009話 魔王の祭壇遺跡へ ピクニック・デート!
魔の森の調査を行うべく、この監視砦に第1騎士団と第2騎士団が派遣されたようだ。昨日はその調査の途中でギカントロールを中心とする魔物の集団に襲われたようで、ヴィンスとブレイドの両騎士団は魔王が復活していないかを見るために森の最深部を調査する事になっているようで、魔王の祭壇遺跡まで向かうと言う。泡姫達はレベリングに来たので同行させて貰える事になった。
泡姫は同行者全員にデバッグ・モードで『エンカウント操作』をゼロ指定して進む事にした。エンカウントとはゲーム用語で魔物等のモンスターに遭遇する事で、その確率を設定が出来るのでゼロにすると遭遇しなくなるのだ。
「一体全体、何がどうなっているのだ?!」
「す、凄いぞ、これは……」
エンカウントの確率ゼロ効果に、ヴィンスとブレイドは驚きの声を上げた。
2人の部下の騎士達には聖女の能力として伝えてあり、泡姫は気兼ねなく使ってみた感じになる。魔物に大声を出して近づいても気づかれないので、皆が度肝を抜かれたようだ。
元暗殺者であるセバスチャンの視点で、エンカウントの確率ゼロ効果が気になるようだ。
「アリエル様。そのエン…何たらは人にも有効でしょうか?」
「どうかしら……試して見る?」
「お願い致します!」
珍しくセバスチャンが乗り気なので休憩中に騎士団に協力して貰って、効果を試して見る事になった。騎士団を2つに分けて色々なパターンでエンカウントの確率ゼロ効果を付与して見る。結果としては人でも有効で、お互いが認識中は意味がなく認識外だと有効になり、接地する状態までは有効なので大声や剣と盾を打ち鳴らしたり、足音等には有効であった。但し弓矢や魔法等の遠隔攻撃をすると無効になってしまう。効果時間は十二時間で、完全に不意打ちが可能なので暗黒魔法の認識阻害魔法の完全上位互換と言えた。
その結果を知ったセバスチャンは地面に突っ伏した。
「こ、こんな物はありえん! 儂の人生を否定されたような効果に心が折れました……」
セバスチャンは暗殺者として気配を消したりする不意打ち攻撃が得意なので、エンカウントの確率ゼロ効果に打ちのめされてしまった。泡姫は慰めて上げる。
「ほ、ほら、セバスチャンの働きを補完するには丁度良いじゃないの」
「そうですな。暗殺の依頼の際には儂に使って頂きたい」
「もう暗殺なんてさせないから杞憂よ!!」
魔王の祭壇遺跡までの道のりは順調で、レベル上げに良さそうな魔物を選択出来るので普通ならば5日かかるそうだが3日で着くと、亡くなった勇者と一緒に来ていたセバスチャンが言っていた。しかし例外もあって泡姫は叫んだ。
「キャッ!!」
森の中なので馬車が使えないので歩きでの工程だが、樹木の上から落ちて来たスライムが泡姫に直撃する。落ちて来たのは涙滴型ではなくて、アメーバのような粘り気のある不定形なスライムだ。スライムに感知された訳ではなく、自然落下の影響で泡姫に向かって落ちて来たので不運だったようだ。粘着質の身体と冷たい感触に泡姫は我を忘れてしまった。
「闇よ! 我に仇なす者を闇の業火で焼き尽くせ。暗黒業火!!」
「うわっ!!」
近くに控えていたカルミアが、泡姫から立ち昇った黒い炎に焼かれそうになって咄嗟に回避する。
ビギャャャャアッ!!!!
