021話 聖戦の終結と聖女と勇者の条件
セバスチャンの息子の救出が済んだので、一旦、転移門のある遺跡に退却する事になった。セバスチャンはカルミアの乗っていた馬を借りてジスランと共に服を調達するようで領都内で別れる。
その頃、開始時刻になったので、ヴィンスの後継者が率いる第1騎士団が動き出した。カイロス子爵の領都に潜入して、城からカイロス子爵の一家を拘束して連行する作戦だ。泡姫のエンカウントの確率ゼロ効果によって城内に侵入出来たトランは驚きの連続だった。
「聖女様の技だか魔法は凄いわね……。皆が避けて行って、大声だろうが音を立てても無関心だし」
「カイロスは子爵であるので無力化しないとならない護衛が多い。油断をしないように」
「そうね」
ヴィンスの後継者レオンに言われて、トランは気を引き締めた。レオンはブレイドの従弟で幼馴染でありブレイドとは違い真面目な性格だった。トランは最後の魔術具の設置を部下から報告されてレオンに伝えた。
「魔術具の設置が終わったわよ。これで脱出ルートの確保が出来たわ」
「よしっ! 全員でかかれっ!!」
「「「「「「「「「「……おおっ!!……」」」」」」」」」」
レオンの号令でカイロス子爵の一家が第1騎士団によって次々と拘束された。突然に姿を現した武装した集団にパニックになるが、レオンとして要所は抑えているので、大した抵抗は出来ないと思い込んでいた。
昼間から寝室で情事に耽っていた、黄髪で壮年の男性であるカイロス子爵が喚く。
「な、何者だ! 金ならいくらでもやるので見逃してくれっ!!」
「うるさい、黙れっ!」
「ぐむむぐぅ……」
レオンに猿轡を噛まされてカイロス子爵は黙らされた。しかし騒ぎを聞きつけたのか寝室の奥の隠し通路から、護衛騎士達が乱入してきて乱戦になる。リーダーと思わしき人物と共に4人の手下が突入して来た。
「賊を捕らえよっ!」
「「「「おおっ!」」」」
まさか昼間からカイロス子爵が寝室に居るとは思っていなかったレオンは、設定資料集にあった城の間取りの寝室まで考慮していなかったのを嘆く。
「こんな所に隠し通路かよっ! お前達、押さえろっ!」
「「はっ!」」
レオンは部下に護衛騎士達の押さえを任せるが、多勢に無勢なので押し負けられそうになった。仕方なしにカイロス子爵を人質にしようとすると、トランが駆けつけて来て魔法を放った。
「風よ! 突風となって散れ。真空突風!!」
「「「「「「うわぁっ!!」」」」」」
バキューム・ウインドの本来の使い方は突風で対象を吹き飛ばす魔法だが、群衆の中で使うと急激な減圧によって真空状態になって呼吸不全になり意識を失わせる魔法になる。レオンの部下達とカイロス子爵の護衛騎士達をまとめて気絶させた。
レオンが怒鳴った。
「おいっ! 味方を巻き込むとはどういう領分だ!」
「あら、ピンチだったのだから仕方がないじゃないの。その為にストレイが来ているでしょ」
「う~む。僕は味方にやられた者を治療しに来た訳じゃないんだが……回復!」
レオンの部下達はストレイ達の教会兵の回復魔法で意識を取り戻し、護衛騎士達を拘束して行った。トランが号令をかける。
「さあ、簒奪の証拠を入手したら、これで引き上げるわよ!」
「お前が仕切るな!」
これでカイロス子爵の一家を拘束する作戦は成功した。
同じ頃、開始時刻になったので、ブレイドが率いる第2騎士団が動き出した。ヘイロー男爵の領都に潜入して、城からヘイロー男爵の一家を拘束して連行する作戦だが即座に終了する。
ブレイドは舌打ちしてボヤいた。
「チッ! 不甲斐なかったな。数の勝利は嫌いじゃないが物足りないのも事実だ。俺もヴィンスに同行すれば良かったな」
ヴィンスのグループにはカルミアが含まれているのでイチャイチャする可能性があり、強制的に第2騎士団を任された経緯があるのを忘れているブレイドであった。
部下が簒奪の証拠となる手紙の束を見つけた様だ。
「ブレイド団長! ヘイロー男爵がドレイクとカイロスに宛てて簒奪を企てている内容の手紙の束を、書斎の隠し棚から発見しました!」
「聖女様の情報は正しかった訳だな」
設定資料集は恐ろしいほどに正確で、自分について書かれている部分をヴィンスに翻訳して貰った所、「飄々としていて掴み所がない軽い性格」と笑われながら読まれて腹が立って聞かないようにしていた。
しかしヴィンスが魔の森で傷病の騎士になる件を、設定資料集で聞かされた時は心がざわついた。本来はあの時に聖女としてアリエル公女殿下が現れない物語が紡がれていたらしい。ブレイドとしてはカルミアとも出会えたしアリエル公女殿下には感謝しかなかった。
