006話 魔の森と推しキャラクターの騎士団長ヴィンス
泡姫御一行は王都の近くにある古代遺跡に馬車で向かう。そこには3階建てビルの高さ位がある石造りの巨大な門が聳え立っていた。転移門は大昔に栄えていた魔法帝国が残した魔術具で、作動原理等が一切失われている神秘の門であると泡姫は設定したが、ゲームとしてはプレイヤーの移動を短縮する手段が欲しいとプログラム担当から要望があって実装した物である。
泡姫はいつもの豪華なドレスを脱いでチュニックにズボンと旅装用の格好に着替えている。馬車から降りて石造りの門に触れると、行先の選択肢を示すウインドウが表示された。
「え~と、魔の森の監視砦遺跡にポチッとな!」
聖女のイヤリングが光って門の扉の表面に光が移って波打ち、渦を巻いた七色の光の膜で覆われた。
「さあ、この光の渦に馬車で進むのよ!」
「へ、へい……う、馬が言う事を聞いてくれねぇ!」
御者の男は見慣れない現象に戸惑った。馬が光の渦に恐れをなして進んでくれないので困り果てる。ノワールが馬車から出て来て馬達に言い聞かせた。
「馬達よ! この光の渦は怖い物じゃないニャ!」
ヒヒィィン!! ブルブルブル……
ノワールの説得に馬達が嘶くと、冷静さを取り戻したのか鼻を鳴らした。問題なく進めそうなので泡姫とノワールが先導して光の渦に入って行った。
カキンッ! ドガッ! ワァァァァッ!!
光の渦を抜けた先で騒がしい音が鳴り響いている。転移門を守る結界の外では魔の森の魔物との戦闘が繰り広げられており、泡姫は驚いた。
「えっ!? 魔物と戦っているのは王国軍の騎士に見えるけれど……」
「マズイニャ、加勢するニャ?」
「ええ、お願いノワール」
「任せるニャ! 終わったらおやつを忘れないでニャ!」
「期待して良いわよ!」
「ヤッターニャ!!」
ノワールは元の巨大な猫の姿に戻ると結界の外に飛び出して行った。それを見たセバスチャンは馬車から降り、馬に乗って護衛をしていたカルミアと共に近づいて来る。
「セバスとカルミアにも王国軍の加勢をお願いできるかしら?」
「アリエル様の護衛が居なくなります」
カルミアに反対されるが転移門の結界を説明した。
「この転移門の結界の中に魔物は入れないわ。私は負傷者をこの結界内に引き入れて治療に専念するから」
「魔物よりも人の悪意の方が怖い物です。アリエル様」
セバスチャンが言うと納得物なので、カルミアには残って貰う事にした。
「それならばカルミアには引き続き私の護衛を頼むわ。セバスは加勢をお願い」
「「承知致しました」」
セバスチャンはどこから出したのか苦無に似た片手武器を両手に出して、目にも止まらぬ速さで加勢に向かった。あの速度で迫られたら泡姫は一溜りもないと背筋が震える。
気を取り直して結界の境界面に向かってカルミアに叫んでもらった。
「王国軍の騎士達よ! アリエル公女殿下が聖女としての務めを果たしに来た! 転移門の結界を通れるようになったので負傷者を引き入れるが良い!!」
泡姫は転移門の結界面に触れてウインドウを出し、通行可能者リストを出すと周囲の王国軍を選択して許可した。騎士団名を見て泡姫は推しキャラクターに会えるかもと期待する。
「第1騎士団と第2騎士団!! この時期は魔の森に遠征していたのか!」
第1騎士団は侯爵家の三男で青髪の騎士団長ヴィンスが指揮する部隊である。それと双璧を成して第2騎士団は元傭兵でヴィンスと同い年の幼馴染であり、茶髪の副騎士団長ブレイドが指揮をしている。泡姫はヴィンスが殊の外、推しキャラでパソコンの壁紙もヴィンスにしていた位だった。ゲームとしてはどこかで負傷して王都に帰って来て、ブレイドが女性陣からの守りを固めているので攻略が難しい設定になっている。ここで会えるとは思わなかったので泡姫の心は踊った。
転移門の結界の中に負傷者が続々と担ぎ込まれているので、泡姫はカルミアから現実に引き戻された。
「アリエル様?」
「あ、ごめんなさい。初めて集団戦を見たので戸惑っていました」
「まあ騎士でもないと体験しませんからね……うっ!」
「あっ!」
泡姫の頭の中に経験値の増加によってレベルアップしたファンファーレが響き渡って来た。カルミアも同じように頬を染めて顔が赤くなっている。レベル差が酷いとレベルアップの高揚感で酔ってしまい、しばらく起き上がれなくなったりする。御者とリリーがそのようで馬車に寝かして置いた。ノワールとセバスチャンが結界外で頑張ってくれているようで、しばらくはレベルアップで落ち着きがなくなった。
膠着状態になったのかレベルアップが止んだので、泡姫は負傷者を治療する事にした。数十人が地面に横たわり、軽い負傷者も地面に思い思いに座っていた。
「個々に治療をするよりは、周辺の負傷者を一気に治療しましょう!」
泡姫は右腕を〆の形に振ってステータス・ウインドウを表示させた。普通は魔術具を使わないとステータスを見られないが、デバッグ・モードのウインドウ経由で参照出来るので便利である。流石に魔の森の魔物は高レベルなので自分のレベルが四十一まで上がり、範囲神聖魔法が使えるようになっていた。
「癒しの導き手よ。其は光の調律者なり。我と同胞を癒しの庵で囲い給え。聖域展開!」
泡姫を中心にして黄色の光の魔法陣が地面に浮かび上がり、転移門の結界内に光の柱が立ち上がった。この光の柱は持続性のある回復効果のある神聖魔法で、最初に大きく回復した以降はMPを消費しながら徐々に回復して行く設定になっている。
騎士達から歓声の声が上がった。
「「「おおっ!」」」
「「「温かい光だ!」」」
「「「「「「せ、聖女様!!」」」」」」
転移門の結界面から2人の騎士が飛び込んでくる。その1人はブレイドで、もう1人のヴィンスはブレイドの肩に担がれていた。
「うへぇ!! や、ヤバかったぞ!! 誰か回復が出来る者を寄こせ!!」
そう言ってブレイドはヴィンスを地面に降ろす。ヴィンスは左足が奇妙な方向に折れ曲がっていて、血を吐いたのか口から泡が出ていた。胴鎧の胸側もいくつか陥没しており、肺や内臓も傷つけていそうで、かなりな重症に見えた。ブレイドは急いで胴鎧を接続しているパーツをナイフで器用に切断して剥ぎ取った。
「デカイのが来たニャ!!」
「あれは儂等では足止めしか出来ません」
ノワールとセバスチャンも転移門の結界面から飛び込んでくると、その後ろで凄まじい音を立てて何かが結界に接触したようだ。
ドドォォォンッ!!
