第十話 トパーズ
趣味を見つけたい。
しかし、趣味とは何だろう。
「哲学だ、これ」
そんなセルフ突っ込みをしつつ、私は心惹かれるものを求めて街を散策している。結構あちこち歩いたけれど、ピンと来る何かは特になかった。強いて言えば先ほど、目の前を狸が横切ったくらいである。
「世の中にはこんなにも、沢山のものがあふれてるってのに」
通りかかった公園の日陰になっているベンチに腰を下ろし、私は大きく溜息を吐いた。何事にも深い興味が持てない自分が、何の意味もない存在に思えてくる。
それでも、そよそよと涼やかな風は優しくて。
知らないうちに、私はうたた寝をしてしまっていた。
『何を探求したいかを探し求めるってのも、なかなか面白いねえ』
陽気な声が降ってきて顔を上げると、そこには華やかな黄色の瞳をした女性がいる。ウェーブの黒髪をなびかせて笑う姿は、とても素敵で親しみやすいお姉さんだ。
だからだろうか、私は相手が何者かも疑問に思わず彼女に応える。
「でも、ちっともやりたいことが見つからなくて。時間を無駄にしてるみたいで、辛いんです」
『君が見て感じたものは、全て君の糧になっているよ。どれだけ些細に思えてもね』
そう言って微笑む女性の瞳に、私は美しい桜の模様を見た気がした。
こんな人がいつも傍にいてくれたら……と無意識に考えたところで、何かが頭に引っかかる。
『ま、折角だから、私のおすすめも参考にしてみてよ』
「……狸?」
楽しそうな彼女に手渡されたのは、なかなかにずっしりとした狸の置物だ。
ちょ、重くないですか? と言いかけた時、私はすうっと目の前が霞んでいく。
――目覚めた私の頬には、相変わらず穏やかな風が当たっていた。
「あれっ、狸……」
しかし、やたらと重量があったはずの狸の置物は消えている。
夢だったのかと理解した瞬間、私は思い出した。自分が身に着けているイヤリングの、トパーズという宝石のことを。そして、大切にされた宝石が人の姿をとり、アキラビトとなって持ち主の夢に現れるという都市伝説のことを。
「そっか。ずっと居てくれてたんだね」
じんわりと温かくなる胸に、ふつふつと湧き上がる好奇心。
私は興味の赴くまま、陶芸教室に通うことを決めた。
立ち上がった際に揺れたイヤリングは、きっと美しく輝いていることだろう。




