023話 聖女の試練ダンジョンと究極の混沌魔法
泡姫達はサウスインダス王国の王都から離れて聖剣村に向かう事になった。その途中にある聖女シリーズのあるダンジョンに立ち寄る予定だ。カルミアとブレイドは馬に乗って護衛し、他は馬車に乗っている。
泡姫は王都近くの転移門から聖女シリーズのあるダンジョン近くの古代遺跡に飛ぶと、馬車の中で首を傾げた。
「う~ん、聖女シリーズのあるダンジョンか……。何か忘れているような気がするわ」
「強い魔物が出るとか?」
ヴィンスに聞かれても泡姫は思い出せなかった。
「いえ、聖女に最適なダンジョンだった気がするけれど、そんなに強い魔物は出なかったはず。まあ行って見れば分かるわね!」
暗殺エンドフラグから逃れられたので、お気楽な気分の泡姫だったが聖女シリーズのあるダンジョン前に着くと、一気に記憶が戻って泡姫は叫んだ。
「あーーっ!! ここホラー・ダンジョンじゃない!! 女性プレイヤーに不評だった所だわ!」
「ホラー? そうなるとアンデッド系の魔物が出るのか?」
「うん。私、凄く苦手なのだけれど……」
「あ、あ、アリエル様……」
カルミアも駄目なようで足が震えていた。リリーはいつものように御者と馬車で留守番なので、馬車まで急いで戻って行った。
「み、皆様。お、お気をつけて、いってらっしゃいませぇぇぇ!」
仕方がなさそうに溜息を吐いて、セバスチャンが年の功で割り振りを決めた。
「ふぅ、ここは女性にはキツかろうて、儂が割り振りを決めるぞい。アリエル様はヴィンスに抱っこされるが良いぞ。アンデッドならば神聖魔法でイチコロじゃろう。アリエル様の腕の方向をヴィンスが向けてやるが良いぞ。そうすればアリエル様は目を瞑っていられる」
「そ、それは妙案ね! ヴィンス?」
「ふっ! アリエルにも苦手な物があるんだなと思うと、可愛らしくてごめん」
「ヴィンス……」
「アリエル……」
「…………コホン!」
「「あっ!」」
2人はいつまでも見つめ合っていたので、セバスチャンの咳払いで我に返った。
「それで続きじゃが、カルミアはブレイドが守れば良かろう」
「お、お願いします。ブレイドさん」
「おうっ! 任された!」
「トレニア様はジスランで良いかのう?」
「私はレベルが上がれば嬉しいですわ。アンデッドは怖くありませんことよ。足手纏いかも知れませんが、よろしくお願いしますわ」
「本物のお姫様の護衛なんて腕が鳴るな!」
ノワールは尻尾を1本にして、セバスチャンが背負っている魔法鞄の上に乗った。
「聖獣様。人目を気にする事に、ご協力ありがとうございます」
「アリエルが聖女だと隠したいって言うからニャ。気にするニャ!」
「中層くらいから人目もなくなるので、存分に力を振るって頂きたい」
「任せるだニャ!」
ホラー・ダンジョンの入口辺りには行きかう冒険者があり露店が立ち並んでいるので、聖女だと隠したい泡姫にノワールは協力してくれていた。しかしカルミアは足が震えながらもブレイドに引っ付いて歩いているが、ヴィンスにお姫様抱っこをされている泡姫は凄く目立っていた。
一行はホラー・ダンジョンに突入する。ここの正式名称は『聖女の試練ダンジョン』と言って、聖女がパーティーに居てボス討伐をすると、聖女シリーズが取得できる宝箱が湧くようになっている。ちなみに聖女が居ないと宝箱には他の物が入っているようだ。
「浄化! 浄化! 浄化! 浄化! 浄化!!」
泡姫はヴィンスの首元に顔を埋めており、ヴィンスが泡姫の腕を握って照準を定めていた。宛ら泡姫と言う名の銃をヴィンスが撃っているようで滑稽だった。腕を握った強さでピュリフィケーションの強さを決めているようで、泡姫は固定砲台に徹していた。
スケルトンやゾンビ系のアンデッドな魔物達は泡姫の神聖魔法に直撃すると、魔石を残して登場間もなく消えて行った。その様子を見たブレイドが羨ましがる。
「それ俺もやりたいんだけれど!」
「ああん?!」
ヴィンスはブレイドを睨んで牽制した。泡姫を抱っこさせたくない一心である。カルミアがブレイドに甘える。
「ぶ、ブレイドさんは私を見捨てるのですか?」
「それはないな! カルミアは俺に引っ付いていれば良い!」
「キャッ! またゾンビ!」
「おらっ、よっとっ!」
ブレイドは下心丸出しであるがカルミアは、それに気づく余裕がなかった。
トレニアに忍び寄って来たスケルトンをジスランが剣で倒した。
「結構、お強いのですね、ジスラン」
「まあ勇者を目指して冒険者をやっていたからな」
ノワールはセバスチャンが背負っている魔法鞄の上から降りて魔石を拾い、鞄に収める係になっている。
