第52話 「生存者の証言」
ランドルに戻ったのは、夜になってからだった。
ギルドに保護されている生存者たちは、別室に集められていた。受付嬢の案内で、俺たちはその部屋に向かった。
部屋には、十二人がいた。老人、子供、大人。誰もが疲れきった顔をしていた。毛布にくるまって座っている者もいれば、壁にもたれて放心している者もいた。
俺たちが入ると、何人かがこちらを見た。警戒と、わずかな期待が混ざった目だった。
「調査に行ってきました」
俺は静かに言った。
「村の状況を確認しました」
誰も何も言わなかった。
一人の老婆が、ゆっくりと立ち上がった。杖をついている。
「あんたたちが、調べてくれたんだね」
老婆は言った。
「ありがとう」
「いくつか、話を聞かせてもらえますか」
俺は聞いた。
「無理にとは言いません」
「聞いておくれ」
老婆は続けた。
「あたしが見たことは、全部話す」
俺たちは老婆の前に座った。
「襲われたのは、いつでしたか」
俺は聞いた。
「三日前の夜だ」
老婆は言った。
「みんな寝静まった頃に、突然、村の周りが燃え始めた」
「襲撃者は見ましたか」
「見た」
老婆は続けた。
「黒っぽい服を着た人間が、何人もいた。統率が取れていた。命令一つで、動きが揃っていた」
「何人くらいでしたか」
「十人以上はいたと思う」
老婆は続けた。
「あたしらは、逃げるだけで精一杯だった」
「奪われたものはありましたか」
俺は聞いた。
老婆は少し考えた。
「村長の家に、金属の箱があった」
老婆は言った。
「先祖代々、大事にしていたものだ。それを、襲撃者が真っ先に探していた」
俺はカルロを見た。カルロが頷いた。
「中身は何でしたか」
俺は聞いた。
「わからない」
老婆は続けた。
「村長しか知らなかった。ただ、古い紙が入っていると聞いたことがある」
俺は、村で見つけた焼け残った紙のことを思い出した。あの紙は、金属の箱の中にあったものだ。
「村長は無事ですか」
老婆の顔が曇った。
「村長は、逃げ遅れた」
老婆は静かに言った。
「箱を守ろうとして」
俺は少し黙った。
部屋の中に、重い空気が流れた。
その時、部屋の隅に座っていた若い女性が、エリナを見た。
女性が、驚いた表情を浮かべた。
「あなたは」
女性は震える声で言った。
「もしかして、ラーダ団にいた、あの子ですか」
エリナが息を飲んだ。
「私を、知っているんですか」
女性は頷いた。
「五年前、私の村もラーダ団に襲われました」
女性は続けた。
「その時、団に連れて行かれた子供の中に、印象的な子がいました。黒い髪で、石を投げるのが得意な子」
エリナが立ち上がった。少し震えていた。
「覚えているんですか、私のこと」
「忘れるはずがない」
女性は続けた。
「あの村で、私の弟を助けてくれたのは、あなたよ」
エリナが目を見開いた。
「弟を、助けた?」
「覚えていないの?」
女性は続けた。
「団が村を襲ったとき、逃げ遅れた弟を、あなたが荷馬車の陰に隠してくれた。団長に見つからないように」
エリナはしばらく黙った。
それから、静かに言った。
「覚えています」
エリナの声が、少し震えていた。
「でもそれが、あなたの弟さんだったとは」
「弟は今も生きています」
女性は続けた。
「あなたのおかげです」
エリナは何も言えなかった。
俺は、エリナの肩に軽く触れた。
エリナが俺を見た。
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その後、他の生存者からも話を聞いた。
村を襲った集団について、統率された動き、黒い服装、金属の箱を狙っていたこと。共通する証言が集まった。
一人の中年男性が、重要な情報を教えてくれた。
「襲撃者の一人が、他の者に指示を出していた」
男性は言った。
「その男が言っていたことを、覚えている」
「何と言っていましたか」
俺は聞いた。
「『器を見つけたら、すぐに連絡しろ』と言っていた」
男性は続けた。
「器という言葉が、気になっていた」
俺は息を止めた。
器。
その言葉が、俺自身を指しているとしたら。
「他に何か覚えていることは、ありますか」
俺は聞いた。
「団長らしき人物が、金属の箱を開けようとしていた」
男性は続けた。
「その時、独り言のように言っていた。『これが、始祖の鍵の一部だ』と」
俺とカルロは目を合わせた。
「始祖の鍵」
カルロが繰り返した。
全員が沈黙した。
「カルロさん」
俺は言った。
「始祖の鍵とは何ですか」
カルロはしばらく考えてから、静かに言った。
「聞いたことがない言葉だ」
老魔法師は正直に言った。
「だが、始祖の器という言葉と、関連しているのは間違いないだろう」
「新しい何かが動いている、ということですか」
「そうだ」
カルロは続けた。
「セインやレイとは違う別の勢力が、始祖の力に関する何かを探している」
俺は焼け残った紙のことを思い出した。
カルロが言っていた、始祖の時代の術式に似た構造。
全部が繋がりつつある。だがまだ、全体像が見えない。
「ロックスに、情報を集めてもらいましょう」
俺は言った。
「ラーダ団についても、始祖の鍵についても」
「わかった」
アルクが頷いた。
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その夜、エリナと二人で話した。
宿の外の階段に座って、夜空を見上げていた。
「五年前のこと、思い出した」
エリナは言った。
「あの村を襲ったとき、私、まだ何もわかっていなかった」
「今は違いますか」
「今は、自分がやってきたことの意味が、少しわかる」
エリナは続けた。
「私が助けた子供が、今も生きている。それを聞けてよかった」
「良いことをしたんだよ」
俺は言った。
「でもその一方で、他の村を焼くのを手伝っていた」
エリナの声が沈んだ。
「両方が、私だった」
俺はエリナを見た。
「今のエリナは、村を焼く側じゃない」
俺は言った。
「今は、こちら側にいる」
エリナは少し黙った。
「ありがとう」
エリナは小さく言った。
俺は夜空を見上げた。二つの月が並んでいる。
始祖の鍵。器を探す指示。新しい勢力。
クレスタ村の事件は、これまでとは違う何かの始まりを示している気がした。
ステータス画面を開いた。
ゼロ Lv.9
HP:37/37
MP:20/20
筋力:12 敏捷:15 魔力:7 耐久:10 知力:17
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
変化はない。
だが、頭の中では、新しい謎が動き始めていた。
始祖の鍵とは何か。器を探しているのは誰か。それは、俺自身を指しているのか。
答えを見つけるまで、止まるつもりはなかった。
**次回・第53話「始祖の鍵」**
> ロックスが集めた情報の中に、「始祖の鍵」という言葉に関する古い伝承があった。それは始祖の器とは別の、もう一つの重要な存在についてだった。
エリナが過去に助けた子供の姉との再会、感慨深い場面でした。「両方が私だった」という言葉、エリナの複雑な過去を表したかったです。そして「始祖の鍵」という新しい謎。物語がまた一段階深まります。
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