリナを見ていた。
「わかった」
俺は言った。
「一緒に強くなろう」
エリナは、小さく笑った。
窓の外で、二つの月が、静かに輝いていた。
**次回・第63話「エリナの決意」**
> 身体が完全に回復したエリナが、カルロに新しい修行を願い出た。それは、これまでとは違う、覚悟を伴うものだった。
新しい組織名は出さず、「無冠の統制を離れた残党」という既存の枠組みで整理しました。セインとレイが協力者として機能し始め、状況は一つずつ前に進んでいます。「私も、ゼロを守りたい」というエリナの言葉、彼女の成長を感じてもらえたら嬉しいです。
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