表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に何も貰えなかった転生者、実は成長上限がありませんでした  作者: Nagiousen


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/80

第41話 「遺跡の内側」

 入り口を一歩踏み込んだ瞬間、空気が変わった。


 外の山の冷たさとは違う。もっと古い、閉じ込められた空気だ。石の匂いと、何か別の匂いが混ざっている。かすかに甘い、花に似た匂い。だが、花ではない。


 カルロが杖の先に光を灯した。廃坑道の時と同じ、淡い青白い光だ。今回はより明るく、通路全体を照らした。


 通路は狭かった。二人並んでぎりぎりの幅が、奥まで続いている。天井が低く、アルクは少し頭を下げて歩いた。壁は石造りで、表面が滑らかに加工されている。百年以上前のものだとは思えない精度だ。


 俺は胸の温もりを確認した。


 脈打っている。入り口に近づいてから感じ始めた引き寄せられる感覚が、中に入るとさらに強くなった。


 だが、今は集中すべきことがある。


 索敵をした。

 通路の奥に、気配がある。人間だ。一つ、二つ。動いていない。静止している。


「奥に二体、人の気配があります」


 俺は小声で言った。


「動いていない」


「距離は」


 アルクが聞いた。


「五十メートルほど。通路の先に広い空間があると思います」


 セルマが短剣に手をかけた。エリナが石を一つ握った。


「慌てるな」


 カルロが静かに言った。


「中で魔力を大きく使うと、封印に影響する。近づいてから判断する」


 五人で通路を進んだ。足音を立てないように、一歩ずつ慎重に進んだ。


---


 三十メートルほど進むと、通路が広がった。


 広間だ。


 天井が高い。カルロの光だけでは全体が見渡せないほど広い。壁が、全面にわたって何かで覆われていた。


 文字だ。


 壁一面に、細かい文字と記号が刻まれている。床から天井まで、隙間なく。一部は時間で摩耗しているが、大部分はまだはっきりと残っていた。


 これが、始祖の時代の術式だ。


 俺はそれを見た瞬間、胸の温もりが大きく脈打った。


 今まで感じたことのない強さで。心臓の鼓動と、温もりの脈動が、一瞬だけ重なった。


「感じているか」


 カルロが小声で言った。


「はい」


 俺は答えた。


「強く、引き寄せられる感覚があります」


「無理に近づくな。今は周囲の確認を優先しろ」


 俺は温もりを意識しながら、広間を観察した。


 壁の術式は、中央に向かって収束するような構造になっている。全部が一つに繋がっている。単独の術式ではなく、全体で一つの大きな術式を形成しているらしい。


 そして、広間の中央に、二人の人物がいた。


 片方は地面に座って、壁の術式を書き写している。紙に何かを書き込んでいる。もう片方は立って、周囲を警戒していた。


 二人とも黒い服を着ている。


 立っている方が、こちらに気づいた。


「来たか」


 その声で、俺は止まった。


 聞いたことのある声だ。


 男が振り返った。


 レイだった。


 レイは表情を変えなかった。計算し続けているような、冷たい目のままだった。


 座って書き写していた人物が立ち上がった。こちらは若い。二十代前半くらいの、短髪の男だ。レイと同じ黒い服を着ている。


「レイ」ア


 ルクが低く言った。


「どういうことだ」


「見ての通りです」


 レイは答えた。


「術式を写し取っています」


「セインの指示か」


「違います」


 レイは続けた。


「私自身の判断です」


 カルロが前に出た。老魔法師の目が、レイを見ていた。


「セインは知っているか」


「知りません」


 レイは静かに言った。


「師匠の意図と、私の判断は、ここでは異なります」


「どういう意味だ」


 カルロが言った。


「師匠はゼロさんとの対面を経て、研究の方向を変えようとしています」


 レイは続けた。


「ですが私は、それが正しいとは思っていない」


 俺はレイを見た。


 嘘をつかない人間だと、カルロが言っていた。今も、嘘をついているようには見えない。


「セインの意向に反して、術式を写し取っている。それが、あなた自身の判断だということですか」


「そうです」


「なぜ」


 レイは少し間を置いた。


「師匠の研究は、まだ完成していない。師匠がやめても、研究は誰かが続けなければならない」


 レイは続けた。


「人間の限界を超える研究は、無意味ではない。途中で止めるべきではない」


「それが、あなたの信念ですか」


「そうです」


 俺はレイを観察した。


 声に、感情がない。だが、言葉の意味は本物だ。レイはセインを師匠として慕いながら、セインの転換を受け入れられない。それが、この行動に繋がっている。


