第十五話 コーネルピン
『やあ、こんばんは。僕はアキラって言うんだ、宜しくね』
愛らしい子猫に話しかけられ、私は黄色い悲鳴を上げた。
「きゃあー! 可愛いぃー!!」
猫と話ができるなんて、夢っていうのは本当に素晴らしい。
『主ちゃんは反応が良くて楽しいなー! じゃあ、こんなのはどう?』
そんなことを言いながら猫は、瞬く間にデフォルメされたシャチの姿に変わる。
「おおーっ! 本物っぽい触り心地なのに、絶妙なぬいぐるみ感! 流石だね、ルピン」
『でしょー? 主ちゃんの好みは、バッチリ把握済みだもんねー』
得意げにふんぞり返るシャチがまた、堪らなく愛おしい。可愛いが過ぎる。
先程から私の望む姿に変身してくれている彼女の名は、コーネルピン。現実世界で私が大切にしている、宝石のルースだ。今は私の夢の中で、宝石の化身『アキラビト』として現れている。
因みにルースというのは、ジュエリーになる前のカットが施された状態の宝石のこと。アキラビトというのは、宝石が持ち主の夢に人の姿で出るっていう、都市伝説だ。
「……ルピンにも、アキラビトとしての人の姿があるんだよね?」
『うん、あるよー。でも変身が得意な宝石としては、正体不明のほうが粋だと思うんだよね!』
そう言ってウインクするシャチの瞳は、くるくると色が変わっている。その楽しそうな様子からは、己を押し殺すような雰囲気は感じられなかった。
でも、気を遣ってくれているのは分かる。宝石の化身アキラビトは、人の姿で持ち主の夢に現れるはずなんだけど。私が人間嫌いで、ぬいぐるみとかとばかり話している為だろう。彼女は初めて夢で会った時からずっと、私の好きな『可愛いもの』の姿をしていた。
「そうだね。でも……気が向いたらでいいから、どんな人なのか見てみたいな」
私が控えめにそう言うと、ルピンはシャチ姿からでも分かるほどポカンとしている。しかし次の瞬間、シャチはポンッと消えて人間の女性が現れた。
『主ちゃん。コーネルピンさんはいつでも、主ちゃんの味方だからね!』
赤茶色のミディアムヘア、角度によって色が変わる瞳。色鮮やかな布をスカーフのように首に巻いた彼女は、快活な笑顔で大袈裟にこちらへ手を差し伸べる。
「ふふっ……ありがとう、ルピン。大好きだよ」
自分に『さん』付けするのがあまりにもルピンらしくて、私は思わず笑った。
――朝が来る。その度に、目を覚ましたくないと願う日々。
今日もそれは同じだったけど、今までよりは起き上がる体が軽い気がした。
「コンビニ……いや、散歩かな……」
ちょっとだけ、必要でない外出をしてみようと。
そう思えたことを、今度ルピンに会ったら話したいと思う。




