第五話 シリマナイト
裁縫って、バトルなんだろうか。
「あっ、ちょ、待って待って!」
折角縫った布から糸が抜けているのに気づき、私は慌てて手を止める。玉結びが小さかったみたいだ。あまり玉を大きくすると気になるかも、なんて思ったのがまずかったか。
多少不格好であれ、ちゃんと機能しなければ意味がないことを改めて知る。
「ふー……ちょっと休憩」
やれやれと自分に溜息を吐きながら、私はぐるりと自室を見回した。そして目が行く先はいつも通り、深い緑色が美しいシリマナイトのルースである。シリマナイトは宝石の名前で、ルースはカッティングが施された状態のことだ。
「あの子に似合う服を、自分で作れたらなあ……」
好きこそ物の上手なれと言うが、私の場合は下手の横好きなのが悲しい。ちなみに今やっているのは、ただのほつれ直しである。
そんなことを考えながら凝った肩を解していたのだが、私は知らぬ間に机に突っ伏して眠り込んでしまった。
『繊維は文字通り、繊細なものですからね。焦らずゆっくり、いきましょう』
穏やかな声が心地よく耳に届き、私は目を開ける。気配を辿って首を捻ると、薄茶色の長い髪が魔王のように揺れる、一人の青年がこちらを見下ろしていた。
――どこの異世界から来たんですか?
と問いたくなる風貌にもかかわらず、彼の緑色の瞳は落ち着いていて、何だか懐かしく感じられる。もしかして、この人は。
『貴方は自分の心を、もっと解放してよいのです。好きであることに、失敗などありません』
何を言われているのかは、すぐに分かった。
不器用だからと手を伸ばさなかった型紙や、素敵な布の数々が私の脳裏を巡る。
「……ありがとう。時間がかかると思うけど、待っていてくれますか?」
『勿論です。私はずっと、貴方のシリマナイトですからね』
そう言って優しく微笑むシリマナイトに、私も嬉しくなって笑みがこぼれた。
ぼんやりした視界が、少しずつ鮮明になる。
夢が『記憶』として急速に整理されていく中、私は別のことも思い出していた。
「確か、アキラビトだっけ」
宝石を大切にしていると、持ち主の夢にその宝石が人の姿で現れるという都市伝説。
「よし、手芸屋さんに行こう!」
善は急げ、思い立ったが吉日。それで合ってる。
私が立ち上がりながら目をやれば、シリマナイトがきらりと光って応えた気がした。