スライムは断末魔を上げながら闇の炎に蝕まれて消えて行った。
リリーが駆け寄って心配する。
「アリエル様、お怪我はありませんか?」
「リリー、大丈夫よ。それよりも拭くものを頂戴」
「どうぞお使い下さい」
魔力障壁で守られていた肌には黒い炎が到達していないので、泡姫はスライムの粘液で汚れてしまった。リリーは背負っていた魔法鞄からタオルを出すと泡姫に渡す。泡姫はスライムの粘液をタオルで拭き取った。
ノワールはセバスチャンが背負っている魔法鞄の上で眠っていたのを、スライム騒動で起こされて欠伸をしていた。
「ふぁぁぁあ、うるさかったのニャ……」
護衛として対処できなかったカルミアは謝って来た。
「アリエル様。私の不注意です。申し訳ありませんでした」
「デバッグ・モードに頼り切りだと良くないわね。今度から頭上も気を付けて頂戴」
「はいっ!」
隊列の先頭の方からヴィンスとブレイドが心配してやって来た。
「黒い炎が見えたんだが?!」
「何だ? 今のは?!」
泡姫はスライムが樹木の上から落ちて来て暗黒魔法を使ったと説明した。セバスチャンがドヤ顔で威力を称賛する。
「アリエル様。また威力が上がりましたな」
「レベルが上がったから魔力を込める量に注意が必要そうね……」
「流石、アマリリス様のお子ですな」
アマリリスと聞いたブレイドが首を傾げた。
「アマリリス……聞いた事があるな。もしかしてサウスインダス王国の暗黒のアマリリス公女殿下か!?」
「良くご存じでブレイド殿。アリエル様の母君は、その二つ名で呼ばれていたアマリリス様である」
「うへぇ!! 聖女で暗黒魔法も使えるとかスゲーな!! これはヴィンスが尻に敷かれる運命……」
「変な事を言うなっ!!」
ゴンっ!!
ヴィンスがブレイドを結構本気の拳骨で頭を殴ったので凄い音がする。
「い、痛いっ!!」
「口は災いの元ですな」
「まったくデリカシーのない男だ……」
「アリエル様はお優しい方ですよ!」
泡姫の使用人のセバスチャン、カルミア、リリーの皆からブレイドは非難を受けた。
しはらくして休憩になり、普段は騎士団に縁のない独身女性が同行しているので、特に休憩中には騎士達が浮足立っていた。中でもブレイドはカルミアに執心しており、アタックをかけては玉砕を続けていた。
「なあカルミアさん。俺とデートしようぜ」
「私はアリエル様の護衛中だ」
「カルミア。ブレイドさんと付き合うなり振るなりする時間を上げます。お手数ですがその間にヴィンスさんに護衛を頼めますでしょうか?」
「ブレイドが迷惑をかけているので問題ない」
「よしっ! 行こうカルミアさん!」
「あ、アリエル様?!」
ブレイドはカルミアの手を引いてどこかへ行ってしまった。
一方、泡姫には流石に公女殿下なのもあって悪い虫は寄って来ないが、お付きのメイドのリリーには騎士達が群がっていた。
「リリーちゃん! 飴を上げるからこっちにお出でよ!」
「こっちでゲームをしようぜ!」
「わ、私もアリエル様のお世話がありますので……」
「それからリリー。男性に慣れるチャンスじゃないかしら? 騎士の皆様方は紳士ですもの。行ってらっしゃいな」
「アリエル様の御命令ですので少しですよ……」
公爵家の使用人の男性連中は平気だが、リリーは屋敷の女性陣に囲まれて育ったので外部の男性とのコミュニケーションに不慣れなのを矯正するために突き放した。但し騎士達には釘を刺して置く。
「セバス。リリーが同意せずに不埒な行いがあったら、どう致しましょう?」
「男でなくなれば不埒な行いは出来ませんな……」
「「「「「ひいっ!!」」」」」
セバスチャンはどこから出したのか苦無を握りしめて騎士達に威圧を放った。騎士達は大事な所を押さえつつ、リリーを連れて行った。これで泡姫はヴィンスと2人きりになりたい作戦が成功した。