「よしっ! 引き上げてドレイク伯爵領に向かうぞ!」
「「「「「「「「「「……おおっ!!……」」」」」」」」」」
セバスチャンと養子の息子ジスランが、転移門のある遺跡に戻って来た。
ゲームだとジスランは|心的外傷後ストレス障害《PTSD》を発症して幼児退行するのだが、魔法でも治療が出来ない心の病に泡姫は会うのを躊躇った。しかしゲームと違いこちらの動きが早く拷問が短期間で終わったので、少しビクつく物のそれ程に酷い状態に見えないので助けて良かったと思えた。
ジスランが片膝を跪いてお礼を言って来た。セバスチャンも隣で同様にしている。
「セバスチャンの息子ジスランと申します。この度はアリエル様に救って頂き大変に感謝しています。最上位魔法を3回も使って頂き、この恩をどう返せばと悩んでいます」
「私が救われたジスランを見たかったのよ。初めて使った魔法もあったから身体の調子はどうかしら?」
2人を立つように泡姫が仕草で示すと、セバスチャンが手伝ってジスランが立った。まだ身体を動かし慣れていないようで動作がギクシャクしていた。鑑定でジスランを見ると「拷問の影響が僅かに残る」とあるのでセバスチャンに注意した。
「セバス。ジスランを鑑定したのだけれど、怖い思いをした影響が僅かに残っているようだから、注意して上げて」
「お心遣い感謝します、アリエル様。ジスラン、今夜は儂と一緒に寝るであるか?」
「もうそんな歳じゃないぞ!」
「ジスランはセバスにしばらくは甘えなさい。これは私への恩を返した事になります!」
泡姫は強引に事を進めると、ジスランは頭を掻いて素直になった。
「アリエル様にそこまで言われたら、そうさせて貰うよ、親父。しかしこれからどうすっかなぁ。親父に認められる冒険者になりたかったんだが、聖剣は抜けなかったしなぁ」
「やはり抜けなかったであるか。お主の父はレベル三十を超えた時に抜けたのであるが、何か他に条件がありそうじゃな」
セバスチャンが背負っている魔法鞄の上に居るノワールが、ジスランの匂いを嗅いでから言った。
「この赤毛は童貞じゃないから抜けないニャ!」
「「「「「「えっ?!」」」」」」
ノワールの問題発言に皆が驚く。
「ちょっとノワール。もしかしてだけれど初対面の時に私の匂いも嗅いでいたでしょ? 聖女のネックレスにも、そう言う条件があるの?」
「処女でレベル三十以上だニャ」
レベル三十以上の条件はゲームでも同じであるが、童貞や処女の条件を設定した覚えが泡姫にはなかった。普通は仮にその条件が正しいとしてもレベル三十以上にするには結構な努力と時間が必要なので、子作りをしない選択肢を選ぶ者は少ないので大部分の者が脱落する事が予想出来た。
アリエル公女殿下はゲームだと悪役令嬢だったのでレベルが高く、今回に聖女のネックレスを取りに行った時でレベル三十四だった。これは貴族院へ入学前に領軍を使ってパワーレベリングをしていたお陰だ。ギガントロールを討伐し、魔王の祭壇まで行って魔の森から帰った出た時点でレベル六十二まで上がったので、レベルだけで見れば普通の騎士を超えて倍以上に高くなっていた。
「ノワール。ひとつ気になったのだけれど、まさか聖剣と聖女のネックレスは童貞とか処女を失ったら、使えなくなったりしないわよね?」
「それはないニャ。でも聖剣と聖獣からの加護が薄くなるニャ」
「勇者と聖女としての力が弱まると言うこと?」
「そうだニャ。多分、勇者が童貞を失った時に聖剣からの加護が薄くなって……いや、もしかすると聖剣のことだから、一時的に加護が無くなって加護の消失感も加わってポックリ行った可能性があるニャ」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
衝撃の事実に皆は言葉を失う。聖女のネックレスが色を取り戻した時の、神聖な力が身体の隅々にまで沸き上がる感覚が失われた時を想像すると、あながち間違いでもなさそうな感じだ。
ヴィンスが時間を告げる。
「アリエル、もう迎えに行く時間だ」
「あら、もうそんな時間……。私達はしばらく滞在する予定ですので、ジスランが良ければセバスチャンの居るノースグラナリー王国にいらしても良いですし、先の事は少し考える時間がありますよ」
「考えて見る! ありがとう、アリエル様!」
