第51話 「クレスタ村」
クレスタ村までは、馬で半日ほどだった。
廃村よりさらに北。道なき道を進む区間もあり、セルマが先導した。
村が近づくにつれて、焦げた匂いが漂ってきた。
視界に入った瞬間、俺は言葉を失った。
村全体が、黒く焼け焦げていた。
建物は全て倒壊し、炭化していた。畑も焼け野原になっている。人の気配はなかった。動物の死骸が、あちこちに転がっていた。
「ひどい」
エリナが小さく呟いた。
俺たちは村の中に馬を進めた。
カルロが降りて、地面を調べ始めた。俺も降りて、周囲を観察した。
燃え方が均一だ。自然発火や、局所的な火事ではない。全体が同時に燃えたような跡がある。
「これは」
カルロが呟いた。
「魔法による延焼だ」
「どんな魔法ですか」
俺は聞いた。
「火系統の広範囲魔法だ。かなりの熟練者でなければ、これほどの範囲を均一に燃やすことはできない」
カルロは続けた。
「無冠の中に、これだけの魔法を使える人間がいるとは思えない」
俺は少し考えた。
「セインやレイでなければ、誰がやったんですか」
「わからない」
カルロは正直に言った。
アルクが村の外周を歩いていた。地面を調べている。
「足跡がある」
アルクが言った。
「複数、統率された動き方だ」
俺はアルクのところに向かった。
地面に複数の足跡が、残っていた。人間のものと、それ以外のものが混在している。
「これは」
俺は言った。
アルクの表情が変わった。
「この足跡、見覚えがある」
アルクは静かに言った。
「知っているんですか」
「一年前、俺の故郷が襲われたときの足跡と似ている」
アルクは続けた。
「あの時も、同じような統率された足跡が残っていた」
俺は少し息を止めた。
「同じ集団が、ということですか」
「断定はできない。だが、似すぎている」
アルクは足跡を指さした。
「歩幅、間隔、隊列の組み方。訓練された部隊の動きだ」
セルマが近づいてきた。
「私も見せてくれ」
セルマが足跡を確認した。
「これは、傭兵団の動きだ」
セルマは言った。
「傭兵団ですか」
俺は聞いた。
「金で雇われて動く集団だ。無冠のような思想的な組織とは違う」
セルマは続けた。
「誰かが、この傭兵団を雇ったということだ」
「誰が雇ったんですか」
「わからない」
セルマは首を振った。
「ただ、この規模の傭兵団を動かすには、相当な資金が必要だ」
俺は頭の中で状況を整理した。
無冠とは別の勢力。傭兵団。アルクの故郷を襲った集団と似た動き。誰かが金を払って、この村を焼いた。
「目的は、何だと思いますか」
俺は聞いた。
「わからない」
カルロが続けた。
「ただ、無差別な破壊とは思えない。何かを探していた、あるいは、何かを奪った可能性がある」
俺は村の中心部に向かった。
焼け跡の中に、何かないか確認する。
建物の跡地を一つずつ見て回った。ほとんどが完全に焼け落ちている。だが一つだけ、比較的原型を留めている建物があった。
石造りの、小さな倉庫のような建物だ。
中に入ると、焼けた木箱がいくつも転がっていた。中身は灰になっているものが多かったが、一つだけ金属製の箱が残っていた。
鍵がかかっていたが、熱で変形していた。俺は短剣の柄で叩いて、蓋を開けた。
中には、燃え残った紙が何枚か入っていた。
俺はそれを取り出して確認した。
文字が書かれている。だが、火で焼けて一部が読めない。
「カルロさん」
俺は呼んだ。
カルロが来て、紙を確認した。
「これは」
老魔法師が目を細めた。
「魔法陣の設計図だ」
「何のための魔法陣ですか」
カルロはしばらく紙を眺めた。
「わからない。断片的すぎる」
カルロは続けた。
「ただ、術式の一部が、始祖の時代のものと似た構造をしている」
俺は少し驚いた。
「オルディナの遺跡と、関係がありますか」
「断定はできない」
カルロは慎重に言った。
「ただ、可能性は否定できない」
「この村で、始祖の時代の術式に関わる研究を、していたということですか」
「あるいはこの村自体が、その研究に必要な何かを、持っていたのかもしれない」
カルロは続けた。
「調べる必要がある」
俺はエリナを見た。エリナは村の一角で、何かを見つめていた。
「エリナ」
俺は声をかけた。
エリナが振り返った。顔が青ざめている。
「どうしましたの」
「この、燃え方」
エリナは震える声で言った。
「ラーダ団のやり方と、似てる」
俺は少し息を止めた。
「どういうこと」
「団長が使っていた戦術」
エリナは続けた。
「村を襲うとき、まず全体を燃やして、混乱させる。その隙に、目的のものを奪う。これ、同じやり方」
俺とアルクとセルマが、エリナを見た。
「ラーダ団が、ここに関わっている可能性がある、ということ?」
俺は聞いた。
「わからない」
エリナは首を振った。
「ただ、似てる。すごく似てる」
カルロが静かに言った。
「もしラーダ団が、無冠の一部として動いていたとしたら」
老魔法師は続けた。
「セインが把握していない場所で、独自に動いている可能性がある」
「セインが本当に解散を進めているとしても、下部組織が勝手に動いている、ということですね」
俺は言った。
「そうだ」
カルロは頷いた。
「そしてその下部組織が、始祖の時代の術式に関わる何かを、探している」
俺は焼けた紙を見た。
全部が繋がろうとしている。だが、まだ全体像が見えない。
「生存者から、もっと詳しい話を聞く必要があります」
俺は言った。
「ギルドに戻れば、話を聞ける」
セルマが言った。
「今日中に、戻りましょう」
全員が頷いた。
村を出る前に、俺は最後にもう一度、焼け跡を見渡した。
三十人の人々が住んでいた場所。今は、何もない。
この光景を、これ以上増やしたくない。
ステータス画面を開いた。
ゼロ Lv.9
HP:37/37
MP:20/20
筋力:12 敏捷:15 魔力:7 耐久:10 知力:17
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
変化はない。
だが、今日見たものは、数値以上に重かった。
橋になるという言葉の意味を、また考えた。
繋ぐためにはまず、壊すものを止めなければならない。
それが今の俺に課された、新しい課題だと感じた。
**次回・第52話「生存者の証言」**
> ギルドに保護された生存者の一人が、ゼロを見て、驚いた表情を浮かべた。「あなたは……ラーダ団の、あの子と一緒にいた人ですか」
クレスタ村の惨状、ラーダ団の関与の可能性、そしてアルクの故郷を襲った集団との類似性。事件が新しい局面に入りました。エリナの過去が、また別の角度から物語に絡んできます。
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