003話 聖女アリエル公女殿下の誕生と液体おやつ中毒の聖獣ノワール
泡姫はプリムラが聖女になる事を阻止しようと動き出す。メイドのリリーと護衛騎士のカルミアを引き連れて公爵の屋敷から出ようとすると、執事の恰好をした灰色の髪をした初老の男性セバスチャンに止められる。
「アリエル様。どこかへお出かけでしょうか?」
「ひ、ひぃっ!!」
「「「??」」」
泡姫は恐れをなして悲鳴を上げてしまった。3人は首を傾げて泡姫が落ち着くのを待った。
セバスチャンは公爵家のアリエル公女殿下付きの執事であるが、実は隣国サウスインダス王国からの暗殺者で断罪後に戦争を始める礎として暗殺エンドを引き起こす首謀者である。隣国の主戦派に息子を人質に取られていて、脅されて従っているとシナリオで明かされるキャラクターだった。
「ご、ごめんなさい、セバス……。急に声を掛けられたから、びっくりしただけよ」
「左様でございますか。それでお出かけでしたらお供させて頂きます」
「わ、分かったわ。教会に寄付して聖獣様を見たいのと、その後にオークションで買い物をして見たいわ」
「畏まりました。お金のご用意をさせて頂きますので、馬車でお待ち下さい」
馬車に乗るのは泡姫とリリーにセバスチャンになる。護衛騎士のカルミアは馬に騎乗しながら周囲を警戒してくれていた。自分の命を狙っている暗殺者だと分かっている者との移動は泡姫には苦痛であったが、貴族街から教会までは近いので視線を逸らしながら何とか辿り着ける。セバスチャンは暗殺者である事を除けば優秀で、先触れを出していたようで高位の神官が王都にある大教会前で待っていて、奥の応接室に通された。
ヒロインのプリムラのルートでは貴族院に通っている間に金策をして寄付金を貯めないとならないので、お金に余裕がある公爵家の娘で良かったと泡姫は思った。セバスチャンが寄付金を支払いしてくれて、神官に喜ばれた。
「本日は多額の寄付を頂き、誠にありがとうございます。公女殿下に置かれましては教会で出来る事は何なりと御用命をお寄せ下さい」
「厚かましいお願いかも知れませんが、私は聖獣様を見たいのです」
「おおっ! 御用命を拝命致します。それでは聖獣の祠へご案内致しましょう!」
聖獣を見るだけで多額の寄付が貰えたので、神官は営業スマイルを浮かべている。自ら案内する様で教会の建物を裏口から出て、裏手にある丘の中腹にある聖獣の祠まで案内してくれた。
「こちらが聖獣の祠でございます。聖獣様に手を出されなければ御緩りとご覧頂けます。聖獣様が認められた聖女しか懐かないために、決して手を出さないようにお願い致します」
「そうなのね。私達だけで見たいのだけれど、よろしいかしら?」
「はい。私は教会に戻りますので、お帰りの際に声をかけて下さい」
神官は教会に戻って行った。
石造りの祠の中に3人で進むと通路が奥に向かっていて、壁面と天井の石が発光しているのか淡い光で照らされていた。通路は直ぐに終わって同じく石造りのドーム状の広い空間に出る。その中央には3メートルくらいある黒い毛皮を纏った九尾の猫型の聖獣が丸まって寝息を立てていた。
「うわぁ! 大きいですね……」
「これは見事な聖獣様だ!」
「……」
リリーとカルミアも初めて見たようで感心の声を上げる。セバスチャンは無表情を取り繕っているようだが、一瞬、目を見開いたので驚いたようだ。
泡姫は右腕を〆マークの形に振ってデバッグ・モードを出した。最初のジャンプ等はデバッグ・モードに入るための複雑な手続きなので、以降は腕の振りだけで表示が可能だ。
「さて、猫ちゃんにおやつを上げましょう!」
デバッグ・モードのメニューから『アイテム生成』を選んで、猫まっしぐらな液体おやつをお徳用サイズで出現させる。液体おやつの入った紙箱をリリーに持って貰って、何個か開封して手に持って聖獣に近づいた。
カルミアとセバスチャンが止めて来た。
