004話 オークションと身勝手なプリムラ(義母)
黒い毛皮を纏った九尾の猫型の聖獣ノワールは後ろ足で立って2足歩行をしている。泡姫の眷属になってくれたので着いて来てくれるようだ。聖獣と聖女のペンダントを神官に見られると呼び止められそうになったが、高額寄付の威力は絶大だったようでセバスチャンが返して欲しそうな顔を向けると、引きつった笑顔で見送ってくれた。暗殺者でなければ雇い主の意を組んでくれる優秀な執事である。
次の行先は同じく王都にあるオークション・ホールだ。そこには王都近くのダンジョンで見つけられた聖女シリーズのアイテム『聖女のイヤリング』が出品されているはずで、本来のルートだと古物コレクションが好きな富豪にオークションで落札された後は面倒なクエストを熟さないと手に入らない品で、ゲームの中盤以降でないと手に入らない品となる。
ノワールは馬車の座面に座って泡姫の隣で液体おやつを啜っていたが、遂にお徳用サイズの百二十本入りを食い尽くしてしまったので、泡姫に猫なで声を向ける。
「もっと寄こすのニャァ~~!」
「ノワール。いくら貴方が聖獣でも、それだけ食べると栄養バランスが偏るわよ。明日になさい」
「チッ!」
ノワールは舌打ちして拗ねてしまう。
「猫まっしぐらな猫缶とかあるから、お夕飯は期待して頂戴」
「にゃにぃ! それは楽しみなのだニャ!」
オークション・ホールに着くとノワールは馬車で留守番をしてくれるようだ。
「我が人前に出ると目立つであろう。ここで留守番するニャ」
ここにもセバスチャンは先触れを出していたようで、公女殿下という特上客の来訪に支配人が出て来てホールの上階のバルコニー席に案内された。バルコニー席はホールを見渡せて他のバルコニー席とは壁が設けられていて、プライバシーに配慮された作りになっている。
泡姫は少しはしたないがバルコニー席の手摺に寄って、ゲーム上の設定で落札する予定の富豪を探した。来ているのは母が一代で財を成した富豪の息子が来ていて、奴隷で獣人の狼男を引き連れているのでバルコニー席からも直ぐに見つかった。名前はウォードと言い、実はヒロインのプリムラへの求婚相手の1人でもある。貴族院では付き纏われるはずで泡姫は不敵な笑みを浮かべた。
オークションが始まったようで支配人が壇上に上がって開幕を告げる。
「お集りの皆々様! 選りすぐりの品が出品されていますので楽しんで行って下さい。尚、今日は特別ゲストとして公女殿下がオークションにご参加なされます!」
支配人が泡姫の居るバルコニー席を見上げてから手を胸に抱えてお辞儀をしたので、泡姫は立ち上がって手摺に寄って下の階に向かって手を振る。下から拍手と歓声が返されたので泡姫は椅子に戻って腰かけた。
「アリエル様、儂が入札の声を上げますので、ご利用の際にはお声がけ下さい」
「よろしくね、セバス」
公女殿下が金額を大声で叫ぶ訳には行かないので、セバスチャンが気を利かせてくれる。リリーとカルミアがお目当てを聞いて来た。
「アリエル様。何かお探しですか?」
「きっと素敵な品だろう」
「ふふっ! このネックレスと同じシリーズが出品されると噂を聞いたの」
オークションが始まって女性向けの出品物で3人して盛り上がっていると、しばらくしてから聖女のイヤリングの入札が始まった。ネックレスの時と同じように灰色をしているので古ぼけたイヤリングに見えるので大した金額にならないと泡姫は思っていた。
「次は冒険者パーティーが王都近くのダンジョンの宝箱から入手したイヤリングです! 開始は金貨1枚から」
「2枚!」
「3枚!」
泡姫は詳細に設定していなかったので知らなかったのだが、実は聖女のイヤリングはプリムラの所属する冒険者パーティーがダンジョンで入手していてオークションに出品した物になる。正規ルートでは後に聖女となったプリムラが面倒なクエストを熟して再入手する流れになっていた。
富豪の息子ウォードが声を張り上げた。
「十枚!」
「「「「「「「「「「……おおっ!!……」」」」」」」」」」
会場内に歓声が上がりウォードはドヤ顔で腕を組む。
「入札してセバス」
「承知致しました。十五枚!」
「二十枚!」
「「「「「「「「「「……おおっ!!……」」」」」」」」」」
セバスチャンが十五枚を提示すると、被せるようにウォードが二十枚を提示した。セバスチャンが困った顔をして来た。
「手持ちは百枚まで出せますが、更に支払い前に屋敷に戻れば3倍は出せます。如何致しますかな? アリエル様」
「……続けなさい」
「畏まりました。……二十五枚!!」
「五十枚よっ!!」
「「「「「「「「「「……うおぉぉっ!!……」」」」」」」」」」
セバスチャンが二十五枚を提示すると、被せるように女性の声で五十枚が提示された。声の主はウォードの母親ディステルで後から会場に入ったようで入口近くに立っていた。ディステルは泡姫の居るバルコニー席を見上げている。セバスチャンがまた泡姫にお伺いを立てたので、自分の考えを伝えてセバスチャンに代弁して貰った。
「ディステルよ! ここで手を引けば父君の公爵様に紹介しても良いと、公女殿下がおっしゃっておられる!」
「「!!」」
ディステルは女手の一代で財を成した商会の頭取であり、貴族の伝手を是が非でも欲しかったのだ。息子ウォードと公女殿下がオークションを競っているのを知り、自分で入札しに来たのだ。母子で顔を見合わせて方針が決まったようで入札キャンセルの声を上げた。
「先程の五十枚は取り下げるわ!」
「……取り下げを認めます! 公女殿下の二十五枚が最高価格です! 他にいらっしゃいませんか? …………公女殿下が金貨二十五枚で、ご落札です! おめでとうございます!!」
パチ、パチ、パチ、パチ、パチ……
支配人が宣言して会場内に拍手が鳴り響き、泡姫は聖女のイヤリングを入手した。
一方その頃、泡姫の義母だったプリムラは、仲間のパーティー・メンバー達と共に狩りに出かける所だった。冒険者ギルドで落ち合った彼女等は、オークションの落札結果をギルド職員から聞いた。
「貴方達、良かったじゃないの! ギルド経由でオークションに出品した灰色のイヤリングが、金貨二十五枚で落札されたそうよ!」
「「「おおっ!!」」」
パーティ・メンバーは喜びの歓声を上げるが、プリムラだけ反応が違った。
「何ですって! それなら私のギルド口座に分配金は振り込んで頂戴! これで貴族院の入学試験の勉強ができるわ! さよならっ!」
「お、おいっ! 狩りはどうするんだよ!!」
パーティーのリーダーである大柄の青年男性がプリムラを問い詰めた。
「目標金額が貯まるまでの約束だったじゃない! これでパーティーは解散よ!」
「「「そ、そんなぁぁぁ!!」」」
こちらに転生しても身勝手な義母であった。
泡姫 「金貨65535枚で!」
セバス 「その半端な数はなんですじゃ?」
泡姫 「え~と、RPGのお金上限的な数」
セバス 「??」
次回の話は翌日の19時になります。
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