第104話 「観察記録」
ラーテが目を閉じたまま、静かに、力を鎮めていった。
祠の中の空気が、少しずつ落ち着いていく。
しばらくして、ラーテが目を開けた。
「干渉は、止まりました」
ラーテは言った。
俺はすぐに、集会所に確認に向かった。
リーゼが昏睡していた人々の様子を、見て回っていた。
「顔色が」
リーゼが、驚いた声で言った。
「少し、良くなっています」
しばらく見守っていると、一人の男性の瞼が震え始めた。
「意識が、戻ります」
リーゼが言った。
男性が、ゆっくりと目を開けた。
「ここは」
男性は、弱々しく呟いた。
「よかった」
リーゼが、涙ぐみながら言った。
俺は静かに、安堵した。
「これで他の方々も、少しずつ目を覚ますはずです」
ラーテが、後ろから言った。
「ありがとうございます」
俺は、ラーテに向かって言った。
「いえ」
ラーテは、首を振った。
「私の不注意が招いたことです。謝罪の言葉もありません」
その後俺たちは、再び祠に戻った。
ラーテが始祖の観察記録について、詳しく語り始めた。
「私たち、見守る者は」
ラーテは言った。
「始祖が世界に力をもたらして以来、その力の使われ方を、代々記録し続けてきました」
「記録の目的は」
俺は聞いた。
「始祖の力が正しく使われているかを、見届けるためです」
ラーテは答えた。
「そしていずれ現れる、次の器の成長を、見守るためでもあります」
俺は、少し緊張した。
「俺のことも、記録に含まれているんですか」
俺は聞いた。
「はい」
ラーテは頷いた。
「あなたがこの世界に現れた瞬間から、私たちの一族は、その動向を静かに追い続けてきました」
俺は少し、複雑な気持ちになった。
「見守られていたことに、気づきませんでした」
俺は言った。
「気づかれないことが、私たちの流儀です」
ラーテは答えた。
「干渉せず、ただ見届ける」
「では今回、俺の前に姿を現した理由は」
俺は聞いた。
ラーテは、少し間を置いた。
「観察記録の中に」
ラーテは、静かに言った。
「あなたに伝えなければならない、重要な情報があったからです」
「どんな、情報ですか」
俺は聞いた。
ラーテは、壁の文様を指し示した。
「始祖の器が、完全に覚醒した後」
ラーテは言った。
「これまで二度、世界に大きな変化が起きています」
俺は、息を止めた。
「二度、ということは」
俺は聞いた。
「俺の前にも、器が存在したんですか」
「はい」
ラーテは頷いた。
「始祖の力は循環します。あなたは、三代目の器です」
俺はその事実を、静かに受け止めた。
「前の二人の器は、どうなったんですか」
俺は聞いた。
「一人目の器は」
ラーテは語った。
「完全な覚醒に至らないまま、力を恐れる者たちに命を奪われました」
俺は少し、重い気持ちになった。
「二人目の器は」
ラーテは続けた。
「完全な覚醒に至りました。そして世界の魔法体系を、大きく書き換えました」
「書き換えた、というのは」
俺は聞いた。
「今の私たちが、使っている魔法の仕組み自体が」
ラーテは答えた。
「二人目の器によって、整えられたものです」
俺は驚いた。
「始祖が作った、仕組みではなかったんですか」
「始祖が、最初の礎を築きました」
ラーテは続けた。
「ですが二人目の器が、それを大きく発展させました」
俺は頭の中で、情報を整理した。
自分が三代目の器。今の魔法体系は、二代目の器が作り上げたもの。
「二人目の器は、今どこに」
俺は聞いた。
「亡くなっています」
ラーテは答えた。
「ただ、その最後の言葉が、記録に残っています」
「聞かせてください」
俺は言った。
ラーテは静かに、記録を読み上げた。
『次の器へ。私はこの世界の仕組みを、より良くしようとした。だがそれが、本当に正しかったのか、確信は持てない。次の器がこの道をどう受け継ぐかは、次の器自身が決めるべきだ』
俺はその言葉を、深く胸に刻んだ。
「二人目の器は」
俺は聞いた。
「何を、迷っていたんですか」
「わかりません」
ラーテは答えた。
「ただその迷いこそが、あなたに伝えるべき最も重要な情報だと、私たちは考えています」
俺は、しばらく沈黙した。
「なぜそれを、伝える必要があったんですか」
俺は聞いた。
「あなたが、完全な覚醒に近づいているからです」
ラーテは答えた。
「いずれあなたも、世界の仕組みに影響を与える選択を、迫られるかもしれません」
俺はその言葉の重さを、静かに受け止めた。
これまで力をどう使うかを、その場その場で考えてきた。だがもっと、根本的な選択が待っているのかもしれない。
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その夜、俺はエリナと、今日聞いた話について話した。
「二代目の器の話、重いね」
エリナは言った。
「そうだな」
俺は答えた。
「俺もいつか、同じような選択を迫られるのかもしれない」
「怖い?」
エリナが聞いた。
「怖い」
俺は正直に答えた。
「でもその時が来たら、俺自身で決めるしかない」
「一緒に考える」
エリナは言った。
「ありがとう」
俺は言った。
俺はステータス画面を確認した。
ゼロ Lv.16
HP:70/70
MP:37/37
筋力:21 敏捷:25 魔力:14 耐久:18 知力:25
スキル:なし
備考欄:◇◇◇◇◇◇
変化はなかった。
だが心の中には、新しい重みが加わっていた。
自分の前に、二人の器がいた。一人は、力を恐れる者に命を奪われた。もう一人は世界を変えたが、その正しさに最後まで確信を持てなかった。
自分は、どんな選択をするのか。
窓の外を見た。二つの月が静かに、輝いている。
答えはまだ、遠かった。
**次回・第105話「ラーテの申し出」**
> 観察記録を伝えたラーテが、意外な提案をする。それは、見守る者としての立場を捨て、ゼロたちの旅に、同行するという申し出だった。
ラーテが語った始祖の器の歴史。ゼロが三代目の器であること、二代目の器が今の魔法体系を作り上げたこと。「次の器が、この道をどう受け継ぐか」という重い問いかけです。次回、ラーテの意外な提案が語られます。
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