「あ、アリエル様。手を出すなと神官様が仰っていたではありませんか……」
「アリエル様、危険です。なりませぬぞ!」
「おやつを上げるだけだから大丈夫よ」
泡姫は強引に話を打ち切って、聖獣の口元に開封した液体おやつを翳した。しばらくすると寝ている聖獣の鼻が動いて匂いを嗅ぐ仕草が見える。そうすると聖獣は目を瞑ったまま口を少し開いて、舌の先端を覗かせた。泡姫は液体おやつを聖獣の舌に垂らして様子を伺う。聖獣は舌を口の中に仕舞うと味わうように嚥下した。聖獣は突然に目を見開いて、金色の瞳と共に舌の全体を口から出して来た。泡姫が手に持っている液体おやつを舌に全部乗せると、聖獣は旨そうに口の中で味わった。
泡姫の頭の中に聖獣の念話が響いた。
『そ、それをもっと寄こすのニャ!』
『どうしようかしら? 聖女と認めてくれるなら、いくらでも上げるわよ』
『ぐぬぬ……クンクンクン……。合格だニャ! 仕方があるまい! お主を聖女として認めるニャ!』
聖獣は泡姫の匂いを嗅いでから4つ足で起き上がって奥へ行き、女性を象った石像から前足の爪を使って器用にネックレスらしき物を外すと、泡姫に近づいて渡してくれた。泡姫がネックレスを受け取って首にかけると、石像の様に灰色をしていたネックレスが、一瞬、光って元の色を取り戻した。神聖な力が身体の隅々にまで沸き上がる感覚を泡姫は覚える。ネックレスは金色の台座に星の煌めきを模した配置で宝石が埋め込まれている見事な品であった。アイテム名は『聖女のネックレス』で高位の神聖魔法が使えるようになるアイテムだ。
聖獣は名前を要求して来る。
『我に聖女が名前を付けるのが習わしだニャ』
『そうね……』
泡姫はゲームとしては聖獣の名前をプレイヤーが自由に付けられるのを思い出したが、開発部内で呼称していた黒猫に因んだ名前を提案する。
『それならばノワールでどうかしら?』
『良い名である! 我は今からノワールだニャ!』
聖獣ノワールは名前を喜んでくれると、少しずつ縮んで泡姫の腰位の高さになると後ろ足で立ち上がった。設定的にはケット・シー族なので2足歩行をして人間と同じように手先が器用な種族になる。大きな金色の目をリリーに向けてギラ付かせて、皆に分かるように言葉を話し出した。
「ほれ、眷属になってやったのじゃ。それを寄こせニャ!」
「あっ!」
ノワールはリリーから液体おやつの入った箱を奪うと、肉球の付いた前足で器用に梱包を破って貪付いた。
「……ペロペロペロ。うまいニャーーーーッ!!」
使用人の3人はそれぞれの感想を言った。
「この猫ちゃん可愛らしいですね!」
「私は聖女に仕えられるとは光栄だ!」
「儂はアリエル様が聖女だったとは驚きじゃ……」
これで義母が転生したプリムラが聖女になる道を閉ざした事になる。本来のルートであれば聖獣の好みを辿ってクエスト方式で盥回しにされて、ようやく眷属として契約が出来るのだ。デバッグ・モードのアイテム生成で地球での猫の液体おやつを生成したのでスキップした感じになる。
泡姫は馬車の中で試しにアイテム生成で他の『聖女シリーズ』の生成が可能か試したがリストに並ばなかった。メニューに括弧付きで(ユニークなアイテムは不可)とテオ神に追加され、流石に世界に1つしかないアイテムは生成不可にされたようだ。地道に集める他ないと泡姫は溜息を吐くとテオ神に見つかった。
『あーっ!! また泡姫ちゃんが悪い事している!!』
『出来なくしたのは貴方でしょう?!』
泡姫はテオ神を天真爛漫な設定にしたのを後悔した。
セバス (チラッと泡姫の方に視線を向けた。)
泡姫 (びくっ!!)
ノワール「ニャニャ?」
次回の話は翌日の19時になります。
作品が気に入って頂けましたらログインして、ブックマークをして更新通知をオンにすると便利です。
また評価等して頂けると作品作りの励みになります。




