第46話 「王国の騎士」
翌朝、ギルドに向かった。
アルクがすでに来ていた。受付の近くで待っている。
「来たか」
アルクが言った。
「騎士は昼前に来ると聞いている」
「知人だと言っていましたね」
「名前はディーン。私と同い年くらいだ。数年前、依頼で一度組んだことがある」
アルクは続けた。
「腕は確かだ。王国の直属騎士団に、選ばれるくらいだから」
「どんな人物ですか」
「実直だ。裏表がない」
アルクは少し考えた。
「ただ、王国の立場を代表して来ている以上、個人的な感情だけでは動けないだろう」
俺は頷いた。
昼前、ギルドの扉が開いた。
入ってきたのは、二人組だった。
一人は男。二十代後半くらいで、鎧を身につけている。王国の紋章が胸に刻まれていた。もう一人は、少し若い女性。同じく鎧姿だ。
男がアルクを見て、少し表情を緩めた。
「アルク。久しぶりだな」
「ディーン」
アルクが応じた。
「元気そうだ」
「お前もな」
ディーンと呼ばれた男は、俺に視線を移した。
「そちらが、ゼロか」
「そうです」
「話は聞いている」
ディーンは続けた。
「少し、話せるか」
ギルドの隅の席に移動した。四人で座った。
ディーンが姿勢を正した。
「単刀直入に言う。王国は、無冠の動きを、半年以上前から監視している」
ディーンは言った。
「大陸各地での被害報告が積み重なり、無視できない規模になった」
「王国が直接動くのは、珍しいことですか」
アルクが聞いた。
「珍しい」
ディーンは頷いた。
「通常、こういった組織の対処は、各地のギルドや冒険者に任される。だが、無冠の規模と、扱っている技術が問題だった」
「技術というのは」
「魔物の使役と、人間との融合実験」
ディーンは声を落とした。
「王国の魔法研究機関が、独自に情報を集めていた。無冠が、極めて危険な研究をしていると判断された」
俺は静かに聞いていた。
「それで、俺に何の用ですか」
ディーンは俺を見た。
「お前が無冠の創設者と、直接対面したと聞いている」
「はい」
「その内容を、聞かせてほしい」
俺は少し考えた。
全部を話すべきか、部分的に話すべきか。始祖の器の件は、王国に話すべきことなのか。
「一つ確認させてください」
俺は言った。
「王国は、無冠をどうするつもりですか」
「壊滅させる」
ディーンは即答した。
「可能であれば、無血で」
「無血でというのは」
「無冠の全員が、悪意で動いているわけではない」
ディーンは続けた。
「上層部の少数が、下部組織を利用している構造だと、王国は分析している。上層部さえ止められれば、下部の人間の多くは救える」
俺は少し驚いた。
それはカルロが語った、セインの変化と一致する話だった。
「セインという人物が、無冠の創設者です」
俺は言った。
「その人物が最近、組織の方針を変えようとしています」
ディーンの表情が変わった。
「解散に向かっている、ということか」
「そう思われる動きがあります」
俺は続けた。
「ただし、組織内部で反発する者もいます」
「詳しく聞かせてくれ」
俺は、話せる範囲で説明した。オルディナの遺跡での出来事、レイという人物との遭遇、廃村が焼失した件。始祖の器の詳細は伏せた。
ディーンは黙って聞いていた。
話し終えると、ディーンは深く息を吐いた。
「予想以上に、状況が動いている」
ディーンは言った。
「王国が把握していた情報より、進んでいる」
「王国は、どう動くつもりですか」
「まず、廃村の焼失現場を確認する」
ディーンは続けた。
「セインが本当に組織を解体しようとしているのか、確証が欲しい。もしそうなら、王国としても、対処の仕方を変える必要がある」
「戦争ではなく、交渉の道を探るということですか」
「可能であれば」
ディーンは頷いた。
「ただし、上層部が本当に危険な研究をやめるかどうかは、慎重に見極める必要がある」
俺は少し考えた。
「一つ、提案があります」
「聞こう」
「セインが無冠を解散させようとしているなら、王国が急いで動くことで、かえって状況が悪化する可能性があります」
俺は続けた。
「セインの動きを、もう少し見極める時間が必要だと思います」
ディーンはしばらく俺を見た。
「お前は、セインを信用しているのか」
「完全にはしていません」
俺は正直に答えた。
「ただ、行動を見る限り、変化していると思います」
「行動とは」
「廃村を焼いたこと。俺の力を利用しないと明言したこと。カルロという魔法師がセインの師匠であること」
俺は続けた。
「複数の要素が、一つの方向を示しています」
ディーンはしばらく黙った。
「わかった」
ディーンは言った。
「王国が急いで動くことは避ける。ただし、監視は続ける。もし無冠が再び被害を出せば、王国は容赦なく動く」
