第53話 「始祖の鍵」
翌朝、ロックスがギルドで待っていた。
「調べてきた」
ロックスは言った。
「時間はかかったが、古い記録を見つけた」
「始祖の鍵についてですか」
俺は聞いた。
「ああ」
ロックスは古びた紙束を、テーブルに置いた。
「ギルドの資料室に、大昔の伝承をまとめた文献があった。誰も見向きもしない棚の奥にあったやつだ」
俺たちはテーブルを囲んだ。エリナ、アルク、セルマ、カルロも集まっていた。
ロックスが紙束を開いた。
「これによると」
ロックスは読み上げた。
「始祖は自分の力を、二つに分けて残したとされている」
「二つに」
俺は繰り返した。
「一つは器。始祖の魂の核となる部分で、循環し続ける」
ロックスは続けた。
「もう一つが鍵だ」
「鍵の役割は」
カルロが聞いた。
「鍵は、器の力を完全に引き出すために必要なものらしい」
ロックスは紙を指さした。
「器だけでは、力の一部しか使えない。鍵と組み合わさることで、初めて完全な力になる」
俺は少し息を止めた。
「俺には、鍵がないということですか」
「わからない」
ロックスは続けた。
「ただ、この文献によると、鍵は物ではなく、人間だと書かれている」
全員が沈黙した。
「人間、というのは」
俺は聞いた。
「鍵となる素質を持つ人間が、この世界のどこかにいる、ということだ」
ロックスは言った。
「器と鍵両方が揃ったとき、始祖の力が完全に発揮される」
カルロが静かに言った。
「それが、始祖の残したもう一つの意味だったのか」
「知っていましたか」
俺はカルロを見た。
「知らなかった」
カルロは正直に言った。
「オルディナの遺跡の術式にも、そこまでの詳細は書かれていなかった。この文献は、遺跡よりさらに古い時代の記録かもしれない」
アルクが口を開いた。
「クレスタ村を襲った集団が、その鍵を探していた、ということですか」
「その可能性が高い」
ロックスは続けた。
「『器を見つけたら連絡しろ』という指示は、鍵を持つ人間を探すための情報収集だったのかもしれない」
「なぜ、村を襲う必要があったんですか」
俺は聞いた。
「鍵が人間なら、村を焼く理由がわかりません」
「金属の箱だ」
カルロが言った。
「あの中の紙に、鍵に関する手がかりが、書かれていたのかもしれない」
「村長が、鍵の情報を持っていたということですか」
「可能性の一つだ」
カルロは続けた。
「村長の家系が、代々何かを守っていたのかもしれない」
俺は頭の中で情報を整理した。
始祖の器である俺。始祖の鍵である、まだ見ぬ誰か。器と鍵が揃うと、完全な力が発揮される。それを探している、無冠とは別の勢力。
「この勢力の目的は、何だと思いますか」
俺は聞いた。
セルマが口を開いた。
「無冠が人間の限界を超えようとしていたのとは、また違う目的かもしれない」
セルマは続けた。
「鍵を手に入れて、器の力を完全に引き出そうとしているなら、その先に何を望んでいるのか」
「始祖の力を、自分たちのものにしようとしているんでしょうか」
俺は言った。
「その可能性が高い」
カルロが頷いた。
「器と鍵が揃ったとき、力が発揮されるのは器自身だ。だがその力を制御し、利用しようとする者がいれば、器を捕らえて鍵を探し出し、力を強制的に引き出そうとするかもしれない」
俺は少し考えた。
「俺が捕まれば、危険だということですか」
「そうだ」
カルロは静かに言った。
「これまでの無冠とは、また違う脅威かもしれない」
エリナが心配そうな顔をした。
「気をつけないと」
「気をつけます」
俺は言った。
ロックスが紙束を閉じた。
「他に知っている情報はない。ただこの勢力の名前が、少しだけ記録にある」
「名前があるんですか」
俺は聞いた。
「『天秤』と名乗っているらしい」
ロックスは続けた。
「これ以上は、俺には調べようがない」
天秤。
その名前を、頭の中に刻んだ。
---
その日の午後、カルロと二人で話した。
鍛冶屋の跡で、老魔法師が静かに言った。
「鍵となる人間を、私も少し考えている」
カルロは言った。
「心当たりがあるんですか」
「確信はない」
カルロは続けた。
「ただ、鍵となる素質を持つ人間は器と同じように、特別な魔力の感度を持っているはずだ」
俺は少し考えて、思い当たった。
「エリナですか」
カルロは俺を見た。
「なぜ、そう思う」
「マナを引き寄せる能力」
俺は続けた。
「エリナは俺と、逆の方向の力を持っています。俺が内から外に出す。エリナは外から内に引き寄せる」
カルロは静かに頷いた。
「私も、同じ可能性を考えていた」
老魔法師は言った。
「ただ、確証はない」
「エリナに話しますか」
「まだだ」
カルロは首を振った。
「確証もないまま、大きな責任を背負わせるべきではない」
「わかりました」
俺は窓の外を見た。
天秤という名の勢力。始祖の鍵。もしエリナがその鍵なら、彼女はこれから、さらに大きな危険にさらされることになる。
「守ります」
俺は言った。
「何をだ」
「エリナを」
俺は続けた。
「鍵かどうかに関わらず」
カルロは少し目を細めた。
「お前らしい答えだ」
その夜、宿でステータス画面を確認した。
ゼロ Lv.9
HP:37/37
MP:20/20
筋力:12 敏捷:15 魔力:7 耐久:10 知力:17
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
変化はない。
だが今日知った情報が、頭の中で重く残っていた。
始祖の鍵。天秤という勢力。器と鍵が揃ったときの、完全な力。
もしエリナが鍵なら。
それは二人の運命が、思っていた以上に深く結びついているという、ことかもしれない。
俺は窓の外の月を見た。二つの月が、静かに並んでいる。
その夜は新しい謎と共に、静かに更けていった。
**次回・第54話「天秤の使者」**
> 翌朝、ギルドに見知らぬ人物が現れた。天秤を名乗るその人物は、ゼロを見て静かに言った。「あなたを迎えに来ました」
「始祖の鍵」という新しい概念、そして「天秤」という新勢力の登場です。エリナが鍵かもしれないという可能性、物語がまた大きく動きそうです。「守ります。鍵かどうかに関わらず」というゼロの言葉、大事にしたいセリフです。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「続きが気になる」と思っていただけたら、ぜひ★評価・ブックマークをお願いします。ブックマークしておくと更新通知が届きます。
感想・コメントも全部読んでいます。毎日21時更新中です!




