033話 エピローグ
貴族院の費用としてディステルにした借金を返さないとならないので、魔王の祭壇から帰って来たら聖女のワンドを譲り渡す交渉を公爵家と教会にした。最終的には教会が買い取る事になってウハウハかと思われたら、支払先が実家の冒険者食堂に支払われてしまう。プリムラは両親に抗議したが、元は母方の祖母の物だったので相続権がある訳もなく、冒険者食堂の増改築費用として計画されてしまった。
そして貴族院に通いつつも冒険者をして稼ぐ平民の者が大半である。自分も冒険者に戻ろうとして前に組んでいた灰色のイヤリングを一緒に見つけたパーティー・メンバーを尋ねると、プリムラの代わりに加入した僧侶の女性は他の冒険者の男性と恋仲になって抜けた様だった。チャンスと思って土下座して急に抜けた事をパーティー・リーダーの大柄の男性に謝るが、新たに2名が加わる様で謝り損になってしまった。
「それでどんな人が入ったのよ!」
「もう女はコリゴリなんで2人共に男だ。1人は赤毛のジスランって奴で、それが良い奴でさ。酒場で意気投合したら、もう1人の紺色の髪の神官でストレイって奴を紹介してくれたんだ。だからこれから各地を回るつもりだ。やっぱ男の友情だよな!」
「「おうっ!!」」
「……」
結局の所、ジスランは隣国サウスインダス王国から引っ越して、こちらでも冒険者としてやって行くようだ。ジスランとストレイは馬が合って、ストレイの遺跡の放浪癖にジスランを巻き込んだ形になる。その旅に彼等3人の男性メンバーを加えて、パーティー・メンバーとして活動する事になった。
ようやく春になって貴族院へ入学する日となった。泡姫の義母だったプリムラは、王都の中央にある貴族院の門を潜って、入学式が行われるメイン・ホールの馬車回で富豪の女傑ディステルが手配した馬車を降りた。他にも幾人かは平民が利用しているが、ほとんどは貴族が利用していて、どんな人が入学するのだろうかと気になって立ち止まった。
富豪の息子ウォードが狼男獣人の奴隷に荷物を持たせて降りて来る。
「プリムラ。先に行っているぞ」
「はい。もう少ししたら行きます」
転生元の日本では春になると咲く桜で入学シーズンを意識が出来るが、こちらではその様な樹木が見当たらないので、まだ実感の薄いプリムラであった。
そこにVIPな新入生を迎えるためにトランが馬車回にやって来た。
「あら、魔王の祭壇に来たお嬢さんじゃないの」
「ここの先生なんですね。私も入学生です」
「そうなのね。今からVIPな新入生が来るのよ。見て行ったらどうかしら?」
「そうします」
しばらくプリムラは待っていると麦穂を円形に配置した中に聖獣が後ろ足で立っている、ここノースグラナリー王国の王家の紋章が入った馬車が止まった。護衛騎士のブレイドとレオンが馬から降りて来て馬車の前に立ち、王族が到着した事を大声で宣言した。2人はルパートに頼まれて今日だけ護衛騎士職に就いている。
「ノースグラナリー王国王太子殿下、ルパート様のお出ましであらせられる! 控えよ!」
「控えよ!」
トランも他の見学していた生徒も、通行の邪魔をしないように両脇に退いて片膝を跪いたので、プリムラも同じようにする。
馬車のタラップをレオンが用意し、扉をブレイドが開いた。まずはルパートが馬車から降りて来て2人から敬礼を受けた。
プリムラは少し目線を上げてルパートを観察した。この金髪碧眼のイケメン王太子が自分の物になるかと思うと胸が高鳴る。
次にブレイドとレオンの2人は、他国の王族が到着した事を大声で宣言した。
「サウスインダス王国王女殿下、トレニア様のお出ましであらせられる! 控えよ!」
「控えよ!」
「えっ?」
