第45話 「ランドルの変化」
ランドルの門をくぐったのは、夕方だった。
五人で馬を返しに馬屋に立ち寄り、それぞれ解散した。セルマは宿を探すと言って街の中心部に向かった。アルクはギルドに情報確認に行くと言った。カルロは鍛冶屋の跡に戻ると言って、静かに路地に消えた。
俺とエリナは宿に戻った。
久しぶりに自分の部屋に入ると、五日間旅をしていた疲れが一気に出た気がした。荷物を置いて、ベッドに座った。
「戻ってきた」
エリナが隣の部屋から声をかけてきた。
「戻ってきた」
「ご飯食べてから休もうか」
「そうします」
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食堂に降りると、見知った顔がいた。
ロックスだ。一人で飯を食っていた。俺たちを見て、少し目を丸くした。
「戻ってきたか。どのくらい行ってたんだ」
「十日ほどです」
「シェルナまで行ったんだろ。話は聞いた」
ロックスは箸を置いた。
「そのことで、少し話がある」
「何かありましたか」
「座れ」
俺とエリナが向かいに座った。
「お前たちがいない間に、ランドルで二つのことがあった」
ロックスは続けた。
「一つは、ギルドに王国の騎士が来た」
「騎士が?」
「二人組だ。ギルドの依頼の状況を確認していた。特に、無冠に関係する情報を集めていたらしい。リナに聞いたところ、お前のことも名前が出たと言っていた」
俺は少し考えた。
「王国が無冠を調べていると、いうことですか」
「そうだ。まあ、無冠が大陸各地で暗躍しているなら、王国が動くのは当然かもしれないが」
ロックスは続けた。
「騎士はお前に会いたがっていた。お前がいなかったから、また来ると言って帰ったそうだ」
「もう一つは何ですか」
「廃村の件だ」
ロックスは声を落とした。
「お前たちが出発した三日後、廃村から大量の煙が上がっているのを、近くを通った商人が目撃した。翌日、別の冒険者が確認しに行ったら、廃村が焼けていた」
俺は少し驚いた。
「焼けた?」
「全焼だ。人の気配はなかったと言っていた。魔物の檻も、全部空になっていた」
ロックスは続けた。
「何者かが意図的に焼いた形跡がある。爆発したわけじゃない。火を使って、計画的に燃やした跡だという話だ」
エリナが俺を見た。
「誰が焼いたんだろう」
「わからない」
俺は答えた。だが、頭の中では考えていた。
廃村が焼かれた。無冠の中継地点が消えた。タイミングは、俺たちがシェルナに行っている間だ。
セインか。
それともレイか。
あるいは、別の誰かか。
「アルクさんに確認します」
俺はロックスに言った。
「情報をありがとうございます」
「礼はいい」
ロックスは飯を再開した。
「ただ、王国の騎士の件は、早めに対処した方がいい。騎士はまた来る。そのときに、お前がいた方がいい」
「わかりました」
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食事を終えてから、ギルドに向かった。
アルクがすでに戻っていた。受付の近くで、腕を組んで立っている。俺たちを見て、近づいてきた。
「ロックスに、聞いたか」
「聞きました。廃村が焼けた件と、王国の騎士の件」
「私も確認した」
アルクは続けた。
「廃村の件、タイミングから考えると、セインが動いた可能性がある」
「証拠はありますか」
「ない。ただ、セインが無冠解散を本気で進めるなら、まず中継地点を消す。それが最初のステップとして合理的だ」
「レイが焼いた可能性は」
「レイは今、オルディナの遺跡で術式を写し取ることに集中していた。タイミングが合わない」
アルクは続けた。
「それと、王国の騎士の件だが、私に心当たりがある」
「どういうことですか」
「騎士の名前を確認したら、一人が知人だった」
アルクは言った。
「王国の直属騎士団に、私の知り合いがいる。無冠の件を調べていると聞いた。ランドルに来たのは、おそらく私に連絡を取ることも兼ねている」
