第34話 「Cランクへ」
ミラに昇格試験の意思を伝えたのは、盗賊団制圧の翌日だった。
「DからCへの試験は、Eから Dとは少し違います」
ミラはギルドのカウンターで言った。
「筆記はありません。実技と面接のみです。実技の難易度も上がります」
「内容を教えてもらえますか」
「単独での実技になります。今回は、特定の依頼ではなく、試験官が同行して評価する形式です」
ミラは続けた。
「明日の朝、試験を受けますか」
「受けます」
「では明日、街の南にある森で行います。九時に森の入り口で待ち合わせを」
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その夜、鍛冶屋の跡でカルロに報告した。
「単独の実技試験か」
カルロは少し考えた。
「悪くない機会だ」
「何かアドバイスはありますか」
「ない」
カルロは即答した。
「お前は今、新しいステータスにまだ慣れていない段階だ。慣れていない力をどう使うか、それを見極める良い機会になる」
エリナが、心配そうな顔をした。
「危険じゃない?」
「試験官が同行する。命に関わるような依頼内容にはならない」
カルロが答えた。
「それより、ゼロ自身が自分の力を、把握することの方が大事だ」
俺は頷いた。
Lv.8になって二日。新しいステータスでの戦闘は、盗賊団制圧の一度だけだ。まだ感覚を掴みきれていない部分がある。
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翌朝、森の入り口でミラと合流した。
「今日の試験内容を説明します」
ミラは言った。
「この森には、Cランク相当の魔物が一体生息しています。名前はアイアンボア。鉄のような硬い体毛を持つ猪型の魔物です。これを討伐していただきます」
俺はステータスを思い浮かべた知識と照合した。アイアンボアは突進力が高く、体毛が物理攻撃を防ぐ。弱点は腹部の柔らかい部分だが、突進中に近づくのは危険だと言われている。
「単独で、ですか」
「私が同行しますが、戦闘には介入しません。あなたの判断と実力だけを見ます」
「わかりました」
「準備ができたら、入りましょう」
森に入った。
以前訪れた森よりも深い。木々が密集していて、見通しが悪い。地形を観察しながら歩いた。
三十分ほど歩いたところで、気配を感じた。
索敵をした。今までより、感じる範囲が明らかに広がっている。
アイアンボア Lv.10 危険度C
はっきりと表示された。今までなら「???」になることもあった強さの魔物が、今は明確に読める。
「いました」
俺はミラに伝えた。
「北東、五十メートルほど」
「正確ですね」
ミラは少し驚いた様子だった。
「では、行ってください」
俺は地形を確認した。
木々の密度。風の向き。アイアンボアがいる場所の周辺の地形。
以前の俺なら、ここで罠を考えていた。突進を誘導する仕掛けを作り、弱点に攻撃を集中させる。
だが今日は、違うやり方を試したかった。
森を進み、アイアンボアの姿が見えるところまで近づいた。
大きい。体長は二メートル近くある。体毛が金属のような光沢を放っている。鼻先を地面に近づけて、餌を探している様子だった。
俺はまだ気づかれていない。
短剣を構えた。
正面から行く。
木の陰から出て、アイアンボアの視界に入った。
魔物がこちらを見た。鼻を鳴らし、突進の体勢を取った。
突進が来た。
以前の俺の敏捷値なら、避けるのが精一杯だっただろう。だが今は、敏捷14になっている。
突進を、ぎりぎりまで引きつけてから、横に跳んだ。
体が思った通りに動いた。アイアンボアが俺の横を通過する。
その瞬間、俺は腹部を狙って短剣を突き入れた。
手応えがあった。だが、皮膚が硬く、深くは刺さらなかった。
アイアンボアが向きを変え、再び突進してきた。
二度目。
俺は今度は、突進の軌道を読んで、逆に踏み込んだ。横に避けるのではなく、進行方向の脇に滑り込むように体を入れた。
至近距離になった瞬間、短剣を腹部の柔らかい部分に深く突き刺した。
アイアンボアが甲高い声を上げた。
怯んだところに、もう一撃。
魔物が倒れた。
ステータス画面が開いた。
戦闘勝利
獲得経験値:85
レベルアップ:なし
`
俺は短剣を鞘に戻した。
ミラが近づいてきた。
「お見事です」
彼女は言った。
「以前の試験とは、明らかに動きが違います」
「自分でも感覚が変わったのが、わかりました」
「どう変わりましたか」
俺は少し考えた。
「今までは、観察と計算で戦力差を埋めていました」
俺は言った。
「今は、観察と計算に加えて、体がついてくる。考えたことを、そのまま実行できる」
「それは大きな違いです」
ミラは頷いた。
「多くの冒険者は、考えても体が追いつかない。あなたは逆だった。体力が足りない分を、頭で補っていた」
「今は、両方揃ったということですか」
「そう見えます」
ミラは記録をつけながら続けた。
「面接は省略します。今の戦闘内容だけで、十分判断できます」
「結果は」
「合格です。Cランクへの昇格を認めます」
俺は静かに頷いた。
「ありがとうございます」
「一つ、聞いてもいいですか」
ミラが少し声を落とした。
「短期間でこれほどの変化、何があったんですか」
俺は少し考えた。
始祖の器の話を、ここで話す必要はない。
「色々な人に、支えられました」
俺は正直に、だが核心は伏せて答えた。
ミラは少し微笑んだ。
「いい答えですね」
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ギルドに戻り、新しいカードを受け取った。
**ゼロ Cランク**
Fランクから、二週間でCランクまで来た。普通ではあり得ない速度だと、自分でもわかっている。
エリナが待っていた。
「どうだった?」
「合格した。Cランクになった」
エリナが目を輝かせた。
「すごい。Fランクから一ヶ月とちょっとで」
「実感はまだない」
「いつもそう言うね」
エリナが笑った。
俺はカードを見た。
Cランク。
数値だけ見れば、確かに大きな成長だ。だが、これで何かが終わったわけではない。
無冠の存在。セインの目的。世界の魔法体系が変わるかもしれないという話。
まだ何も、解決していない。
ステータス画面を開いた。
ゼロ Lv.8
HP:34/34
MP:18/18
筋力:11 敏捷:14 魔力:6 耐久:9 知力:16
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
筋力、敏捷、知力は平均を超えた。魔力と耐久は、まだ平均に届いていない。
完璧ではない。
だが、それでいい。
足りない部分は、これから埋めていく。
俺はカードをしまって、ギルドを出た。
夕方の光が、石畳に長い影を落としていた。
**次回・第35話「カルロの過去」**
> Cランクになったゼロに、カルロが初めて自分自身の過去を語り始めた。セインとの出会い、そして十五年前に何があったのか。
DからCへ、たった一日での昇格試験でした。アイアンボアとの戦い、楽しんで書けました。ゼロが「考えたことをそのまま実行できる」という感覚を得た回でもあります。ただし魔力と耐久はまだ平均以下。完璧じゃないところも書いていきたいです。
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