ルパートに手を取られながらエスコートされて、トレニアが馬車から降りて来た。プリムラは小さく疑問の声を呟いて話が違うと思った。馬車から降りて来た2人は仲睦まじく、ルパートからトレニアに手の甲へのキスを受けていたりする。女の感で入り込む余地がないのを悟ると、プリムラは下唇を噛んで悔しさに耐えた。
王家の紋章が入った馬車が遠ざかり、続いて公爵家の紋章が入った馬車が止まった。護衛騎士のカルミアが馬から降りてブレイドの隣に並び、セバスチャンとリリーが反対側の扉から降りてレオンの隣に並んだ。セバスチャンの肩にはノワールが乗っていた。馬車のタラップをリリーが調整し、扉をセバスチャンが開く。
ブレイドとレオンとカルミアの3人は、公爵家の令嬢が到着した事を大声で宣言した。
「サウスインダス王国公爵家、アリエル様のお出ましであらせられる! 控えよ!」
「控えよ!」
「控えなさい!」
ヴィンスが馬車から降りて来て護衛騎士の3人から敬礼を受けた。セバスチャンとリリーは一礼する。
プリムラは青髪のイケメン騎士ヴィンスが、聖剣を帯刀しているのを見て仰天した。良く見るとセバスチャンの肩の猫は尻尾が1本だが聖獣に見える。子供の頃の物語で挿絵を見た記憶が蘇り、これも話が違うと唖然として呟いた。
「私、聖女になるんじゃないの?」
ヴィンスに手を取られながらエスコートされて、泡姫が馬車から降りて来た。泡姫は前に降りていたルパートとトレニアと楽しそうに談笑し出した。
プリムラの後ろでは生徒が噂話をしていた。
「アリエル公女殿下って聖女になったと噂を聞いたわ」
「あ、それ私も聞いたことある! あのイケオジの方に乗っかっている猫ちゃんが、聖獣様だって噂もあるよね」
「アリエル公女殿下の婚約者って、あの青髪のイケメンよね? 騎士団長で聖剣を引き抜いて勇者になったと噂を聞いたの!」
「ルパート王太子殿下は良さそうな嫁候補を見つけたよなぁ。俺もあんな愛嬌のある美人を捕まえたい!」
「それトレニア王女殿下だろ。俺はアリエル公女殿下が良いな!」
「絶対に無理だろ! 男爵家のお前が釣り合う訳ない!」
泡姫達がメイン・ホールに入場しようとしたので、プレムラは立って泡姫を呼び止めた。即座にブレイドとカルミアに取り押さえられ、プリムラは両膝を地面に屈せられる。
プリムラを見て、泡姫はヴィンスに義母だと言っていなかった事を思い出した。
「泡姫! なんであんたが聖女なのよ!」
「あっ! それはプリムラ、ちょっとここでは……」
「トランよ。風の結界で会話を聞かれないように出来るか?」
「はい、ルパート王太子殿下。仰せのままに」
トランは小声で風の結界魔法を使って、中の会話が外に聞こえないようにしてくれる。転生者の事実を知らないトランは結界の外で首を傾げていた。
ヴィンスは察したのかプリムラを同郷の転生者だと見抜いた。
「もしかして同郷?」
「そ、そうなの……。ヴィンス、黙っていたことがあって、ごめんなさい」
「ふっ! 誰だって秘密の1つや2つあるから問題ない」
ヴィンスは笑って答えてくれるのが泡姫には眩しかった。
「このピンク髪の女性だけれど、大和の母親の転生した姿よ」
「えっ? 母さんなのか! 俺は大和だけれど久しぶりだな」
「うそっ! 大和なの?! こんなイケメンになって……。良い所のお坊ちゃんになったんでしょ? お金を頂戴」
「「「「「「「「はっ?!」」」」」」」」
「うわっ! 母さんらしい言い方だな! 懐かしい! でも嫌だけれどね」
皆が転生後に再会してお金の工面をするプリムラに呆れた所、ヴィンスは慣れているようで呆気ない対応だった。
プリムラは泣き落としに入った。
「大和がお金をくれないと私は破滅なのよ!」