「会うつもりですか」
「会う。明日、来ると言っていたらしいから」
アルクはゼロを見た。
「お前も同席した方がいい」
「わかりました」
そのとき、ギルドの扉が開いた。
入ってきたのは、セルマだった。宿を確保してきたのか、荷物を持っていない。
「ちょうどいい」
セルマはアルクと俺を見た。
「廃村の件、街で噂になっている。もう知っているか」
「今確認したところです」
「廃村が焼けたということは、無冠の動きが変わっている」
セルマは続けた。
「中継地点を失った組織は、次の手を打つ。この周辺での活動が縮小するか、あるいは別の場所に拠点を移すか」
「どちらだと思いますか」
俺は聞いた。
「どちらかはわからない」
セルマは答えた。
「ただ、一つ言えることがある。廃村を焼いたのがセインなら、セインは本当に無冠を解散しようとしている。だが、それに反対する人間も、無冠の中にいる。レイのように」
「内部で分裂が起きている可能性がある」
アルクが言った。
「その可能性が高い」
セルマは続けた。
「組織が分裂するとき、外部への影響が予測できなくなる。今まで以上に注意が必要だ」
俺は頷いた。
状況が、また変わってきた。
その夜、カルロに全てを報告した。
鍛冶屋の跡で、四人が集まった。セルマも同席した。
カルロは廃村の件を聞いて、少し目を閉じた。
「セインが動いた」
カルロは静かに言った。
「そう思いますか」
「あの子らしい動き方だ」
カルロは続けた。
「組織を解散するとき、まず足跡を消す。中継地点を焼いて、次の手を打てないようにする。ただし、全員が納得しているわけではない」
「レイのことですか」
「レイは、セインとは別の道を歩もうとしている」
カルロは続けた。
「だがレイは、嘘をつかない。セインに話をしにいくかもしれない」
「レイがセインに会ったら、どうなりますか」
「わからない」
カルロは言った。
「ただ、私がレイに言った言葉が、何かを変えるかもしれない。師匠の判断を、弟子がどう受け止めるか」
セルマが口を開いた。
「王国の騎士の件、老魔法師はどう思いますか」
「動くべき時が来たということだ」
カルロは静かに言った。
「無冠が内部から崩れ始めている。王国が動き出している。このままランドルに、隠れているわけにはいかない」
「どういう意味ですか」
俺は聞いた。
「明日、騎士と話せ」
カルロは俺を見た。
「そしてゼロ、お前が決める番だ」
「何を決めるんですか」
「これからの話だ」
カルロは続けた。
「ランドルにとどまり続けるのか、それとも大きな流れに入っていくのか。騎士と話してから、判断しなさい」
俺は頷いた。
ランドルに来て、二ヶ月ちょっとが経った。
最初は森で目が覚めて、何も持っていなかった。
今はCランクで、Lv.9で、仲間がいて、始祖の器であることを知っている。
世界は動いている。
無冠の内部分裂。王国の騎士。廃村が焼けた。
全部が、次の何かを示していた。
ステータス画面を確認した。
ゼロ Lv.9
HP:37/37
MP:20/20
筋力:12 敏捷:15 魔力:7 耐久:10 知力:17
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
耐久が10になった。平均に届いた。魔力はまだ7。
成長は続いている。
数値の成長より、今日聞いた情報の方が、ずっと重い意味を持っている気がした。
明日、騎士と話す。
それが次の扉を、開けることになるかもしれない。
**次回・第46話「王国の騎士」**
> 翌朝、ランドルのギルドに現れた騎士は、ゼロが想像していた人物とは少し違った。
ランドルに帰還した途端、新たな動きが。廃村焼失と王国の騎士の来訪。無冠が内部から崩れ始め、世界が次のフェーズに移りつつあります。カルロの「動く時が来た」という言葉、第2章後半の大きな転換点になります。
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