表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に何も貰えなかった転生者、実は成長上限がありませんでした  作者: Nagiousen


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/21

第11話 「商会の朝」

 ベルナルド商会の扉を叩いたのは、昼を少し過ぎた時間だった。

 前回来たときと同じ使用人が出てきた。俺たちの顔を見て、すぐに中に通してくれた。今回は警戒する様子もなく、応接室ではなく少し奥まった部屋に案内された。前回より小さい部屋だが、調度品は同じくらい立派だ。テーブルを挟んで椅子が向かい合わせに並んでいる。


 しばらく待つと、ベルナルドが入ってきた。

 前回より顔色がよかった。目の赤みも消えている。俺たちを見て、柔らかく笑った。


「来てくれたか。座りなさい」


 腰を下ろすと、使用人が茶を運んできた。温かい液体で、甘い香りがした。この世界の茶葉だろうか。口をつけると、花に似た風味がある。悪くない。


「ルカの様子はどうですか」


俺は聞いた。


「おかげさまで、すっかり元気になった」


ベルナルドは言った。


「昨日から食欲も戻って、今朝は走り回っていたよ。医師は、後遺症の心配はないと言っている」


「よかった」


エリナが言った。


「会いたがっていたんだが、今日は友人の家に遊びに行っている。元気になった証拠だ。改めて礼を言わせてほしいと言っていたよ」


 俺は頷いた。


 ベルナルドは茶を一口飲んで、テーブルに置いた。表情が少し変わった。柔らかさが残りつつも、商人の顔になった。


「礼を言いたかったのは本当だ。だが、今日呼んだのはそれだけじゃない」


「依頼ですか」


「察しが早いな」


ベルナルドは苦笑した。


「そうだ。一つ、頼みたいことがある」


 俺はテーブルの上で手を組んだ。


「聞きます」


「単刀直入に言う」


ベルナルドは前のめりになった。


「三日後、うちの商会の荷馬車がランドルを出発する。行き先は東の街、カルセナだ。距離にして二日の道のり。荷物は薬草と布地と、少量の貴金属だ」


「護衛ですか」


「そうだ。本来はCランク以上の冒険者に頼む案件だが、今回は少し事情がある」


ベルナルドは声を落とした。


「最近、この街道で荷馬車が二件、何者かに襲われている。Cランクの冒険者を護衛につけた荷馬車も、一件やられた」


 エリナが眉をひそめた。


「Cランクがやられたんですか」


「護衛の冒険者は逃げ延びたが、荷物は全部奪われた。死者は出なかった」


ベルナルドは続けた。


「問題は、相手がどこの誰かわからないことだ。盗賊団なのか、それとも別の何かなのか。調べているが、まだわからない」


「わからないのに、荷馬車を出すんですか」


「出さざるを得ない事情がある」


ベルナルドは少し疲れた顔をした。


「カルセナの取引先との約束がある。この荷が届かないと、長年の信用が崩れる。商売というのはそういうものだ」


 俺は考えた。

 Cランクの護衛がやられた街道。俺たちはFランクだ。戦力差で言えば、話にならない。

 だが、ベルナルドがFランクの俺たちに頼む理由がある。


「なぜ俺たちに」


「二つ理由がある」


ベルナルドは指を一本立てた。


「一つ目。相手はCランクの護衛がいると知っている可能性がある。だから今回は、目立たない護衛をつけた方がいいと考えた。Fランクの若者二人なら、護衛に見えないかもしれない」


