026話 聖剣の性癖
昨夜は混浴の温泉でヴィンスが鼻血を出したりして泡姫は楽しく介抱した。ヴィンスは転生したので精神は成熟した大人だが、身体が若返ったのでギャップに悩まされるらしい。そこも泡姫には微笑ましく見えるので、享年を合わせると自分の方が年上になった影響もあって楽しかった。
朝になって聖剣が刺さっている岩山の頂上に泡姫達は徒歩で向かう。御者はお留守番だがノワールは同行するようで、いつものようにセバスチャンの背負う魔法鞄の上に陣取っていた。
岩山は観光地になっているようで結構な数の登山者が登っている。やはり男性の方が多いので聖剣は男のロマンである様だ。道も整備されていてハイキング気分でも登れるようなので、皆で楽しみながら登って行った。
岩山の頂上付近は平らに均されていて、中央の舞台の様に高い場所に聖剣が硬そうな台座に突き刺さっていた。台座の前には順番待ちの列が出来ている。聖剣は聖女シリーズと同じように灰色になっていて、柄頭と鍔の所には星の煌めきの配置で宝石が配置されており、鍔は翼を広げたような装飾がされていた。
周辺には出店等があってお祭りの様相があり、ブレイドはワクワクとしていた。
「おしっ! 並ぶか! ヴィンスも並ぶだろう?」
「俺は遠くから見ている」
「お祭り騒ぎなのだから楽しんで来たら?」
「……アリエルがそう言うなら行って来るよ」
「実は儂もやった事がないので行って来るのじゃ」
「お、親父はやった事ないのか。また俺もやってみる!」
結局の所、男性陣は皆がやる事になって列に並んだ。着いて来た女性陣は列に並んでいる男性陣の世話を焼いている者が多く、泡姫達もそれに習った。屋台で買った物を運んで食べさせたり、トイレに行っている間に代わりに並ぶとか甲斐甲斐しく過ごした。
三十分くらいして、もう十人くらいの所で割り込みをする従者の男性と青年の貴族男性が現れた。
「男爵様が挑戦なさる! 退くんだ!」
「そこを退けっ! 我はタラプト男爵なるぞ!」
「お待ちなさい!」
止める間もなくトレニアが最前列に速足で歩いて行って、フードを脱いで顔を晒した。泡姫はカルミアに護衛するように頷いてトレニアの元に向かわせる。
タラプト男爵はトレニアの顔を知らないようで、胡散臭そうに挑発して来た。
「何だ、そこの女! 文句があるのか! 文句があるなら切り捨てするぞ!」
「構いませんが、私に何かありましたら一族郎党が連座で処刑ですよ」
トレニアは左腕のブレスレットをタラプト男爵に見せた。サウスインダス王家の紋章で工業国らしく、杯から炎が立ち昇っている横に聖剣を斜めにしたデザインの紋章が刻まれている。それを見たタラプト男爵と従者は狼狽えた。
「王家の紋章! こんな場所に王族が居る訳がない!」
「疑うのは結構ですが、この国でこの紋章を詐称すると死罪になりますの。言い返させて頂きますと、タラプト男爵などを私は存じませんわ」
「せ、先月に叙爵されたのだ! 王族で知らないはずがないではないか!」
「私、今年から貴族院に通うのでノースグラナリー王国に行っていましたの。今は簒奪の危機があったので一時的に戻って参りました。後で陛下に尋ねますわね。タラプト男爵が私の連れが並んでいる列に割り込んで来て、私を偽物呼ばわりした事を」
「「!!」」
タラプト男爵と従者の顔色が悪くなり、捨て台詞を吐いて逃げて行った。
「き、急な用事を思い出した! 失礼する!!」
「だ、旦那さまぁぁぁぁ!!」
トレニアは手をパンパンと2回叩いて、聖剣抜きの続きを促した。
「さあ、皆様、続きを楽しみましょう!」
「姫様だ~!」
「ありがとうございます!」
「初めて見た! 奇麗だ!」
トレニアはカルミアに護衛されつつ手を振りながら戻って来る。泡姫はトレニアに呆れた。
「まったく無茶をするのだから……」
「貴族を任命する側の責任よね。目の届く所くらいは横暴を許してはなりませんし」
「貴方がノースグラナリー王国に嫁いでくれると安心なのだけれど」
「それはルパート様の努力次第ですわね。でも彼はセバスチャンの助言に耳を貸すのですから芽はありますことよ」
「恐れ入ります、トレニア様」
ルパートに王になる気概がないとトレニアは悟らせてから、セバスチャンの助言でルパートの言動が修正されたので満足そうだった。
しばらくして順番が来て、男性陣が誰から先にチャレンジするかコソコソとし出したので、トレニアがイラついて提案した。
「年齢が高い順にしたらどうかしら?」
「そうすると儂からじゃな」
セバスチャンが先に行くようで、聖剣に近づく。泡姫とノワールに念話が聞こえて来た。
『レベルは申し分ないし、童貞の香りでイケオジだけれど年齢でパスねっ!』
「むぐぐぐ……動かんぞい」
セバスチャンは聖剣を引き拭こうとしてビクともしないので、諦めて戻って来た。
『寝てないのかニャ』
『この念話は誰かしら? ノワール』
『聖剣の念話だニャ。いつも数百年は寝ているのが起きているのが不思議だニャ。男の選り好みが激しい奴だニャ』
『ええっ?! じゃあセバスが童貞って本当なの?』
『本当だニャ。我は処女に引っ付きたいのじゃが、茶髪の小娘リリーに毛が付くからと女からは離されるニャ! ブラッシングが良いので無礼を許してやっているがニャ!
