第50話 「五十日目」
朝、ステータス画面を開いたとき、ふと思った。
この世界に来て、何日経っただろうか。
数えてみた。
五十日。
ちょうど五十日目だった。
森で目覚めた日から今日まで。振り返ると、色々なことがあった。
俺は宿の窓から外を見た。ランドルの街並みが、朝の光の中で静かに佇んでいる。
最初にこの街に来たとき、何もかもが初めてだった。石畳の感触、市場の匂い、ギルドの喧騒。今はもう、当たり前の光景になっている。
支度をして、宿を出た。
ギルドに向かう途中、五十日間のことを、頭の中で整理した。
名前も記憶もなく目覚めた森。エリナとの出会い。Fランクの登録。スライムウルフとの戦い。カルロとの出会い。坑道でのルカの救出。魔法の修行。街道でのブラックハウンドとの戦い。アルクとの共闘。Dランクへの飛び級昇格。エリナの過去の一端。セインとの初対面。全ての段階を経て、始祖の器であることが判明。レベルが一気に上がったこと。Cランクへの昇格。カルロの過去。オルディナの遺跡。始祖のメッセージ。王国の騎士。レイとの和解。エリナの過去の続き。
五十日で、これだけのことがあった。
多すぎると思った。だが同時に、一つ一つが必要な出来事だったとも思った。
ギルドに着くと、いつもの喧騒があった。冒険者たちが依頼ボードの前で話している。受付嬢が忙しく動いている。
俺は依頼ボードを確認した。
今日はC級の依頼を一つこなす予定だった。だがそれより前に、ロックスの姿が見当たらないことに気づいた。
いつもならこの時間、ロックスは酒場スペースで飯を食っているはずだ。
少し気にはなったが、依頼を選んだ。街の南で発生している害獣被害の調査だ。特に危険な内容ではない。
その時、ギルドの扉が勢いよく開いた。
ロックスだった。
息が荒い。走ってきたのがわかる。
「ゼロ!」
ロックスが大声で言った。
「大変だ」
ギルド内の視線が一斉にロックスに向いた。
「どうしましたか」
俺はロックスに近づいた。
「北の方で、また魔物の被害が出た」
ロックスは息を整えながら言った。
「今朝、報告が入った」
「北というと」
「街道より北。以前の廃村よりさらに北の地域だ」
ロックスは続けた。
「小さな村が、魔物の群れに襲われた。生存者は逃げてきたが、村は壊滅状態だという」
俺は少し考えた。
「魔物の種類は」
「わからない。ただ、生存者の証言によると、統率が取れた動きをしていたらしい」
ロックスは声を落とした。
「使役されている魔物じゃないかという話だ」
俺はアルクに目を向けた。ちょうどギルドに入ってきたところだった。
「聞こえていましたか」
俺は聞いた。
「聞こえた」
アルクは眉をひそめた。
「無冠の残党か、あるいは別の勢力かもしれない」
「セインたちとは、無関係だと思いますか」
「わからない」
アルクは続けた。
「セインが解散を進めていると言っても、下部組織全てを把握できているとは限らない」
俺はロックスに聞いた。
「その村の場所を、教えてください」
「詳しい場所はギルドに地図がある。カウンターで確認できる」
ロックスは続けた。
「もう調査隊が組まれると思う。ギルドが正式に依頼を出すはずだ」
俺はカウンターに向かった。
受付嬢が地図を広げてくれた。北の方角、廃村よりさらに先の位置に、印がつけられていた。
「この村の名前は」
俺は聞いた。
「クレスタ村です」
受付嬢は答えた。
「小規模な農村でした。人口は三十人ほど」
「生存者は」
「十二人が逃げてきています。ギルドで保護しています」
俺は少し息を吐いた。
五十日間、色々なことがあった。無冠との対話が進み、状況が良くなっていると思っていた矢先に、また新しい被害が出た。
世界は、そう簡単には落ち着かない。
「調査に行きます」
俺は言った。
「単独ですか」
受付嬢が聞いた。
「エリナとアルクさんと一緒に行きます」
その時、エリナがギルドに入ってきた。何かを察したのか、真剣な表情をしている。
「何があったの」
俺は事情を説明した。
エリナの顔が少し曇った。
「また、無冠関係?」
「わからない。ただ、確認しに行く必要がある」
「わかった。行こう」
---
カルロにも報告した。老魔法師は話を聞いて、少し考えた。
「私も行く」
カルロは言った。
「セルマさんにも伝えます」
俺は言った。
五人で、クレスタ村に向かうことになった。
準備を整えながら、俺は五十日間のことを振り返った。
この五十日で、多くのことを学んだ。冒険者としての生き方、この世界の仕組み、始祖の器としての自分、そして仲間との繋がり。
だが、まだ何も終わっていない。
クレスタ村で何が起きたのか、確認する必要がある。無冠の残党か、別の勢力か、あるいは自然の脅威なのか。
ステータス画面を開いた。
ゼロ Lv.9
HP:37/37
MP:20/20
筋力:12 敏捷:15 魔力:7 耐久:10 知力:17
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
五十日前、この数値は全て平均以下だった。今は、多くの項目が平均を超えている。
だが数値の変化以上に、俺自身の中で変わったものがある。
最初は生き延びることだけを考えていた。今は守るべきものがある。
エリナ、カルロ、アルク、セルマ。そして、まだ見ぬクレスタ村の人々。
俺は画面を閉じて、馬の準備に向かった。
五十日目の朝は、新しい旅の始まりでもあった。
**次回・第51話「クレスタ村」**
> 現地に着いたゼロたちが目にしたのは、焼け落ちた村と、統率された足跡だった。そしてアルクが、足跡の主を知っていた。「これは、私が追っていた足跡と同じだ」
【あとがき】
第50話、節目の回です。五十日間を振り返る内容にしました。世界は簡単には落ち着かない、というのがこの物語のリアリティだと思っています。新しい事件、クレスタ村の謎が始まります。50話まで読んでくださった方、本当にありがとうございます!
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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