第49話 「静かな日々」
レイの帰還から数日、目立った動きはなかった。
無冠の内部で何かが動いているのだろうと想像はしたが、確認する手段はない。カルロも「今は待つ時期だ」と言った。
俺は久しぶりに、ただの冒険者としての依頼を、こなす日々を過ごした。
Cランクの依頼が中心だった。魔物の討伐、護衛、調査。数値上は今の自分には物足りない依頼もあったが、それでも一つ一つ丁寧にこなした。
修行も続けていた。防御壁の練習は、少しずつ形になってきている。以前ブラックハウンドを止めたカルロの光の輪と同じ原理だ。まだ完璧ではないが、小さな衝撃なら受け止められるようになった。
三日目の朝、エリナがギルドで俺を待っていた。
「今日は依頼、休まない?」
エリナが言った。
「何かあるの」
「セルマさんと三人で、少し話したいことがある」
俺は頷いた。
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街の外れの丘に、三人で座った。
ランドルの街並みが見下ろせる場所だ。風が心地よく、二つの太陽が穏やかに輝いている。
セルマが先に口を開いた。
「エリナから、話があるそうだ」
俺はエリナを見た。エリナは少し緊張した顔をしていた。
「盗賊団のこと、もう少し話そうと思う」
エリナは言った。
「無理しなくていい」
俺は言った。
「無理してない」
エリナは続けた。
「セルマさんに話してから、自分の中で整理がついた。ゼロにも、ちゃんと話したい」
俺は黙って頷いた。
「私がいた盗賊団は、ラーダ団っていう名前だった」
エリナは話し始めた。
「大陸の北の方を拠点にしていた。私は、そこで生まれた」
「両親は」
俺は聞いた。
「わからない」
エリナは続けた。
「団の中で育てられた子供は、私だけじゃなかった。何人もいた。誰の子か、はっきりしないまま育てられる子が多かった」
「団の目的は」
「略奪。それだけ」
エリナは言った。
「効率よく略奪するために、団員は幼い頃から訓練を受ける。私も、五歳くらいから石を投げる訓練をさせられた」
「それが、今の石投げの精度に、繋がっているんだね」
「たぶん」
エリナは頷いた。
「団の中には、魔力を持つ人間が何人かいた。私もその一人だった。だから、魔物を使役する係に回された」
俺は少し驚いた。
「魔物を使役していたんですか」
「小さい魔物だけだけど」
エリナは続けた。
「団長の側近たちが、大きい魔物を使役していた。私が見た首輪、あれと似たものを使っていた」
「無冠との繋がりは」
「わからない」
エリナは正直に言った。
「ただ、団長が誰かと定期的に会っていた。黒い服を着た人が、時々団のアジトに来ていた」
俺とセルマは顔を見合わせた。
「その人物の特徴は」
俺は聞いた。
「顔は覚えていない。子供だったから」
エリナは続けた。
「ただ、団長がその人のことを、すごく丁寧に扱っていたのは覚えてる。まるで、目上の人に接するみたいに」
俺は頭の中で考えた。
もし、ラーダ団が無冠と何らかの関係を持っていたなら、エリナの過去は、単なる偶然ではないかもしれない。
「なぜ団を抜けたの」
俺は聞いた。
エリナはしばらく黙った。
「団長が私を、別の目的に使おうとした」
エリナは静かに言った。
「詳しくは、言いたくない」
「わかった」
俺はすぐに言った。
「言わなくていい」
「ありがとう」
エリナは続けた。
「その時、逃げようって決めた。誰にも見つからないように、二年間逃げ続けた。それでランドルに辿り着いて、あの森でゼロと会った」
俺は少し考えた。
「今、追われている可能性は」
「わからない」
エリナは答えた。
「でも最近、少し怖くなくなった」
「なぜ」
「ゼロがいるから」
エリナは俺を見た。
「一人で逃げてたときとは、違う」
セルマが優しく言った。
「もう一人じゃない。それは、大きな違いだ」
エリナは頷いた。
俺は少し考えてから言った。
「ラーダ団の情報を、アルクさんとロックスに共有していい?」
「なんで」
「もし無冠と繋がりがあるなら、無冠の情報を集める上で役立つかもしれない」
俺は続けた。
「もちろん、エリナが嫌なら、しない」
エリナは少し考えた。
「いいよ」
エリナは言った。
「共有して。役に立つなら」
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その日の夕方、鍛冶屋の跡でカルロにも報告した。
カルロは黙って聞いていた。
「ラーダ団」
カルロは繰り返した。
「聞いたことがある名前だ」
「知っているんですか」
俺は聞いた。
「大陸北部で活動している盗賊団だ。以前は、無冠とは無関係だと思われていた」
カルロは続けた。
「だが、エリナの話を聞くと、無冠の下部組織として利用されていた可能性がある」
「セインは、知っているでしょうか」
「知っているかもしれない」
カルロは正直に言った。
「無冠の規模を考えると、セイン自身が全ての下部組織を把握しているとは、限らない」
エリナが少し不安そうな顔をした。
「もし団長が、私を探しているとしたら」
「その時は、俺たちがいる」
俺は言った。
「一人で逃げる必要は、もうない」
エリナは俺を見て、小さく笑った。
「うん」
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その夜、宿に戻ってステータス画面を確認した。
ゼロ Lv.9
HP:37/37
MP:20/20
筋力:12 敏捷:15 魔力:7 耐久:10 知力:17
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
変化はない。
だが今日、エリナの過去が少し明らかになった。
ラーダ団。魔物の使役。黒い服の人物。無冠との繋がりの可能性。
全部がまだ点のままだ。だがいつか、線に繋がる予感があった。
窓の外を見た。夜空に二つの月が並んでいる。
静かな日々の中にも、次の展開への種が、確実に蒔かれていた。
**次回・第50話「五十日目」**
> ランドルに来て五十日。ゼロがこれまでの日々を振り返る中、ロックスが慌てた様子でギルドに駆け込んできた。「大変だ。北の方で、また魔物の被害が出た」
エリナの過去回でした。ラーダ団、盗賊団の実態、黒い服の人物との繋がり。エリナが「もう一人じゃない」と感じられるようになった変化を書きたかった話です。次回は50話の節目、そして新しい事件の予感です。
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