「アリエルさん。この近くに滝があるはずなんだが、見に行かないか?」
「行きます!」
遠征で何度か来た事があるヴィンスに誘われたので、泡姫はエスコートの手を取って滝に向かった。休憩場所からの喧騒が聞こえなくなる位の距離に、余り高低差はないが水飛沫を立てて滝が流れていた。そこは森が開けているので滝の水飛沫に太陽の光が当たり、薄っすらと虹が見える素敵な場所で泡姫は感動する。
「わぁっ! 奇麗……」
「まさかここに女性を連れて来る日が来るとは思っていなかったが、喜んでもらえて何よりだ!」
近くの岩場に2人して座ると、泡姫は意地悪を言って見る。
「女性なら誰でも良かったのかしら?」
「そ、そんな事はない! アリエルさんで良かった!」
「ふふっ! 嬉しい」
「納得してもらえて良かった……」
揶揄ったのが分かったのかお互いに苦笑した。風景を楽しみながら取り留めのない話をしていると時間を忘れてしまう。ヴィンスのお腹の鳴った音が泡姫に聞こえて笑い合った。
「聞かれてしまったかな?」
「バッチリ! 日本の物で何か食べたい物があるかしら?」
「おっ? おおっ! そう言えばチュ○ルを出していたな。もしかして他も出せるのか?」
「日本で知られていた品なら出せると思う」
ゲーム中でお遊びアイテムとして実装担当が色々と入れていたので、アイテム生成にはかなりの品数が用意されている。
「つ、ツナ缶詰が食べたい!」
「待ってね」
ヴィンスはまだ二十歳のはずで思いの他に少年のような笑顔を綻ばせた。泡姫はデバッグ・モードのアイテム生成からツナ缶詰を検索しようとする。亡き旦那の好物だったと思い出して、懐かしい思い出が一瞬、蘇った。僅かに首を振って感傷に浸るのを止めて検索に戻る。
「……あかさ……た…ち…つ……あった! ツナ缶詰!」
「おおっ!」
それだけでは味気ないので簡単なおつまみにしようとして、玉ねぎや塩に胡椒、マヨネーズを出してから調理道具がない事に気づいた。
「こちらが、まな板と包丁と調理用のボールでございます」
「ありがとう……キャッ!」
横から突然に調理道具を出されて振り返ると、セバスチャンが一式を差し出して待機していた。どうやらまた聞き耳を立てていたようで、気配を消して着いて来ていたらしい。ノワールもセバスチャンの背負う魔法鞄の上から呑気な声を出した。
「我も食べたいニャ!」
「えー? 猫に玉ねぎは大丈夫かなぁ?」
「我をそこらの猫と一緒にするでないニャ!! 人の食す物で駄目だった物などないニャ!」
最悪としては回復魔法もあるので平気かと考えて調理する事にした。玉ねぎの皮を剥いて半月輪切りにして解す。ボールに川の水を汲んで神聖魔法で浄化してから、切って解した玉ねぎを流水で洗った。水切りをした玉ねぎに塩を塗して良く揉み込む。ツナ缶詰を開けて植物油を絞ってから玉ねぎと混ぜ、マヨネーズを和える。胡椒で味を調えると完成だ。
小鉢とフォークの4セットをセバスチャンが差し出して来たので、盛り付けして皆に配った。缶ビールをアイテム生成で出すとセバスチャンとノワールは、それも気になったのかプルタブの開け方を教えて2缶を渡すと、瞬きをした瞬間に姿を消してしまった。
「どうぞ召し上がれ」
「いただきます! ……うまいっ! ビールも久しぶりだ!」
「ふふっ! 余り飲み過ぎると行軍に支障がでるので1缶だけね」
休憩時間も残り少なくなったので戻る時に、エスコートに見せかけてヴィンスが多少強引に手を繋いで来たので泡姫は嬉しくなって握り返した。
ヴィンス「『男でなくなれば不埒な行いは出来ない』とは俺も入っているのか?」
セバス 「ヴィンス様は別枠でございます」
ヴィンス「安心した」
泡姫 (やったわーっ!!)
次回の話は翌日の19時になります。
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