「おとり、ということですか」


「護衛だ。ただし、目立たない護衛だ」


ベルナルドは二本目の指を立てた。


「二つ目。坑道の件で、君たちの判断力と対応力は確認した。ランクは最低だが、実力はそれ以上だと判断している」


 エリナが俺を見た。決めるのは俺だという目だ。

 俺はベルナルドを見た。


「報酬は」


「銀貨五枚。無事に届けば、さらに銀貨三枚を帰還後に支払う」


 銀貨は銅貨と金貨の間の通貨だ。銅貨十枚が銀貨一枚、銀貨十枚が金貨一枚という換算だったはずだ。銀貨五枚は銅貨五十枚相当。悪くない。


「カルロさんを同行させることはできますか」


 ベルナルドが少し目を細めた。


「カルロ殿を、か」


「俺たちだけでは、Cランクがやられた相手には対処できない可能性がある」


「正直だな」


ベルナルドは苦笑した。


「カルロ殿が承諾するかどうかは、君たちが交渉してくれるなら構わない。ただ、報酬は君たちへの分しか出せない」


「それで構いません」


 ベルナルドはしばらく俺を見た。それから、深く頷いた。


「わかった。三日後の朝、この商会の裏口に来てくれ。荷馬車は二台だ。御者はうちの者が務める」


「わかりました」


 握手をした。前回と同じ、大きくて固い手だった。


 商会を出ると、エリナが口を開いた。


「カルロさんに頼むの?」


「頼んでみる」


「断られたら?」


「二人で行く」


 エリナが少し考えた。


「Cランクがやられた相手に、Fランク二人で?」


「情報が足りない。相手がCランクに勝てた理由がわからない限り、戦力の話をしても意味がない」


「どういうこと?」


「Cランクが正面から戦って負けたのか、奇襲を受けたのか、数で圧倒されたのか。理由によって対処が全然違う」


俺は歩きながら言った。


「まず情報を集める。それから判断する」


 エリナが少し黙った。


「……いつもそうやって考えてるの?」


「他に方法がない」


「普通の冒険者は、そこまで考えないと思う」


「普通の冒険者がどう考えるか、俺にはわからない」


 エリナが小さく笑った。


 鍛冶屋の跡に向かった。カルロが午後もそこにいるかどうかわからなかったが、他に居場所を知らない。


 扉を開けると、カルロはいた。

 炉の前の木箱に座り、目を閉じていた。俺たちが入ると、目を開けた。


「何か用かね」


「依頼の話があります」


 俺はベルナルドから聞いた内容を、順番に話した。省略せず、わかっていることとわかっていないことを分けて伝えた。

 カルロは黙って聞いていた。

 話し終えると、老魔法師はしばらく沈黙した。


「報酬は出ないと言ったな」


「はい。ベルナルド会頭の話では」


「構わない」


カルロはあっさりと言った。


「どうせ暇だ」


 エリナが目を丸くした。


「あっさり承諾するんですね」


「理由があるから断る。理由がなければ断らない」


カルロは立ち上がった。


「それより、街道で何が起きているか、私も少し気になっていた」


「知っていたんですか」


「噂は聞いていた」


カルロは杖を手に取った。


「Cランクを一方的にやれる相手となると、限られてくる。魔物か、それとも人間か」


「どちらだと思いますか」


「わからん」


カルロは俺を見た。


「だから行く価値がある」


 その日の夕方、俺はギルドに寄った。

 目的は情報だ。街道での襲撃について、ギルドに情報が入っていないか確認したかった。

 受付嬢に聞くと、彼女は少し考えてから奥に引っ込み、一枚の紙を持って戻ってきた。


「ランドル東街道での被害報告です。ギルドにも二件届いています」


 受け取って読んだ。


 一件目。商会の荷馬車一台が東街道の三叉路付近で襲撃。護衛のCランク冒険者二名は撤退。荷物全損。被害者の証言によると、襲撃者は複数、動きが速かった。


 二件目。別の商会の荷馬車。同じ場所付近で襲撃。こちらは護衛なし。御者一名が軽傷。荷物全損。襲撃者の顔は見えなかったという。


「三叉路付近、二件とも同じ場所ですね」


「そうなんです」


受付嬢が言った。


「ギルドでも警戒情報を出しているんですが、相手の正体がわからなくて」


「他に情報はありますか」


「一つだけ」


受付嬢は声を落とした。


「二件目の御者が言っていたことなんですが」


彼女は少し間を置いた。


「襲われたとき、魔物の鳴き声みたいなものが聞こえたって」


 俺は受付嬢を見た。


「魔物の、鳴き声」


「でも、動いていたのは人間の影だったとも言っていて。混乱していたから正確かどうかわかりませんが」


 俺は紙をテーブルに置いた。

 人間の動き。魔物の鳴き声。

 二つが同時にある状況。

 それが何を意味するのか、今はまだわからない。だが、頭の中に引っかかりができた。


「ありがとうございます」


 ギルドを出ると、夕暮れの空が橙に染まっていた。二つの太陽が重なり合い、影が一つになる時間帯だ。


 三日後。


 俺はまだFランクだ。備考欄の文字は一つしか変わっていない。魔力の蓋は緩んだだけで、開いていない。

 それでも、立ち止まる理由にはならない。


 人間の動きと魔物の鳴き声。

 その答えを、街道で確かめる。


次回・第12話「出発の朝」


三日後の朝、荷馬車の前に集まった四人。御者のベルナルドの部下が、ゼロたちの顔を見て露骨に不安そうな顔をした。東街道に向けて、出発する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