第六話 ユークレース
私は卵を割りたい。
――片手で。
「でも食べたいのは、目玉焼きなんだよね」
つまり、『失敗したからスクランブルエッグに変更』をしたくないのである。よって練習がままならず、一向に上達しない日々が繰り返されていた。
別に何を目指している訳でもない、ふわっとした願望ゆえの体たらくとも言える。
『なるほどー、悩ましいですね。それなら玉子焼きはどうですか?』
そんな私の非常にどうでもいい相談に、真摯に耳を傾けてくれる目の前の女性。すっきりした美しい青の瞳をきらめかせて提案する彼女の名は、ユークレースだ。
私が日頃から大事にしている宝石のルースであり、今は夢の中で人の姿となっている。
「そうじゃないんだよ……」
『炒飯も美味しそうですし』
ちょっと天然らしいユークレースは、私のささやかな突っ込みを気にせず言葉を続けた。ぐっと拳を握る彼女の、明るい茶色のウルフカットヘアが揺れる。
「あー、それは良いかも。お腹空いてきたな……」
もう、ユークレースが可愛いから何でもいいか。うん。
『起きますか? じゃあ、張り切って卵を割りましょう!』
「片手で綺麗に割れたら、また会ってくれる?」
『勿論ですよ』
宝石を大切にしていると、その宝石は『アキラビト』となって持ち主の夢に現れるらしい。
そんな都市伝説である宝石の化身は、微笑んで私の覚醒を見送ってくれた。
「お腹空いた」
目覚めた自分の第一声で、見た夢の内容が脳裏に蘇る。
そしていつもの場所には、変わらずユークレースのルースがあった。
「まずは……お米でしょ」
そう言いながら朝ご飯の準備を始める私を、彼女はきっと応援してくれていることだろう。




