第59話 「決着」
部下たちが一斉に襲いかかってきた。
アルクとセルマが前に出て、迎え撃った。剣がぶつかり合う音が、砦の中に響いた。
俺はエリナと共に、ガイウスと対峙した。
カルロが杖を構えた。
「私が援護する」
老魔法師は言った。
「お前たちは、ガイウスに集中しろ」
その声に、俺はわずかな違和感を覚えた。
「無理はしないでください」
俺は出発前に言ったはずだった。
「心配するな」
カルロはそう答えていた。だが今、その言葉を思い出すと、不安が拭えなかった。
ガイウスが動いた。
速い。強化された体は、見た目以上の速度を持っていた。俺は短剣を構えて、その突進を受け止めようとした。
衝撃が、腕を伝った。
押し負ける。
俺は横に体を逃がして、直撃を避けた。だが、腕にしびれが残った。
「速いな」
ガイウスが笑った。
「だが、それだけか」
エリナが石を投げた。マナを纏った石が、ガイウスの肩に命中した。だが、強化された肌は、その一撃を弾いた。
「効かないぞ」
ガイウスが続けた。
カルロが杖を構えた。手が、わずかに震えていた。
「カルロさん、無理しないで」
「これくらい、なんでもない」
カルロは続けた。
杖の先から、光の矢が放たれた。ガイウスの足元に命中し、爆発が起きた。ガイウスの体が、わずかによろめいた。
だが、その一撃を放った直後、カルロが片膝をついた。
「カルロさん!」
エリナが叫んだ。
俺は駆け寄ろうとした。だが、ガイウスがその隙を逃さなかった。
「老いぼれから片付けるか」
ガイウスが言った。
俺は間に割って入ろうとした。だが、間に合わない。
カルロが杖を構えて、防御壁を展開した。だが、光が弱々しい。
「魔力が、足りない」
カルロが呟いた。
「こんなはずでは」
防御壁が、薄い膜のような形にしかならなかった。
ガイウスの拳が、その壁を容易く貫いた。
カルロの体が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「カルロさん!」
エリナが叫んだ。
俺は駆け寄った。カルロは意識を失っていた。呼吸はある。だが、深い傷を負っていた。
「なぜ、こんなに早く」
俺は呟いた。
答えは、わかっていた。
最近の連続した活動で、カルロの魔力は、本来の水準まで回復していなかったのだろう。今朝の様子を、もっと気にかけるべきだった。
怒りが、腹の底から湧き上がった。相手への怒りと、自分への苛立ちが混ざっていた。
俺はガイウスを見た。
「エリナ、カルロさんを安全な場所に」
俺は言った。
エリナが頷いて、カルロを引きずるように後退させた。
俺は短剣を構え、ガイウスに向き合った。
「その老いぼれ、まだ生きてるのか」
ガイウスは言った。
「次はお前だな」
ガイウスが突進してきた。
俺は避けようとした。だが、先ほどより速度が上がっている。強化がさらに進んでいるのか。
拳が、俺の脇腹を捉えた。
息が詰まった。体が吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられた。
「ゼロ!」
エリナの声が聞こえた。
俺は立ち上がろうとした。だが、体が言うことを聞かない。
ガイウスが、俺に向かって歩いてきた。
「意外と脆いな」
ガイウスは言った。
「Cランクといっても、この程度か」
エリナが、俺とガイウスの間に飛び出した。
「やめて!」
エリナが叫んだ。
「エリナ、下がれ」
俺は叫んだ。
だが、遅かった。
ガイウスの拳が、エリナに向かって振り下ろされた。
俺は体を無理やり動かした。
間に合わなかった。
拳が、エリナの体を捉えた。
エリナが、吹き飛ばされた。地面に崩れ落ちる。動かない。
「エリナ!」
俺は叫んだ。
視界が、赤く染まった気がした。
怒りが、体の内側で爆発した。
胸の温もりが、今までにない強さで脈打った。
「お前」
ガイウスが、俺を見た。
「その目は」
俺は立ち上がった。
体の痛みが、遠くに感じられた。
胸の温もりが、腕に指先に、全身に流れていく。今までにない速さで。
「エリナに何かあったら」
俺は低い声で言った。
「許さない」
ガイウスが、少し後退った。
