020話 執事セバスチャンの息子ジスランを救出したら?!
聖戦の軍団を王都の近くにある古代遺跡の転移門前に集合させる。泡姫はデバッグ・モードの『エンカウント操作』で皆をゼロ指定した。遺跡好きのストレイが今か今かと待ち構えているので、馬車から降りて石造りの門に触れると、行先の選択肢を示すウインドウが表示された。
「え~と、カイロス子爵の領都近くの遺跡にポチッとな!」
聖女のイヤリングが光って門の扉の表面に光が移って波打ち、渦を巻いた七色の光の膜で覆われた。ストレイは感激の余りに泣き出した。
「う、うわぁああん! 転移門が開いたぁ!!」
「はいはい、良い子だからあんたも行くのよ」
トランが感動に打ちひしがれているストレイを引っ張って、渦を巻いた七色の光の膜の中に消えた。その後にヴィンスの後継者が率いる第1騎士団が続いて入って行く。続けてブレイドが率いる第2騎士団を同様にヘイロー男爵の領都近くの遺跡に送り出す。
最後にドレイク伯爵の領都近くの遺跡に転移門を開いて、残った泡姫と共にセバスチャンとカルミアとヴィンスとトレニアの5名が移動した。移動に使用した馬車は救出中、非戦闘員の御者と一緒にリリーが残る段取りになっている。
馬車はドレイク伯爵の領都までの道程を行くが、エンカウントの確率ゼロ効果が発動しているので何者にも見つけられなかった。道の向こうからやって来る馬車等も勝手に避けてくれるので楽である。
ヴィンスは遠ざかる対向馬車を見送って呟いた。
「これは凄いな」
「テオ神のお陰ですね」
そう泡姫は言うがゲームのシステムを、そのまま理として組み込んだズボラな神様だと内心では呆れていた。領都の入口に差し掛かり、門番が待ち構えているので御者が聞いて来た。
「あ、アリエル様。流石に門は通れないと思いますが……」
「大きな馬車と一緒に通りなさい。私達が通っている間は門が閉められないから大丈夫」
「そ、そうですか。仰せのままに」
泡姫の言う通りにすると、門を素通り出来た。泡姫達の乗る馬車が通り抜けると門が閉まったので、リリーが楽しそうに笑った。
「本当ですね! これならどこにも入れそう!」
「そのまま領主の城に入って頂戴。入ったら右手の騎士舎に向かって」
「は、はい……」
領主の城の門も同じように潜って、城の右手の騎士舎の前で馬車は停まった。泡姫達が馬車から降りても、領軍の騎士達は存在しない物として扱ってくれるので問題なかった。
「それでは行ってきますね。2人は自分からちょっかいを出さなければ、見つからないから安心して待っていて」
「「はい」」
泡姫達は騎士舎の地下にある地下牢に向かうべく、騎士舎の中に堂々と入って行った。昼食前のようで当番の騎士以外は食堂に集まっているようで地下牢への入口には簡単に行けた。地下牢に続く階段を下って行くと騎士の詰め所があり、当番の騎士が1人だけ暇そうに監視していた。
セバスチャンが詰め所に入り、騎士の後ろから口の中にピンク色の小瓶に入った液体を流し込んだ。即座に騎士の聞き手を背中側に封じ、もう一方の片手で騎士の鼻と口と塞ぐと液体を強引に飲み込ませる。騎士は身体を幾度か痙攣させてから白目を剥いて気絶してしまった。
泡姫は心配になって聞いてみた。
「せ、セバス。こ、殺してしまったのかしら?」
「いえ。アリエル様から頂いたテオ神様の祝いの媚薬を使ったまでじゃ」
「ええっ!? あの媚薬でこんな風になるの?」
「……この騎士は絶頂してから失神しておりますので、ご褒美ですな」
「「「「……」」」」
セバスチャンは騎士の鎧の隙間から股間の湿り気を探って報告した。他の4人はドン引きして無言になった。セバスチャンは媚薬を色々と実験したようで牢屋の鍵を探している間に、その時の様子を話してくれる。息子ジスランに再開が出来そうなので上機嫌な執事であった。
