第33話 「新しいステータス」
翌朝、ギルドに向かった。
依頼ボードを確認する前に、新しいステータスをもう一度確認した。
ゼロ Lv.8
HP:34/34
MP:18/18
筋力:11 敏捷:14 魔力:6 耐久:9 知力:16
筋力・敏捷・知力は人族平均の10を超えている。魔力と耐久はまだ平均に届いていないが、それでも以前とは比較にならない数値だ。
だが、体感はそれほど劇的ではなかった。
昨日と同じように歩けるし、同じように呼吸している。ただ、体の奥に、今まで感じなかった余裕のようなものがある。
ギルドに入ると、受付嬢が俺を見て、少し首をかしげた。
「ゼロさん、何か雰囲気が違いますね」
「何かありましたか」
「いえ、なんとなく」
受付嬢は曖昧に答えた。
言葉では説明できない変化を、彼女は感じ取ったらしい。
依頼ボードを確認した。D級の依頼が並んでいる。だが、今日は少し違うものを試したかった。
「C級の依頼を見せてもらえますか」
俺は受付嬢に聞いた。
「ゼロさんはDランクですが」
「Dランクでも申請できるC級依頼が、あると聞きました」
「あります。ただし、試験官の許可が必要です」
受付嬢は奥に確認に行った。しばらくして戻ってきた。
「ミラ試験官が、今日いらしています。確認してもらえますか」
「お願いします」
ミラが現れた。前回の試験のときと同じ、落ち着いた雰囲気の女性だ。
「ゼロさん、C級依頼を希望ですか」
「はい」
「理由を聞かせてください」
「自分のステータスを、確認したいからです」
俺は正直に言った。
「今の自分が、どの程度の依頼までこなせるのか知りたい」
ミラは少し考えた。
「Dランクの飛び級昇格は、私が推薦しました。あなたの実力には期待しています」
ミラは続けた。
「C級依頼の中で、比較的安全なものを一つ紹介します。それで様子を見ましょう」
ミラが選んだ依頼書を見せてくれた。
**【C級】街道北方・小規模な盗賊団のアジト制圧**
**対象:盗賊団、推定六名**
**報酬:銀貨八枚**
**備考:戦闘力は中程度。武装あり**
「これはいかがですか」
「受けます」
「単独ですか」
「エリナと一緒に行きます」
「Eランクの方ですね」
ミラは少し考えた。
「Cランク相当の依頼に、DランクとEランクのペアは異例です。ただ、あなたたちの実績を考えると、許可します」
エリナに事情を話すと、すぐに同意した。
「レベル8、試してみたいでしょ」
「興味がある」
「正直になったね」
エリナが少し笑った。
アジトの場所は、街道を北に少し外れた森の中だった。盗賊団といっても、組織化された無冠とは別物だ。単純な略奪目的の集団だと、ミラから聞いていた。
森に入ると、すぐに気配を感じた。
索敵をした。
今までより、感じる範囲が広い気がした。
六体の気配あり
六人。情報通りだ。
アジトはすぐに見つかった。粗末な小屋がいくつか並んでいる。見張りが一人、入り口に立っていた。
「どうする?」
エリナが小声で聞いた。
「正面から行く」
「正面から?」
エリナが少し驚いた。
「今までは罠を仕掛けてたじゃない」
「試したいことがある」
俺は小屋に向かって歩いた。
見張りが気づいて、声を上げた。
「敵だ!」
小屋から男たちが出てきた。武装している。剣、斧、棍棒。六人、全員が戦闘態勢に入った。
俺は短剣を抜いた。
今までなら、ここで罠を考えていた。地形を観察し、相手の動きを読み、有利な状況を作ってから動く。
だが今日は、違うやり方を試したかった。
先頭の男が斧を振りかぶって突進してきた。
俺は動いた。
体が、思った以上に速く反応した。
男の斧が振り下ろされる前に、俺はすでに間合いの内側に入っていた。短剣を相手の腕に向けて振った。浅く切る。男が斧を落とした。
二人目が剣で斬りかかってきた。俺は剣を見てから避けるのではなく、剣が振られる前に、相手の重心の動きを見て先に動いた。
体が、自分の意思より少し先に動いている感覚があった。
二人目の懐に入り、短剣の柄で鳩尾を突いた。男が崩れ落ちた。
三人目、四人目。
今までなら、一人ずつ慎重に対処していた。今日は、複数を同時に視野に入れて動けた。
数値だけの問題ではない。知力16になったことで、状況判断の速度そのものが上がっている気がした。
エリナが石を投げて、残りの二人を牽制した。俺がそれぞれ仕留めた。
六人全員を制圧するのに、五分もかからなかった。
今までなら、二十分以上はかかっていただろう。
エリナが息を整えながら言った。
「すごい。今までと全然違う」
「自分でも驚いている」
ステータス画面を開いた。
戦闘勝利
獲得経験値:120
レベルアップ:なし
レベルは上がらなかった。だが、それでいい。今は、Lv.8の自分がどう動けるのかを確認できた。
盗賊団を縄で縛り、ギルドに報告した。ミラが結果を聞いて、少し驚いた顔をした。
「五分で六人を、制圧したんですか」
「はい」
「実技試験のときより、明らかに動きが違いますね」
ミラは続けた。
「何があったんですか」
「色々あって、成長しました」
ミラは少し疑問の表情を浮かべたが、それ以上は追及しなかった。
「報酬は銀貨八枚です。それと」
ミラは少し考えた。
「次の昇格試験を、考えてみてはどうですか」
「もう一度ですか」
「DからCへの昇格です。今の動きを見る限り、十分通用すると思います」
俺はエリナを見た。エリナが頷いた。
「考えます」
その日の夜、宿に戻ってステータス画面を確認した。
ゼロ Lv.8
HP:34/34
MP:18/18
筋力:11 敏捷:14 魔力:6 耐久:9 知力:16
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
数値は変わっていない。だが、今日の戦いで、数値以上の何かを実感した。
戦闘中の判断速度。体の反応速度。今まで積み重ねてきた経験が、今日初めて、数値の後押しを得て、発揮された感覚があった。
今までは、知識と観察だけで戦ってきた。罠を仕掛け、相手の動きを読み、地形を利用して、不利な戦力差を埋めてきた。
今は違う。
知識と観察に、純粋な力が加わった。
それでも、俺は変わっていない。
戦い方の基本は同じだ。相手を観察し、状況を読み、最善の手を選ぶ。それは数値が変わっても変わらない。
ただ、選べる手段の幅が広がった。
胸の温もりを確認した。
いつもの場所にある。今は、もっとはっきりと感じる。
明日も修行を続ける。明日も依頼をこなす。
始祖の器であろうとなかろうと、やることは変わらない。
それが、今の俺の答えだった。
**次回・第34話「Cランクへ」**
> 昇格試験を再び受けることになったゼロ。今度は単独での実技試験。試験官が指定した内容は、予想を超えるものだった。
【あとがき】
ついにレベルアップ! Lv.1からLv.8への大幅な成長でしたが、ゼロ自身は「変わっていない」と感じています。数値が変わっても、戦い方の本質は変わらない。それがこのキャラクターの軸だと思っています。
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