「なんだ、この魔力は」
ガイウスが言った。
俺の視界に、光が浮かんだ。
```
覚醒反応:検出
条件:仲間の危機
効果:一時的な能力向上
```
見たことのない表示だった。
だが、考えている余裕はなかった。
俺は地面を蹴った。
速い。今までとは、比較にならない速度だった。
ガイウスの拳が振り下ろされる前に、俺はその懐に入り込んでいた。
短剣を、ガイウスの腹に突き立てた。
強化された肌を、貫通した。
ガイウスが、苦悶の声を上げた。
「馬鹿な」
ガイウスが呟いた。
「この鎧を、貫いた……?」
俺は短剣を引き抜いた。
ガイウスが後退した。傷口から、黒い血が流れている。
「化け物か」
ガイウスが言った。
「お前にだけは、言われたくない」
俺は答えた。
ガイウスが、再び突進してきた。
俺はその動きの全てが、はっきりと見えていた。
拳を避け、カウンターで肩を切り裂いた。ガイウスがよろめく。
もう一撃。今度は、脚を狙った。
ガイウスが膝をついた。
「なぜだ」
ガイウスが呟いた。
「無冠の力が、こんな小僧に負けるはずが」
「お前は、力を利用することしか考えていない」
俺は言った。
「守りたいものがある人間には、勝てない」
俺は、最後の一撃を放った。
短剣が、ガイウスの首筋に触れた。
ガイウスの動きが、完全に止まった。
「降参だ」
ガイウスは呟いた。
「殺すなら、殺せ」
俺は少し考えた。
殺意は、確かにあった。だがそれを実行することが、正しいのかどうか。
「殺さない」
俺は言った。
「捕らえて、無冠の残った組織のことを聞かせてもらう」
ガイウスは、何も言わなかった。
俺は短剣を引いて、周囲を確認した。
アルクとセルマが、残りの部下たちを制圧していた。全員、地面に倒れている。
「エリナ」
俺は叫んで、駆け寄った。
エリナは、地面に横たわっていた。
俺はエリナの傍に膝をついた。
呼吸はある。だが、浅い。傷が深い。
「エリナ」
俺は呼びかけた。
「聞こえるか」
エリナの瞼が、わずかに動いた。
「ゼロ」
エリナが小さく呟いた。
「大丈夫だ」
俺は言った。
「今、助ける」
俺は胸の温もりを意識した。まだ、覚醒の余韻が残っている。
カルロが以前教えてくれた、簡易的な回復魔法を思い出した。試したことはない。だが、やるしかない。
俺は手をエリナの傷口にかざした。
温もりを、外に押し出した。
光が、エリナの体を包んだ。
傷口が少しずつ塞がっていく。完全ではない。だが、出血が止まった。
「早く、街に運ぼう」
セルマが駆け寄ってきた。
「専門の治療が必要だ」
俺は頷いた。
カルロも、意識を取り戻していた。まだ動けないが、命に別状はないようだった。
「すまない」
カルロが弱々しく言った。
「最近、休みなく動きすぎていた。自分の限界を、見誤った」
「後で話しましょう」
俺は言った。
「今は、ランドルに戻ります」
全員で、エリナとカルロを馬に乗せた。
俺はエリナの体を支えながら、馬を走らせた。
夕日が、森を赤く染めていた。
ステータス画面を確認した。
ゼロ Lv.13
HP:58/58
MP:31/31
筋力:18 敏捷:21 魔力:11 耐久:15 知力:22
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
Lv.9から、一気にLv.13まで上がっていた。
全ステータスが、大きく上昇している。魔力も、ついに平均を超えていた。
だがそんなことより、エリナの容態の方が、ずっと大事だった。
俺は馬を走らせ続けた。
ランドルまで、急がなければならない。
**次回・第60話「回復」**
> ランドルに戻ったゼロたちを待っていたのは、ギルドの治療師と、不安な一夜だった。エリナの容態は、予断を許さなかった。
カルロが早期に消耗した理由、連日の激務による疲労蓄積という形で補強しました。熟練の魔法師でも、無理を重ねれば限界がある——そんな人間らしさを出したかった部分です。ガイウスとの決着、そしてゼロの覚醒。次回、緊張の一夜が続きます。
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