「キャッ!」
「あ、あれはギガントロール!!」
泡姫は悲鳴を上げて、カルミアは緑色の巨人を見上げた。身の丈が二十メートルもある緑色の巨人が腰布だけの半裸で暴れていた。手には魔の森の木をこん棒代わりに振り回している。セバスチャンが疑問の声を上げる。
「ギガントロールは魔の森の奥に生息しているのですがね……こんな表層に出現するとは。儂でも1度しか討伐した事がありませんね」
「討伐した事があるなら、どうにかして頂戴、セバス!」
「その時には勇者が居りましたからな。今となってはこの老いぼれだけでは、いかんともし難い物です」
「おいっ! そこの聖女! ここは転移門の結界内だろ! ギガントロールは突破できないはずだ。ヴィンスを回復してくれ!!」
「そ、そうだったわ!!」
泡姫はブレイドに窘められると出来る事から行う事にした。まだホーリー・サンクチュアリの回復効果は続いているが、ヴィンスは重症なので大きな回復魔法が必要な状態である。
「其は光の調律者なり。清浄なる癒しの腕で包み給え。完全回復!」
空中から銀色の両手が対象者であるヴィンスを包み込んだ。凹んでいた胸が盛り上がり、左足の奇妙な方向に折れ曲がっていた状態が元の正常な状態で接合された。パーフェクト・ヒールは部位欠損まで治療する完全回復魔法である。ヴィンスは苦しげだった息が整うと、目を見開いて飛び起きた。
「ギガントロールはっ!!」
「ここは転移門の結界の中だ。立て直しができるぞ」
ブレイドに諭されてヴィンスは落ち着いて状況を把握しようとする。泡姫は初めて使う聖女の回復魔法に自信がなかったので聞いた。
「もう痛い所はございませんか?」
「こ、この女性は?」
「聖女だとさ。お前にパーフェクト・ヒールをしてくれた。あんな凄い魔法は初めて見たぞ」
「感謝する!」
ヴィンスに泡姫は抱きつかれた。一瞬の事だったのでカルミアもセバスチャンも対応が出来なかった。
「あ、アリエル様!」
「嫁入り前の娘に何たる事だ!」
地球を含めても久しぶりの人肌に泡姫は驚いたが懐かしい匂いを感じた。上半身が裸の男性に抱きつかれているが、彼は生死の境を彷徨ったはずで感情が高ぶったのだろうと、背中に腕を回してトントンと手の平で優しく叩いて上げた。
ヴィンスは我に返ると、ゆっくりと抱きしめていた腕を解いて、恥ずかしそうにはにかんだ。
「す、すまない。気が高ぶっていた。回復して頂いて助かった。ありがとう」
「ふふっ! どう致しまして。それでお加減はどうですか?」
「何ともない! 死ぬかと思ったが、また戦える!」
そう言ってヴィンスは周囲を見回し状況を確認した。ヴィンスとブレイドは殿を務めて騎士達を逃がしたが、退路を断たれた所で聖獣ノワールと執事のセバスチャンに助けられた所まで思い出す。負傷していた騎士達も黄色の光の柱で回復が進んでいるのも把握し、このままギカントロールを討伐しなければ周辺の村まで被害が出る恐れがあったと認識をした。
「それでギカントロールを討伐したいのだが、聖女様に聖獣様と、そちらの執事さんと女性騎士は頭数に入れても良いのだろうか?」
「アリエルとお呼びください!」
「は、はあ……アリエルさん」
「ふふっ!」
推しのヴィンスに名前を呼ばれてご機嫌になった泡姫だった。
泡姫はアイテム生成でサイリウムを出して、棒をポキッと折って光るようにした。
そしてサイリウムを持っている腕を上げて振り始める。
泡姫 「キャー! 推しキャラのヴィンスさんに抱きしめられたーっ!!」
ヴィンス「そ、それは……」
ヴィンスの反応は、次回の別アイテムで明らかに!
次回の話は翌日の19時になります。
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