第十八話 セレンディバイト
ついに、この時がやってきた。
私が正式な忍者として、デビューを果たす日が。
もう少し詳しく言うと、テーマパーク『忍者からくりパラダイス村』に就職したのである。
私は幼い頃、両親にかの地へ連れていって貰ってから、ずっと忍びに憧れてきた。忍者の格好をしたスタッフさんに『私も忍者になる!』と宣言したら、丁寧に求人案内資料をくれたことを覚えている。当時私はまだ小学生だったものの、何て素晴らしい環境なんだろうと感動したものだ。
とはいえ実はここまでの道のりの間に、探偵に浮気したりもしている。私は思いのほかミーハーだったが、しかし幼少からの軸は脆くなかった。最終的には、ブレなかった自分を褒めてやりたいと思っている。
そんな訳で明日はパラダイス村に入村し、忍者組織への入隊式が待つ。
興奮冷めやらぬままベッドに入ったら、何やら不思議な夢を見た。
『この度の就職、心よりお祝い申し上げるでござる。流石、主殿でござるな!』
夢の中でそう祝辞をくれる女性は、黒髪の長い三つ編みを揺らして嬉しそうに笑った。忍び装束のような衣装をまとっていて、艶やかな黒い瞳はよく見ると、奥に深く美しい青色がきらめいている。
彼女の名は、セレンディバイト。私の心の友であるペンダントの黒い宝石が、人の姿をとった状態だ。そうやって持ち主の夢に現れたりする宝石の化身を、アキラビトと言うらしい。
「ありがとう、セレン! やっぱりセレンも忍者だったんだね」
私はセレンの完璧な忍びの佇まいに、思わず感動する。
宝石はあまり詳しくなかったが、私の持つセレンディバイトは一見して黒いものの、光にかざすと青く透き通っているのだ。それが世を忍ぶ存在かつ隠れた魅力の忍者に重なり、私はずっとセレンを忍びの宝石だと思っていた。
『その通りでござる。しかし主殿が推理小説にハマっていた頃は、それも致し方ないと思いつつ寂しかったものでござるが……』
「おうふ……よそ見しちゃって、ごめんね」
セレンのペンダントは小さい頃に母から譲られたものだから、彼女は昔からずっと私のことを見守ってくれていたのか。
『気にしなくていいでござるよ。拙者はいつでも、主殿の忍びでござる』
「うん、ありがとう。私も頑張るから、これからも宜しくね」
そうして微笑み合う私たちは、固い絆を有した忍者仲間であった。
目が覚めた朝は、これ以上ないほどに眩い。
枕元にあった黒いセレンディバイトのペンダントを掲げれば、その宝石は今日も美しく光を透過させている。
「いざ、参るでござるよ!」
私がペンダントを握りしめて気合いを入れると、掌がほんのり温かくなった気がした。