「術式を写し取るのを、やめてもらえますか」


 俺は言った。


「できません」


 レイは答えた。


「これは、私が必要だと判断したことです」


「封印が不安定になっている。このまま続けると、街の人間が危険にさらされます」


「わかっています」


 レイは続けた。


「ただ、作業はあと少しで終わります。終わり次第、封印の安定化に協力します」


 俺はカルロを見た。


 カルロが静かに言った。


「封印の安定化に、お前が協力できるのか」


「できます」


 レイは答えた。


「私も魔法師です。封印の構造は把握しています」


「術式を渡すつもりはないか」


 カルロが続けた。


「渡しません。写し取ったものは、私が持ちます」


 アルクが俺の隣に来た。小声で言った。


「どうする。止めるか」


 俺は考えた。


 レイを今止めることはできる。アルクとセルマがいれば、戦闘になっても対処できるかもしれない。だが、戦闘になれば、封印がさらに不安定になる。


 レイが嘘をつかない人間なら、「あと少しで終わる」「封印の安定化に協力する」という言葉も本当だろう。


 ただ、術式がレイの手に渡ることを、そのまま認めていいのか。


「一つだけ確認させてください」


 俺はレイに言った。


「何ですか」


「写し取った術式を、無冠の誰かに渡すつもりはありますか」


 レイは少し間を置いた。


「ありません」


 レイは答えた。


「これは、私個人が保管します。無冠の組織には渡しません」


「セインにも?」


「渡しません。師匠が研究をやめると決めたなら、それはそれで構わない。私は私の道を進みます」


 俺は胸の温もりを感じながら、レイを見た。


 嘘ではない。


 だが、信用していいのかどうかは、また別の話だ。


「カルロさん」


 俺は言った。


「判断をお願いできますか」


 カルロはしばらく黙った。


 壁の術式を見た。広間全体を見回した。それから、レイを見た。


「作業を終えろ」


 カルロは言った。


「その後、封印の安定化を手伝え。それが終わったら、お前と話がある」


 レイは少し目を細めた。


「わかりました」


 レイが若い男に合図した。男が再び座って、書き写しを続けた。


 俺たちは広間の端に下がった。


 エリナが俺の隣に来た。


「よかったの? 術式を渡しちゃって」


 エリナが小声で言った。


「渡してはいない。写し取られた、という方が正確だ」


「それでも、向こうが持っていくじゃない」


「今止めようとすれば、戦闘になる」


 俺は続けた。


「戦闘になれば封印が崩れる可能性がある。シェルナの街が危険になる。それより、レイの言葉を信じて封印を安定させることを優先した」


「信じていいの? レイのこと」


「カルロさんが嘘をつかない人間だと言っていた。今日の話し方も、その通りだと思った」


 エリナはしばらく考えた。


「ゼロがそう判断するなら、私も信じる」


 俺はエリナを見た。


「ありがとう」


「お礼は戻ってからにして」


 エリナは壁の術式に目を向けた。


「あれ、近くで見ていい?」


「カルロさんに確認してから」


 カルロに聞くと、老魔法師は頷いた。


「触るな。見るだけなら構わない」


 俺とエリナは壁に近づいた。


 術式が、間近で見ると圧倒的だった。


 一つ一つの文字は小さいが、組み合わさって巨大な構造を作っている。意味はわからない。だが、胸の温もりが反応していた。


 何か、知っているような気がした。

 正確には、知っていたような気がした。


 俺の中の記憶ではない何かが、これを見て反応している。


「どう感じる?」


 エリナが聞いた。


「懐かしい」


 俺は静かに言った。


「意味はわからない。ただ、懐かしい」


 エリナが俺を見た。


「始祖の器だから?」


「そうかもしれない」


 壁の術式が、カルロの光に照らされて、静かに輝いていた。




**次回・第42話「封印の安定」**


> レイが約束通り、封印の安定化に協力した。作業が終わったとき、カルロがレイに言った。「お前に、一つ話がある」そしてレイは、初めて表情を変えた。



遺跡の内側でレイと再会。敵として戦うのではなく、判断を保留して共存する選択をしたゼロ。「懐かしい」という感覚、始祖の器ならではの伏線です。レイというキャラクターがここから動き始めます。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

「続きが気になる」と思っていただけたら、ぜひ★評価・ブックマークをお願いします。ブックマークしておくと更新通知が届きます。

感想・コメントも全部読んでいます。毎日21時更新中です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