仕方がないので男の童貞でも良いかと、青髪のヴィンスは近寄ると我を遠ざけるのだ……。他に選択肢はなく消去法になるが、灰髪のセバスチャンは引っ付いていられるし良い香りだニャ!』
『それでセバスに引っ付いていたのね。ちなみに大和は転生前だけど猫に引っかかれたことがあるから……』
『我は猫ではないニャニャ!!』
『あら、騒がしいと思ったら聖獣と聖女じゃない。魔王でも現れたの?』
『知り合いがお主を抜きに来ただけニャ。お主は相変わらず男の選り好みが激しいのニャ』
次はジスランのようで、何度か繰り返しているので直ぐに諦めて戻って来た。
「……やっぱり引き抜けないか」
『レベルは申し分ないし、顔は前の勇者に似ていて好きな感じだけど童貞じゃないから駄目よ』
『赤毛はやっぱり童貞じゃないニャ!』
次はブレイドのようで、ワクワク顔をしている。
「俺の方がお兄ちゃんだからお先!」
「数ヵ月だろうが……」
ブレイドの方がヴィンスより数ヵ月の早生まれのようで、聖剣を引き抜きにかかった。
「うぐ……ふごぉぉぉぉ!! ビクともしねぇっ!!」
『レベルは申し分ないし、顔はワイルドで好きだけれどケダモノはパス!』
『茶髪は男女入れ食いニャ』
『ええっ?! 聞かなければ良かった。カルミアは大丈夫かしら……』
最後にヴィンスが聖剣を引き抜きに向かった。聖剣の柄を手の平で握り引き抜こうとする。
ズゴゴゴ……
僅かに台座から持ち上がった様で、台座と刃先が擦れる音が辺りに響いて、聖剣が灰色から元の銀色の刀身と金色の鍔と柄の色を取り戻した。柄頭と鍔の所には星の煌めきの配置で宝石があるがヴィンスの髪色の青に変わった。
『キャーーッ!! レベル高いしイケメンで身体付きもキューート! しかも童貞とか絶対に逃さない! 契約しちゃうから!!』
「ん? やっぱり何か頭の中に声が聞こえたんだが……馬鹿らしいことを言っている……」
ヴィンスにも聖剣の念話が聞こえるようで、引き抜きを中断した。
「ちょっと止めて置くか。むっ! 手が離れないが、これでどうだっ!」
『いやーっ!! 逃したくない、この童貞イケメンを!!』
聖剣の柄から手の平が離れないようで、ヴィンスは全力で腕に力を入れるとやっと離れた。音を立てて聖剣が台座に沈んで行った。
ズゴゴゴ……ゴン!
『ちょ、ちょっと青髪のイケメン君!! あたくしと契約したんだから、童貞の香りを嗅がせて!!』
「アリエル。頭の中に馬鹿らしい声が、さっきから聞こえるのだが……」
「え~と、それは聖剣の念話なのよ」
「……じゃあ抜けなかったと言うことで、次の方はどうぞ」
「に、兄ちゃん。今さっき聖剣が上に動いていなかったか?」
次の順番の男性にヴィンスは譲ろうとするが、後続の人達は聖剣が音を立てて台座から抜けそうになっていたのを見聞きしたので、信じられない物を見るような目でヴィンスを問い詰めた。
「俺には抜けなかった。そうですよね?!」
「「「「そ、そうだ…な!!」」」」
ヴィンスは本気の威圧をして周囲を黙らせると行列から立ち去る。泡姫達はヴィンスの後を追った。
『青髪のイケメン君!! 契約したんだから呼びなさいよね!! 絶対だからねっ!!』
岩山の露店が賑わう周辺まで来ると、喚いていた聖剣の念話が聞こえなくなる。ブレイドが耐えきれなくなってヴィンスを呼び止めた。
「おい、聖剣が抜けていたようだが、何で止めたんだよ!」
「あんな馬鹿らしい剣は要らない」
ヴィンスは聖剣の最初の声から聞こえていたようで、聖剣の男性陣への評価を聞こえていなかった皆に1人ずつリピートして教える。男性陣は憤慨すると一致団結して無かった事にして岩山を降りる事になった。
泡姫 『聖剣は男性の選り好みが激しいけれど、聖獣のノワールはどうなの?』
ノワール『我は処女でレベル30以上あれば何でも良いニャ!』
泡姫 『しばらくチュ○ルは抜きね』
ノワール『ニャニャ!?』
乙女の心情が分からないノワールであった。
次回の話は翌日の19時になります。
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