泡姫は第1騎士団と第2騎士団を、転移門を使ってドレイク伯爵の領都側に呼び寄せる。カイロス子爵とヘイロー男爵の拘束した一家は少数の見張りを残して、転移門のある古代遺跡に残した。
そしてエンカウントの確率ゼロ効果を付与して、第1騎士団と第2騎士団を引き連れてドレイク伯爵の城内に侵入する。今日は城の中庭でパーティーがあるようで領主一家が揃って出席しているので好都合な条件である。第1騎士団でパーティーを行っている中庭を囲み、第2騎士団で騎士舎を囲んだ。
夕方になってパーティーの開催を、橙髪で壮年の男性であるドレイク伯爵が祝杯と共に宣言した。
「本日は我が誕生日にお越し下さり、誠にありがとうございます! 今宵は酒と料理を存分に楽しんで行って下され。乾杯っ!」
「「「「「「「「「「……乾杯っ!……」」」」」」」」」」
乾杯が落ち着いて少しすると、騎士が1人やって来てドレイク伯爵に小耳を挟んだ。ジスランが牢から脱走した事が知られたようで、ドレイク伯爵は驚いていた。それを後ろから観察していたセバスチャンが全方位の威圧を放ち、それが合図になって大捕り物がスタートする。
「ドレイク伯爵の一家を捕らえよ!!」
「「「「「「「「「「……おおっ!!……」」」」」」」」」」
ヴィンスの号令で中庭に居たドレイク伯爵が拘束された。突然の威圧と大捕り物にドレイク伯爵側は何の抵抗もなく拘束が終わった。第2騎士団にも伝令が走って、騎士舎の騎士についても無力化した。
ドレイク伯爵は、まだ状況が分かっていないようで疑問を投げた。
「な、なんの権限があって我等を拘束するのだ!」
「仕方がないニャあ……」
セバスチャンが背負っている魔法鞄の上からノワールが降りて、巨大な猫の姿に戻る。
「こっちが当代の聖女でアリエルだニャ。お前は聖女を暗殺しようとしたニャ。聖戦を発動したニャニャ!」
「「「「「「「「「「……せ、聖獣と聖女に聖戦っ!?……」」」」」」」」」」
聖戦の討伐対象に指定された人物なり団体は、世界各国の教会から敵視されて撃ち滅ぼされるまで追われることになる。小さな頃から物語で読み聞かせられていたので、大人から子供まで幅広く聖獣と聖女に聖戦は浸透していた。聖女と共に魔王を倒す勇者も人気であった。
ドレイク伯爵は白を切るつもりのようだ。
「どこに聖女暗殺の証拠があるのだ!」
「お主からの手紙がここにあるのだ。惚けるとは何たる事だ!!」
「あ、灰色のセバス! な、なぜここに! それと捕まえていた息子まで!!」
「酷い目にあったぞ!」
セバスチャンとジスランに詰め寄られてドレイク伯爵は驚愕した。
トランとストレイの別動隊が城の中から戻って来て、国家簒奪の証拠を持って来た。
「はいはぁ~い! お望みの手紙やら書類を見つけて来たわよん! トレニア様」
「書類の山から見つけたのは僕なのだが……」
「ふふっ! 優秀ですね。ありがとうございます」
「「「「「「「「「「……と、トレニア王女殿下っ!?……」」」」」」」」」」
セバスチャンとジスランの後ろに控えていたトレニアが、トランから国家簒奪の証拠を受け取った。「あらあら、まあまあ」と呟きながら、叔母の公爵夫人アマリリスと似た仕草でざっと読んだ。
「ドレイク伯爵。聖女様はカイロス子爵とヘイロー男爵の一家も捕まえてくれたのよ。もちろん証拠の書類も押収したわ。国家簒奪を企てていないと陛下に顔向けできますでしょうか?」
「ぐぬぬぬぬぅぅ……」
「トレニア様。処刑は儂にやらせてくれんかのう」
「それはなりません。セバスチャンはもう他国の者なので、その願いは聞き届けられません」
「そうですか……儂に暗殺強要するためにジスランを誘拐して拷問した恨みは晴らしたいのじゃが」
「親父……」
トレニアは泡姫を見ると頷かれたので期待に応える事にしたようだ。
「分かりました。家族に向けられた恨みならば同じようにしましょう。処刑の順番を女性と子供から行って、最後に伯爵本人としましょう。もちろん伯爵には処刑を最後まで見て頂きます」
「トレニア様に最大限の感謝を!」
「なな、な、なんという仕打ちだ…………」
セバスチャンは大満足のようだが、泡姫はドン引きした。ドレイク伯爵は絶望に打ち拉がれる。
聖戦の後始末を付けるのに2週間くらいかかった。
ブレイド「俺、カルミアの方に行きたい!」
ヴィンス「イチャイチャするから駄目だ」
ブレイド「お前とアリエル様は良いのかよ!」
ヴィンス「……」
次回の話は翌日の19時になります。
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