「わかりました」
「もう一つ」
ディーンは俺を見た。
「お前自身についても、聞かせてほしい」
「俺自身、というのは」
「Fランクで登録して、二ヶ月足らずでCランクになった。そのことは、王国の耳にも入っている」
ディーンは続けた。
「なぜそれほどの速度で、成長できるのか」
俺はアルクを見た。アルクは何も言わなかった。判断は俺に任せる、という意味だと受け取った。
「話しても構いませんが」
俺は言った。
「王国がこの情報を、どう扱うかによります」
「どういう意味だ」
「俺の力の正体を知った国が、俺を利用しようとするなら、話すことはできません」
ディーンは少し目を細めた。
「利用するつもりはない」
ディーンは言った。
「王国が求めているのは、無冠の脅威への対処だ。それ以上のことは、望んでいない」
「本当ですか」
「私個人が、保証できることではないが」
ディーンは続けた。
「私はお前を、利用しようとは思わない。それだけは確かだ」
俺はディーンの目を見た。
嘘をついているようには見えなかった。実直だとアルクが言っていたが、その通りだと思った。
「では、話します」
俺は言った。
「ただし、詳細ではなく、概略だけです」
「構わない」
「俺は、この世界の魔法の起源に関わる存在です」
俺は言った。
「詳しくは説明できませんが、成長に上限がありません」
ディーンは少し驚いた顔をした。
「上限がない、というのは」
「積み重ねた経験が、無制限に力になるということです」
俺は続けた。
「Fランクからの急成長は、それが理由です」
ディーンはしばらく黙った。
「それは、始祖の伝承と、関係があるのか」
俺は少し驚いた。
「知っているんですか」
「王国の魔法研究機関には、古い伝承の記録がある」
ディーンは言った。
「始祖の魂が循環するという話も、その一つだ」
「それなら、話が早いです」
俺は続けた。
「その通りです」
ディーンは深く息を吐いた。
「これは、想像以上に大きな話だ」
「大きすぎますか」
「いや」
ディーンは首を振った。
「むしろ、無冠がお前を狙う理由が、はっきりした」
俺は頷いた。
「王国は、この情報をどう扱いますか」
「上に報告する」
ディーンは言った。
「ただし、慎重に扱う。お前の存在が広く知られれば、無冠以外の脅威も生まれるかもしれない」
「他の脅威というのは」
「権力を持つ者が、お前を利用しようとする可能性だ」
ディーンは続けた。
「王国内にも、そういう人間がいないとは、言い切れない」
俺は少し考えた。
「気をつけます」
「私もできる限り、情報を守る」
ディーンは立ち上がった。
「今日はここまでにしよう。また情報交換が必要になったら、アルクを通じて連絡する」
「わかりました」
ディーンともう一人の騎士が、ギルドを出ていった。
アルクが俺を見た。
「話して大丈夫だったか」
「わからない」
俺は正直に答えた。
「ただ、話さなければ、王国が別の判断をする可能性があった。それより、事実を伝えて、理解を得る方がいいと思った」
「橋になる、ということか」
俺は少し驚いてアルクを見た。
「カルロさんから聞いたんですか」
「聞いた」
アルクは続けた。
「今日の判断は、その通りだったんじゃないか」
俺は少し考えた。
「わかりません。ただ、力で対抗するより、話すことで理解を得る方が、今の俺には合っている気がします」
アルクは頷いた。
「王国と敵対せずに済んだのは、大きい」
アルクは続けた。
「無冠、王国、俺たち。三つの勢力が、同じ方向を向く可能性が出てきた」
俺はギルドの外を見た。
夕方の光が、石畳に落ち始めていた。
ステータス画面を開いた。
ゼロ Lv.9
HP:37/37
MP:20/20
筋力:12 敏捷:15 魔力:7 耐久:10 知力:17
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
変化はない。
だが、今日また、世界が少し広がった。
無冠。王国。始祖の伝承。
全部が、少しずつ繋がっている。
カルロが言った、橋になるという言葉の意味を、また少し理解した気がした。
**次回・第47話「レイの決断」**
> その頃、レイは一人で草原を歩いていた。向かう先は、セインのもとだった。師匠に会って、確かめたいことがあった。
王国の騎士ディーン登場です。力で対抗するのではなく、対話で理解を得るゼロの選択。「橋になる」というテーマが、少しずつ物語の軸になってきました。次回はレイの視点を少し覗いてみます。
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