第九話 レッドベリル
病は気からなんて、本当だろうか。
私はこんなにも、運動に飢えているのに。
「はあー、だる……」
うっかり漏れてしまう言葉に、自分で嫌気がさす。
体が弱くて疲れやすい私は、激しい運動ができない。強靭な肉体を持つスポーツ選手などに憧れるけれど、真似をして筋トレなどした日にはどうなることやら。
唯一の癒しは、日課のラジオ体操だけだ。
「心ときめくのだって、情熱の赤色なのにさー」
そうぼやきながら目をやる先は、小さなレッドベリルのペンダント。
お店の人に『ちょっと傷は多いですが……』なんて言われたものの、小さい宝石だから全然分からないし気にならない。それよりもその鮮やかな赤色が、何よりも情熱的で惹かれる。このレッドベリルを見ていると、不思議と元気が出てくるのだ。
「とりあえず、寝よ……」
体を労わるのは大事なこと。それは身に染みて分かっている。
そうして、うとうとと眠りに就いた私を待っていたのは――
『よく来たな、主。その情熱やよし、僕と一緒にトレーニングを始めよう』
だだっ広いグラウンドのような場所で、スタイリッシュに腕を組む赤い瞳の青年だった。金髪で動きのあるヘアスタイルが知的な佇まいに似合っているが、言っていることがあんまり知的に感じないのは気のせいだろうか。
「は?」
なのでつい眉をひそめてしまうも、目の前の彼は落ち着いた様子で頷いてくる。
『心の筋肉は必ず呼応する。僕を信じたまえ』
「筋肉……」
私も神妙な顔で赤い瞳を見つめ返すと、青年は突然声を張り上げた。
『いくぞ、主! まずはスクワットだ!!』
「お、おおー!!」
謎のテンションに引きずられ、私は思わず彼に倣ってスクワットを開始する。
夢だよね、これ。
疲れるけど、いつもみたいな重い疲れじゃないし、スクワット続けてるよ私。
それに『主』って、この人さ。いやでも、とにかく。
「楽しー!」
『そうだろう! 情熱あるのみだ!!』
そんな風にして私は夢の中で、熱い青年と気持ち良く筋トレに励んだのだった。
「うわ、軽い」
目が覚めた第一声は、そんな驚き。
体がとても軽くて、何というかエネルギーに満ちている感じがする。心と体は繋がっているのだと、夢の彼が教えてくれた通りだと思える目覚めの良さだ。
「アキラビトって、夢でしか会えないんだっけか」
清々しくラジオ体操をしながら、私はレッドベリルのペンダントを思い浮かべる。
大切にされた個体にだけ宿り、人の姿をとって持ち主の夢に現れる宝石の化身。それがアキラビトという都市伝説だ。あの青年は間違いなく、私のレッドベリルだろう。
「いつか一緒に、ラジオ体操したいな」
なんてことを、レッドベリルに語りかけてみる。
勿論返事はなかったが、赤色の鮮やかさが少し増したように見えたのが嬉しかった。