プリムラは今までの経緯を涙ながらに説明した。大体の事情も知っていた泡姫を含めて、皆から軽蔑した視線を向けられていても動じないプリムラであった。
「泡姫なら知っているのか? 母さんがこのまま富豪の息子と結婚するとどうなる?」
「ゲームではノーマル・エンドなんだけれど、平民としてはお金には困らないから良い暮らしよ。ただ義母のディステルからイビられるのと、ウォードの女癖に手を焼くはず」
「それならば問題ないではないか。アリエル様は転生前にお主にイビられていたのであろう?」
セバスチャンが軽い威圧を込めてプリムラを見つめた。
「ひいっ!」
プリムラが義母だったとは話していなかったが、泡姫が義母にイビられていたのは話していたので皆は同情的になる。ヴィンスはやっぱりと言った顔で頭を抱えた。
「やっぱりイビられたんだな、泡姫」
「ええ、まあ……」
死に別れたとは言え旦那の母親には違いないので、泡姫は歯切れが悪く答えた。ヴィンスは事情を説明する。
「こんな性格なので俺としては遺書に母さんの面倒を見るように入れたんだ。義務的にでも面倒を見ないと、ストーカー紛いでもっと激しく迷惑をかけるのは分かっていたからね。泡姫、すまなかった! もう俺達は死んだのだから過去のしがらみは断ち切って、母さんは母さんで別に生きてくれ」
「そ、そんなぁ……」
実の息子で傷病の騎士エンドの攻略対象だったヴィンスからトドメを刺されたが、追い打ちをかけるように次々と意見が出た。
トゥルーなハッピーエンドルートの攻略対象ルパートが辛辣な意見を述べた。
「この場で不敬の罪で処刑してやった方が、後腐れないのではないか?」
「ひいっ!」
本来は亡国の王女になる予定だったトレニアが意見を述べた。
「転生前のアリエルをイビッていたのでしょう? 今の義母にイビられるのは、当然の報いではないかしら」
「……」
傷病の騎士ルートへのお邪魔虫のブレイドと、ゲームにはあまり出て来なかったカルミアは騎士として意見を述べる。
「今回の王太子殿下と公女殿下に向かって来た件だけでも、不敬で終身投獄されたとしても可笑しくないぜ」
「まったくです。アリエル様、ご決断を!」
「そ、そんなぁ……!」
「ちょ、ちょっと過激よ。皆」
ゲームにはあまり出て来なかったリリーは優しく微笑み意見する。ブレイドとカルミアは支持した。
「アリエル様をイビッていたなんて悪い女ですよね! しかも平民ですよね? 投獄も良いですが、奴隷落ちでも良さそうですよ」
「おっ! それ採用したい!」
「良い提案ね、リリー!」
「う、うわぁぁぁぁっ!!」
ゲームではクエストとして登場していたセバスチャンがまとめた。
「アリエル様もヴィンス様も共通して、このプリムラと関わり合いになりたくないと仰せですので、ここはアリエル様とヴィンス様に近づくのを禁止して、執行猶予で釈放と言った処置でどうでしょうかのう。儂としてはルパート様の意見と同じ後腐れなく処理したい所ではあるのじゃが……」
ルパートはブレイドに指示した。
「そのような方向で裁判をし、公文書を発行して処理せよ」
「はっ!」
「そ、そ、そ、そんなぁ……!!!!」
プリムラは伝家の宝刀の土下座を披露して懇願したが無理され、こうして悪縁が断たれて平和に泡姫達は暮らしましたとさ。
───── おしまい ─────
入学式でイチャイチャして他の生徒から羨ましがられる泡姫達。
後程、トランに釘を刺された。
トラン 「ヴィンス様。イチャイチャは余所でやって頂戴!」
ヴィンス「何か問題でも?」
トラン 「他の生徒が浮つくのよ。明日からの護衛はカルミアにチェンジで!」
完結までお付き合い頂き、ありがとうございました!
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