そのような感じで上層は突破して、中層に入るための階層ボスの部屋に到達した。泡姫が見て良いかヴィンスに尋ねた。
「ヴィンス。私が見ても平気な魔物かしら?」
「いや、大きなスケルトンにゾンビが一杯だから、止めて置いた方が良い」
「……腕を向けてくれる?」
「良いぞ」
「光よ! 魔を調伏する破邪の大波となれ。浄化波動!!」
泡姫の手の平から光の波が発生し、階層ボスに到達すると跡形もなく光の粒となって消え去った。範囲浄化魔法を見た皆が驚く。
「す、凄いなアリエル!」
「アリエル様のお陰で助かります!」
「お、俺の活躍の場が……」
「聖女に神聖魔法ですわね!」
「い、一瞬だった……」
「お見事でございます。アリエル様」
「そろそろ我も加勢するニャ!」
宝箱が湧いたのでセバスチャンが罠を解除して中身を取り出すと、灰色のブーツが入っていた。泡姫が装着すると、一瞬、光って元の色を取り戻して純白の『聖女のブーツ』が現れた。聖女のブーツには金色に輝く翼の装飾が施されていた。
「聖女のブーツね。確かこれを履いていると飛べるんだけれど……キャッ!」
「うわっ!」
ヴィンスが抱きかかえたままに泡姫と一緒に浮かび上がり、ボス部屋の天井付近を周回してから床に戻って来た。その様子を見たブレイドが羨ましがる。
「俺にも……」
「駄目だ!」
「チッ!」
ヴィンスに否定されてブレイドは舌打ちした。
ここからは通常の冒険者に攻略が厳しくなるので、姿が見えなくなったのもあり、ノワールはセバスチャンが背負っている魔法鞄の上から降りて巨大な猫になった。セバスチャンが魔石を拾う係になる。中層からはアンデット系の魔物の数が増えたので、泡姫は遠慮なく範囲浄化魔法を使う。
「光よ! 魔を調伏する破邪の大波となれ。浄化波動!!」
「ニャニャ! アリエルは少し範囲浄化魔法を抑えるニャ。我の活躍がなくなるニャ!」
「分かったわよ。ヴィンス、囲まれたら言ってくれたら範囲浄化魔法にするわ」
「了解」
中層はノワールが大活躍で、泡姫は単発浄化魔法を連射して済んだ。
下層に入ると範囲浄化魔法が大活躍して、あっという間に最下層の最終ボス前まで到着した。最下層の最終ボスは巨大なリッチを中心として、ドラゴン・ゾンビや大型の魔物のゾンビが大量に周りを囲っていて、女性陣泣かせの構成になっていた。
流石にアンデッドが怖くないトレニアも根を上げた。
「私も気持ち悪くなってきましたわ……」
「我はまだ遊びたいニャ!」
「「「「「「「あっ!」」」」」」」
撤退の雰囲気と勘違いしたノワールがアンデッドの群れに飛び出していく。戦闘が始まってしまったので、泡姫は驚いてノワールの向かって行った方向に目を向けてしまった。
「!!」
「あ、アリエル?」
ヴィンスが心配するが、泡姫は大型の魔物のゾンビ群を直視してしまう。泡姫はヴィンスと共に浮かび上がって、究極呪文を唱え始めた。
「聖なる光よ!」
泡姫の右手に眩いばかりの光が灯った。この呪文はこの世界の創生に関わる設定から考えていたが、実装されずにお蔵入りになっていた呪文である。
「邪なる闇よ!」
泡姫の左手に漆黒の闇が溢れて来る。両手の平を祈るように合わせると、光と闇が混ざり混沌が産まれた。それは光っているようでもあり、常しえの闇が広がっているようにも見える不思議なエフェクトを保っていた。
「神をも滅する無となりて、混沌の海に沈めよ」
泡姫の呪文の呟きで大型の魔物のゾンビ群の下に、陰陽のようなマークが描かれた。静かに強く呪文を解き放つ呪文名を最後に唱えた。
「混沌必滅!!」
その瞬間、陰陽のようなマークは混沌の海に代わり、大型の魔物のゾンビ群を飲み込んだ。最終ボスである巨大なリッチも半分が飲み込まれて下半身を失ってしまった。リッチは上半身だけで這いずり回っていて、ノワールが相手をしてくれていた。その時間稼ぎが功を奏して泡姫のMPが次に1回を使う分くらいは回復したので、リッチの上まで飛んで行く。
「トドメよ! 其は光の調伏者なり。清浄なる銀の刃で破邪となれ。完全浄化!!」
泡姫はリッチにパーフェクト・ピュリフィケーションでトドメを刺した。リッチは成すすべもなく光の粒となって消え失せた。後には床に大量の魔石と中央に宝箱が現れて、聖女の試練ダンジョンの攻略が完了した。
カルミアに抱きついて鼻の下を伸ばすブレイド。
ブレイド「このダンジョンは最高だな!」
泡姫を抱っこしているヴィンス。
ヴィンス「その意見には賛成する!」
ブレイド「たまには交換しねぇ?」
ヴィンス「それは駄目だ!」
次回の話は翌日の19時になります。
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