第八話 パラスティックペリドット
パンッ――と、小気味いい音が室内に響いた。我ながら見事な拍手である。
手を合わせる相手は隕石……の中に含まれる、パラスティックペリドットという宝石だ。
「頼む、ペリドット。宇宙に知り合いがいたら、是非とも俺に紹介してくれ」
毎日のように拝んでくる持ち主を、この石はどう思っているだろうか。
そんなことを知る由もない俺は、今日も今日とて宇宙人に想いを馳せている。
「まあ、隕石自体が宇宙人みたいなもんだけど……」
ちなみに隕石は、鉱物を扱う店で買った。オリーブグリーンの橄欖石――ペリドット――を含んでおり、宇宙産の宝石混じりという浪漫あふれる一品である。
「そろそろ寝るか。夢でもいいから、友好的な宇宙人に会えますように」
攻撃的な種族は流石に怖いと思う小心者、俺。
そういえば、宝石が人の姿になって夢に現れるとかって都市伝説があったっけ。
何ならそういうのでもいいから宜しく、などと考えているうちに、俺は意識が遠のいていった。
『宇宙は果てしないですからね。存在はしていても、なかなか遭遇することができないんです』
そんな声にハッとして振り返った先で、穏やかな佇まいの女性が微笑んでいる。
やや淡い金色の長い髪と、太陽のような暖かさを感じる黄緑色の瞳が美しい。思わず見惚れた彼女の背景には、星々が輝く宇宙空間が広がっていた。
「宇宙人だ!!」
そう確信した俺がつい叫んでも、彼女は動じず笑みを深める。
『ふふ、そうとも言いますね。私は宇宙からやってきた宝石ですから』
「え? あっ、ペリドット!?」
『正解です。今の形態は、地球ではアキラビトと呼ばれているようですけれど』
ペリドットの言葉に、俺は寝る前に考えていた都市伝説を思い出す。人の姿をとった宝石のことをアキラビトと言って、それが持ち主の夢に出るっていう話だった。
「すげえ、宇宙人と都市伝説が一度にやってくるとか。俺にはもう、朝が来ないんだろうな……」
ほろりとした気分ながらも満足げに俺がこぼすと、ペリドットは笑った。
『あらあら、そんなことはありませんよ。明日、宇宙の関係者が伺いますから、待っていて下さいね』
「えっ、ホント!?」
身を乗り出してペリドットに尋ねたところで、俺の意識は急速に薄れていった。
――ピーンポーン。
遠くで聞こえるインターホンの音に、俺は慌てて飛び起きる。休日だからと油断して、思ったより寝過ごしてしまったらしい。
「……ウサギだ」
そして宅配業者から受け取った箱から出てきたのは、可愛いウサギのぬいぐるみ。手には、餅つき用の杵が握られていた。
思い起こせば随分前、米が欲しくて応募したキャンペーンの賞品の一つである。要するに狙いが外れた賞なのだが、何かしらが当選したことは嬉しい限りだ。それに。
「月で餅をつくウサギも、宇宙の存在だしな」
ウサギのぬいぐるみをパラスティックペリドットの横に置くと、ペリドットの優しい笑顔がふわりと脳裏に浮かんだ。




