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第二話 アイオライト


 世界を想像することが好きだ。

 自分に都合のいい妄想とも言うが。


「色が変わる石とか、神秘だよねー」


 うっとりと見つめる先は、小さな台に鎮座するアイオライトの原石。デパートの催事で売られていたもので、一目惚れして購入したお気に入りの宝石だ。

 アイオライトの特徴である多色性――見る方向の違いにより色が変わって見える性質――を、私は暇さえあれば堪能している。


「んふふ……今日も綺麗だよ、イオくん」


 石に名前までつけて愛でる様子は、さぞかし微笑ましく映ることだろう。多分。


「まさしく、白馬の王子様だわ」


 そして宝石の見た目とも由来とも特に関係ない妄想をしながら、私は知らぬ間にうとうとと船を漕いでいた。




 ――ふと気づけば、私は知らない海を眺めて立っている。

 ぼんやりしていると水平線から見たこともない怪物が顔を出し、こちらを睨みつけてきた。


「えっ、何なに!?」

『ご主人様、僕の後ろへ!』


 混乱する私の前に颯爽と現れたのは、美しいすみれ色の瞳をした青年。薄茶色のサラサラな短い髪を揺らし、私を背に庇って怪物に対峙する。


『ロイヤル・バイオレット・ビーム!!』


 そう叫んだ彼が眩い青紫の光線を放つと、その直撃を受けた怪物は霧散して消えてしまった。すみれ色の瞳の青年はこちらを振り返り、うやうやしく膝をつく。


『もう大丈夫です、ご主人様』

「あ、ありがとうございます。あの、貴方は?」

『名乗るほどの者ではありませんが、もし宜しければ……』


 顔を上げた青年は大変な美貌の持ち主で、私はつい見惚れて固まってしまう。


『これからも僕を、ご主人様のしもべで居させて下さい!!』

「は?」


 青年の美しい顔が恍惚とする中、うっかり漏れた私の声はとてもドスが効いていた。




「ん……あれ?」


 私が目を覚ますと、目の前には先程までと同じく、アイオライトの原石がある。時計を確認したが、そんなに時間は経っていないようだ。今日はポカポカした陽気だから余計に、不思議な夢に誘われたのだろう。


「イオくんって、ドМだったんだね……」


 夢に現れた青年の瞳と、今ここにあるアイオライトの原石は、全く同じ色をしている。夢の内容については遠い目をしてしまうものの、彼が白馬の王子様を望む私の期待に応えようとしてくれていたのは分かった。

 とりあえず、アイオライトは色んな顔を持ってるってことで一つ。


「私の愛を受けとめてくれてありがとう、アキラビト」


 大切にされた個体にだけ宿り、人の姿をとって持ち主の夢に現れるという、宝石の化身『アキラビト』。

 都市伝説って侮れないなと唸りつつ、私は今後もイオくんを大事にしていこうと誓うのだった。



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