地下牢の入口の鍵を開けて牢屋の奥に進むと、一番奥の牢屋から呻き声が聞こえて来た。泡姫はゲームでのクエストで中の状態が分かっているので、セバスチャンを引き留めて注意した。
「セバス、言っていなかった事があるの。貴方の息子ジスランの命は無事なのだけれど、ちょっと状態が良くないの」
「そ、それはどう言う事ですかな?」
「私なら完全に元の状態に戻せるので、決して自暴自棄になって飛び出して行って復讐をしたりしないで頂戴。この報いはサウスインダス王国の王家が必ずしてくれるわよね、トレニア?」
「私、トレニア第2王女の名に置いて、ドレイク伯爵一族の連座を保証致しますわ」
「……わ、分かりました。耐えて見せます」
セバスチャンが珍しく震える声で勇気を振り絞っていた。ドレイク伯爵一族は国の簒奪を企てていたので、一族郎党を根絶やしに処刑する連座はサウスインダス王国の法として妥当であった。
「ヴィンス、お願い」
「ああ」
セバスチャンは牢屋の中が見えない状態で立ち止まっていた。背負っている魔法鞄の上に居るノワールがセバスチャンの目と耳を塞いでくれた。セバスチャンから牢屋の鍵を受け取ってヴィンスが開けようとすると、中から死を請願する呻き声が聞こえて来た。
「こ、これは酷いな……」
「うぅ…こ、殺してくれ……」
「ああっ……」
「トレニア様!?」
惨状を見たトレニアは目眩がしたようで、倒れそうになったのをカルミアが支えた。牢屋の中は糞尿塗れで赤髪の全裸の青年男性が壁に鎖で拘束されて、前のめりに俯いている。手足の爪は剥がされ、身体中に鞭で打たれたミミズ腫れが走っていた。焼き鏝で焼き印が所々に押されており、牢屋の中には糞尿の匂いと共に皮膚の焼けた匂いが充満していた。
セバスチャンは見ない事に耐えられなかったようで、ノワールの手を引っぺがすと牢の中に駆け付けた。惨状を確認するとヴィンスを促した。
「……ヴィンス様、手伝ってくれますかな?」
「は、はい」
ヴィンスが手枷と足枷の鍵を外し、セバスチャンと2人して牢の外にジスランを連れ出して床に寝かせた。泡姫は最上位魔法を連続してジスランに唱える。
「其は光の調伏者なり。清浄なる銀の刃で破邪となれ。完全浄化!」
「其は光の調伏者なり。清浄なる破邪の息吹で包み給え。完全病魔退散!」
「其は光の調律者なり。清浄なる癒しの腕で包み給え。完全回復!」
最上位魔法の連発で精神的に疲れて泡姫は目眩がするが、ヴィンスが気付いて支えてくれた。パーフェクト・ピュリフィケーションの本来の使用目的は穢れ等の浄化であるが、汚物や毒素も消え去るので糞尿塗れのジスランの洗浄に使用した。パーフェクト・キュアは感染症の疑いがあったので病気を完全に治療する目的で使用した。最後にパーフェクト・ヒールで手足の爪や焼き印の後や、しばらく動いていなかった筋力不足についてもジスランは完全に回復して健康体になった。
セバスチャンは背負っていた魔法鞄からマントを出すとジスランを覆って抱きかかえた。やっと救出した実感が湧いたのか嗚咽が漏れる。
「ううっ……儂が暗殺者などをやっていたばかりに……」
「クンクンクン……この赤毛から勇者の匂いがするニャ!」
「「「「えっ?!」」」」
「……聖獣様にはお判りになりますか。ジスランは勇者の一粒種で、養子の息子になります」
「「「「!!」」」」
泡姫もジスランが勇者の子供だった事を知らなかったようで、皆と一緒に絶句した。
帰りがけにセバスは騎士舎の食堂に寄った。
泡姫 「せ、セバス。まさか……」
セバス 「本当は全員を殺してやりたいのじゃが、せめてもの復讐ですじゃ」
ヴィンス「敵が行動不能になるのは間違いないから作戦的には悪くない」
トレニア「あとで騎士舎が臭くなりそうですわね」
皆 「「「「「……」」」」」
変な方向に博識なトレニア王女殿下であった。
次回の話は翌日の19時になります。
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