第37話 「カルロの判断」
鍛冶屋の跡に四人が集まった。
俺はセルマから聞いた話を、順番に伝えた。シェルナ近郊の古い遺跡。百年前に封鎖された経緯。封印が緩みかけているという報告。無冠が関係している可能性。
カルロは黙って聞いていた。
話し終えると、老魔法師はしばらく目を閉じた。
誰も口を開かなかった。
一分ほどして、カルロが言った。
「その遺跡を、私は知っている」
アルクが少し身を乗り出した。
「知っているんですか」
「名前は、オルディナの遺跡という」
カルロは続けた。
「百年前に封鎖されたのは事実だ。ただ、封鎖の理由は、強力な魔物が住み着いたからだけではない」
「他に理由があるんですか」
俺は聞いた。
「遺跡の中に、古い術式が刻まれた壁がある」
カルロは静かに言った。
「始祖の時代のものだ」
俺は少し息を止めた。
「始祖の時代の術式が、その遺跡に」
「そうだ」
カルロは頷いた。
「封鎖された本当の理由は、魔物だけではない。その術式を、むやみに外部に出さないためでもあった」
エリナが小さく言った。
「無冠が封印を緩めようとしているなら、その術式を狙っているということ?」
「可能性が高い」
カルロは答えた。
「セインは古い術式を集めている。始祖の時代のものなら、特に価値がある」
アルクが口を開いた。
「老師、一つ確認させてください」
アルクは続けた。
「その術式は、人間と魔物の融合に使えるものですか」
カルロはしばらく黙った。
「使えるかどうかは、わからない」
カルロはゆっくり言った。
「ただ、セインがそれを目的として動いているなら、何らかの関係があると考えていいだろう」
「行くべきだと思いますか」
俺は聞いた。
カルロは俺を見た。
「セルマという人物、信用できると判断したか」
「はい。目が正直でした」
「根拠はそれだけか」
「他に、隠す様子がなかった。Bランクで、単独偵察を引き受けている。慎重な人物ではあっても、無茶な人物ではないと思います」
カルロは少し考えた。
「会ってみる」
老魔法師は言った。
「私自身が判断する。明日の朝、ここに呼んでくれ」
翌朝、セルマを鍛冶屋の跡に連れてきた。
セルマはカルロを見て、少し目を細めた。
「老魔法師か」
セルマは言った。値踏みするような目ではなく、確認するような目だ。
「名前を聞いてもいいか」
「カルロだ」
「カルロ」
セルマは少し考えた。
「聞いたことがある。十五年ほど前まで、各地で活動していた魔法師だ。その後、消えた」
「消えたわけではない。静かにしていただけだ」
「なるほど」
セルマは続けた。
「ゼロの師匠か」
「そのようなものだ」
カルロはセルマを正面から見た。老魔法師の目が、相手を測るように動いた。
「オルディナの遺跡のことを話せ」
カルロは言った。
「ゼロから聞いた以上のことを、知っているはずだ」
セルマは少し驚いた顔をした。それから、小さく笑った。
「さすがだな」
セルマは続けた。
「その通りだ。ギルドから聞いた情報以外に、私が直接確認したことがある」
「何を確認した」
「三週間前、シェルナの近くを通ったとき、遺跡の方角から異常な魔力の波動を感じた」
セルマは続けた。
「私には多少の魔力感知の能力がある。それで気になって調べた」
「波動の性質は」
「古い。今の魔法とは違う波長だった」
セルマはカルロを見た。
「あなたにはわかると思うが、今の魔法より、もっと原始的な感じがした」
カルロが少し目を細めた。
「始祖の時代の術式が、動いている可能性がある」
「そう判断した」
セルマは頷いた。
「誰かが遺跡の中で、その術式を使おうとしている。あるいは、すでに使い始めている」
「無冠の人間が中に、いると思っているか」
「その可能性を考えている」
セルマは続けた。
「ただ、確認していない。単独で確認しようとして、封印の外から気配を探ったが、中の状況はわからなかった」
カルロはしばらく黙った。
それから、立ち上がった。
「行く」
カルロは言った。
短い言葉だった。だが、全員がその意味を理解した。
「全員でですか」
俺は確認した。
「そうだ」
カルロは続けた。
「ただし、一つ条件がある」
「何ですか」
「私がセルマの魔力を確認させてもらう。信用するかどうかは、それから決める」
セルマは少し目を丸くした。だが、すぐに頷いた。
「構わない」
カルロがセルマのステータス画面を読む技術を使った。数秒間、老魔法師はセルマを見た。
それから、頷いた。
「問題ない。同行を認める」
セルマがカルロを見た。
「私のステータスを読んだのか。魔法師がそれをできるとは聞いていたが、実際に見たのは初めてだ」
「経験だ」
カルロは短く言った。
「何かわかったか」
「お前の魔力は正直だ」
カルロは続けた。
「嘘をつく人間の魔力は、少し歪む。お前のものは歪んでいない」
セルマはしばらく黙ってから、小さく言った。
「面白い老人だ」
「よく言われる」
カルロは炉の方を向いた。
「出発は三日後にしよう。準備がある」
その日の夜、俺はステータス画面を確認した。
ゼロ Lv.8
HP:34/34
MP:18/18
筋力:11 敏捷:14 魔力:6 耐久:9 知力:16
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
変化はない。
だが、頭の中で情報が整理されていた。
オルディナの遺跡。始祖の時代の術式。封印が緩んでいる原因。無冠との繋がり。
始祖の器である俺が、始祖の時代の術式が残る遺跡に向かう。
偶然ではないかもしれない。
偶然でも必然でも、やることは変わらない。
観察して、考えて、動く。
それだけだ。
三日後、シェルナに向けて出発する。
**次回・第38話「出発前夜」**
> 出発の前日、エリナが鍛冶屋の跡でカルロと二人で話していた。ゼロが扉を開けると、二人の会話が止まった。エリナの目が、少し赤かった。
カルロがセルマを認める場面、「魔力が正直だ」という表現を使いたかった回です。オルディナの遺跡、始祖の時代の術式、無冠との繋がり。点が線になりつつあります。次回は出発前夜、エリナの話が動き始めます。
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