第一話 アパタイト
宝石を大切にしていると、その宝石は『アキラビト』となって夢に出るらしい。
この都市伝説は、宝石好きじゃなくても結構有名な話だ。
「宝石の化身かぁ……」
お気に入りの宝石がついたペンダントを見つめ、ついそんな言葉が漏れる。
私は宝石が大好きだから、夢とはいえ自分の宝石と話が出来たらいいなと思う。しかし流石に、面白おかしく伝わる噂を鵜呑みにするほど純粋ではない。
「行ってきまーす」
ペンダントはお出かけ用だ。今日は仕事。
大事な宝石に声をかけ、私はいつも通りに職場へ出勤した。
――ならば、いつも通りに帰ってくると思うじゃん?
「はぁー……」
帰宅して玄関の鍵を閉めると、漸く気が休まる。
時刻は深夜。仕事はごく普通に終えたものの、うっかり飲み会に捕まってしまってこの有様だ。もう何もやる気がしない。とにかく寝たい。
「おやすみ……」
メイクも落とさずベッドに倒れ込む寸前、目に入った宝石に思わず微笑んで。
私は、あっという間に意識を手放した。
『今日は大変だったね、お疲れ様』
ふわふわと心地よい夢の中で、優しい声が聞こえる。
どこだか分からない白い空間を振り返れば、そこには一人の青年が立っていた。
『でも、歯磨きはちゃんとするように』
ネオン管のように明るく、鮮やかな青い瞳が苦笑している。短めの銀髪に眼鏡をかけていて、何だか先生みたいな雰囲気だ。発言からしても。
「はーい……」
『歯は健康のもとだからね。君が元気だと僕も嬉しいから、気をつけるんだよ』
私がしょんぼりして応えると、彼は笑って私の頭を撫でてくれる。
その手はとても穏やかで、温かかった。
「……夢?」
目が覚めた私の視界に入るのは、見慣れた自分の部屋。
電気は点けっぱなしで、鏡にはメイクの崩れた自分の顔が映っている。しかし不思議と、ひどい様子だとは思わなかった。
(アキラビト、かな)
洗面所で歯を磨きながら、私はそんなことを考える。
大切にされた個体にだけ宿り、人の姿をとって持ち主の夢に現れる宝石の化身。
「アパタイトらしいというか、何というか……」
私のお気に入りペンダントについているのは、アパタイトという宝石だ。夢で会った青年の瞳と同じ、ネオンブルーをしている。
勝手に緩む表情のままに部屋へ戻れば、美しいアパタイトがきらめいて迎えてくれた。




