002話 知らない天井とデバッグ・モードに冒険者食堂の娘プリムラ(義母)
泡姫が目覚めると知らない天井だった。自宅でも義母の家でもなくて、天蓋付きのベッドに寝ているようでベッドの周りを薄布が覆っていた。
「知らない天井……テオ神も居ないし……」
ベッドから上体を起こすと金色の髪が、後方に流れるように滑って行くのが見える。髪を腰の辺りまで伸ばしているようで手に取って見ると金髪なのが分かった。泡姫は髪が痛むので一回も染めたことはないし、腰辺りまで伸ばした事もないので驚いた。
「アリエル様、お目覚めですね」
天蓋付きのベッドを覆っていた薄布が開けられて、メイドの恰好をした茶髪をツインテールにしている女性が顔を出した。その後ろには護衛と思われる騎士の胴鎧を纏った、緑髪を肩の上辺りでカットしている女性が待機している。2人共に外国人の様で、どこかで見た事があるような気がした。
「こ、ここはどこかしら?」
「公爵家のアリエル様の自室でございます」
「!!」
その時に急な頭痛がして泡姫は頭を抱えた。それを見たメイドと護衛騎士は心配して声をかけてきた。
「あ、アリエル様! どこかがお悪いのでしょうか?!」
「い、医者を手配するか?!」
「……い、いえ、大丈夫よ。ちょっと寝違えただけだから」
泡姫はアリエル公女殿下として過ごした記憶が急に蘇って来たので、情報過多で頭痛に見舞われたようだ。自分が何者か悟るとベッドから降りてゲームの世界観の異世界だと認識する。どこまでゲームに忠実なのか分からないので、開発者としての特権を試して見る。
「ジャンプ、ジャンプ、屈伸、屈伸。左反復飛び、右反復飛び、左反復飛び、右反復飛び、キック、パンチッ!!」
ブォォォォォンッ!!
「で、出たっ! デバッグ・モード!!」
「「あ、アリエル様……」」
泡姫の奇妙な行動を見たメイドのリリーと護衛騎士のカルミアが、気でも触れたかのような視線を向けて呟いた。泡姫の目の前には効果音と共にデバッグ・モードのウインドウが映し出される。リリーとカルミアの2人には見えていないようなので誤魔化す事にした。
「ふふっ! ちょっと軽い運動をしただけよ」
泡姫は顔を洗ってからリリーに身嗜みを整えて貰う間に、デバッグ・モードのウインドウを覗き込んだ。
◆デバッグ・モード◆
◆レベル操作
◆所持金操作
◆ワープ
◆イベントフラグ操作
◆オブジェクト操作
◆エンカウント操作
◆鑑定
◆アイテム生成
まずは自分が死んでしまっては意味がないので、オブジェクト操作でアリエルを非破壊オブジェクト指定にしようとして、ウインドウのボタンを押そうとすると頭の中に声が聞こえて来る。
『あーっ!! 泡姫ちゃんが悪い事している!!』
「えっ?!」
「アリエル様。動かないで下さい」
「は、はい……」
後ろで泡姫の髪を梳いているリリーが注意して来た。鏡には十五歳になろうとしている金髪碧眼の美少女が映っていた。
頭の中の声の主はテオ神だったようで説明してくれた。
『僕はテオね。声は出さないで頭の中で会話するようにすると、念話として僕と会話ができるよ!』
『……そう言うのは転生前に説明する物じゃないかしら?』
『えー? 僕、これでも神様だから忙しいんだよ!』
『それで悪い事とは何かしら?』
『デバッグ・モードなんて無闇に使ったら世界が壊れちゃうよ!』
テオ神によると異世界にも理があって、デバッグ・モードで干渉し過ぎると神でも修正が難しい事態になるようだ。
『だから使っちゃ駄目なメニューは封印するから、何かあったら呼んでね!』
『あっ!』
テオ神の気配が消えると共にデバッグ・モードのメニューが切り替わった。
◆デバッグ・モード◆
◆レベル操作(封印)
◆所持金操作(封印)
◆ワープ(封印)
◆イベントフラグ操作(封印)
◆オブジェクト操作(封印)
◆エンカウント操作
◆鑑定
◆アイテム生成(一部封印 ユニークなアイテムは不可)
デバッグ・モードのメニューを見て泡姫はがっかりする。レベルMAXで最強とか、どこへでもワープで移動するような便利な項目が選択不可能になっていた。
しかしアリエル公女殿下は公爵の1人娘なのでお金の心配がないのは、ありがたい感じだ。その点、聖女になる予定だった主人公は平民の出身なので、パートナーを見つけるまでは序盤から中盤にかけて金策で苦労する感じになっている。
一方その頃、泡姫の義母は主人公でヒロインのプリムラに転生していた。プリムラもアリエル公女殿下と同い年の十五歳になる。冒険者食堂の娘で平民ながらに貴族院に通う目標があるので金策を頑張っている所だ。
昼は冒険者パーティーに混じってモンスター退治等を行い、夕方から自宅を手伝ってバイト代を稼ぐ生活をしている。ピンク色の髪をバンダナキャップでまとめていて、今は1階で配膳の仕事を手伝っていた。
「ま、まさかヒロインが、こんなに金策しないとならないなんて……」
「プリムラ! これを3番テーブルに運んでくれ!」
「プリムラ? 自分で貴族院に通いたいって言い出したのだから、今更、何を言っているのよ」
プリムラの父母にこき使われている所だった。3番テーブルの配膳が済むと母に心配される。
「そう言えば貴族院の入学試験がもうすぐでしょ? 勉強は進んでいるの?」
「うへぇ!!」
このままでは金策で勉強所ではないとプリムラは悲鳴を上げた。
泡姫 「(日本語で)上上下下左右左右BA!」
カルミア「アリエル様、新しいおまじないですか?」
リリー 「何だか最強になれそうですね!」
泡姫 (リリーの感が鋭いのが怖い……)
次回の話は翌日の19時になります。
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